11.23.Side-ナルファム-防衛勝利
引火した炎は一気に燃え上がり、穴を囲っていた廃材に燃え移る。
火柱を上げて燃え続けるそれは出てきた化け物を尽く焼いていった。
設置されている廃材は、穴から二十メートルまで広がっている。
そう簡単には出てこられないようで、化け物は燃えて死んで、灰となってそれがまた燃えて他の仲間を焼く。
悲鳴が絶えず木霊していたが、一時間ほど経てば炎の勢いが弱くなる。
そこで号令が出された。
「薪を追加しろ!!」
騎士団長の指揮で騎士団の仲間と冒険者が一斉に薪を投下していく。
連投されたそれらには酒や引火する液体が染み込んでおり、少し燃えている廃材に着地した瞬間爆発するように燃え上がった。
そこにどんどんと薪を追加していき、炎の勢いを弱めないようにする。
この作戦は大成功と言えるだろう。
炎に弱い化け物はすぐに燃やされてしまい、いくら物量で襲い掛かってきたとしても熱には彼らすべてに浴びせられる。
炎が潰されないように矢が飛び交い、魔法も何度か飛んできていた。
爆発したりもしているので、この調子で行けば無事に一夜を過ごせるのだが、そこであの存在が顔を出す。
一本角の化け物。
昨日とは別の個体のようで、体の色が青かった。
周囲の状況を見てすぐに炎の壁を何とかしようと金砕棒を振り上げたが、その腕はすぐに切り落とされた。
バリスタが三台、一本角の化け物を狙っていた。
その内に一台が腕を切り飛ばし、もう二台が体を貫く。
何とか交渉に成功したダムラスは無事にバリスタをここに持ってくることができていた。
今回はさすがに死に際の一撃を繰り出すことができなかったらしく、一本角の化け物はその場に倒れて灰となる。
それを見た冒険者はおおきな歓声を上げ、気力を増したように薪をどんどん追加していく。
三時間、四時間、五時間……。
薪が足りなくなれば回収班を結成して運搬させ、燃えながら出てきた化け物は矢で射止められた。
今回は一本角の化け物はもう一度出てきたが、それもバリスタで処理されて事なきを得る。
対策さえしてしまえば、恐れるに足らない存在だった。
ナルファムを含む冒険者一同は、これであれば防衛をし続けることができると安堵し、太陽の光をその身に浴びた。
出現して来ていた化け物が一斉に灰になり、静寂が訪れる。
そのあとに歓声が湧き上がり、今日の勝利を誰もが喜んだ。
「よし……!」
「これなら何とかなりそうだな! おっしゃ! よくやったぞお前たち!!」
今日はゆっくり休むことができる。
廃材と引火物の手配だけはしておかなければならないが、それさえしておけば後は何とかなるはずだ。
石炭が今日にでもこちらに届く。
明日はそれを使って、防衛に努めよう。
大きな廃材を投げ入れるより、小さな石炭を投げ入れる方が冒険者や騎士団たちの労力も少なくて済む。
しかし……この穴はどうやったら消えるのだろうか。
今まで防衛することだけを念頭に置いていたが、そもそもの問題がそこにある。
何故これは出現した?
誰が、どうやって?
これを何とかする方法は一体どこにあるのだ?
勝利に酔いしれていたのに、一気に現実へと引き戻される感覚だった。
この穴は何なのか、どうしたら消えるのかという問題の解決を急がなければならない、とナルファムは思い出す。
すぐにその場を去り、この原因を作った人物を探し出さなければならなかった。
手がかりも何もない状況ではあるが、何処かに犯人がいる筈。
このような超常現象が、自然に起こるはずがないのだ。
「一体、どこにいる……!」
なにかこの国で変わったことはなかったか?
どんなに些細なことでもいい。
それを……何か見つけなければならない。
パリッ。
なにかを踏みつけた。
足をどかしてそれを見てみると、海で取ってきたであろう貝殻を綺麗に装飾しているものだ。
踏みつけてしまって粉々になってしまっているが、何やらおかしいということに気付く。
拾い上げてみると、貝殻に内側には粘液質の液体が張り付いていた。
臭いを嗅いでみると薬草臭い。
なにかの塗り薬だろうか。
「……アクセサリー商店……に、売ってあったやつ……」
海はここから意外と遠く、こういう物を装飾して売るアクセサリー商店は若者に人気だった。
ナルファムはそこまで興味がなかったが、女性であれば一度は聞いたことのある店だ。
あそこの店主はキュリアル王国に居を構えている人物の筈。
頼りない解決の糸口を発見したナルファムは、だめ元でアクセサリー商店の店主と会うため、彼を探しに向かったのだった。




