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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第二章 追放
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2.5.お値段以上の仕事


「カルロさんカルロさん! メルのお友達から仕事を頼まれましたよ!」

「なんだって!? 冒険者の!?」

「はい! なので本気でやっちゃっていいですよね!」

「やるしかないね! できそうかい?」

「大丈夫です!」


 カルロに仕事が入ったことを伝えた後、テールはすぐに砥石を準備する。

 鞘はあとで綺麗にするとして、まずは得意な方から片付けことにした。


「いやぁ、にしてもよく自分のナイフを渡してくれたね」

「メルの助力によるものが大きいですけどね」

「はは、あの子には助けられっぱなしだな。君とメルちゃんが仲がいいから他の冒険者はこっちに手を出さなくなったし」

「関係あるんですかね?」

「あるよ……」


 なんでそこだけ鈍いんだ、と心の中でツッコんでおく。

 本当にテールは仕事一筋過ぎていけない。

 もう少し遊ぶことを覚えてもいいとは思ったのだが、不遇職によくしてくれるような人はあまりない。

 こうなるのも仕方のない事なのだろう。


「あ、カルロさん。鞘の方お願いしてもいいですか?」

「わぁー、油凄いね。まぁ冒険者だとこれが限界だろうから仕方ないか。にしてもよく手入れされているね」

「ですよね。それ女の子が持ってたんですよ」

「なるほどー。んじゃこっちは綺麗にしておくよ。そっちは任せたよー」

「はい」


 鞘をカルロに任せ、砥石を水に浸す。

 刃こぼれも結構あるのでまずは荒砥石で直さなければならないだろう。

 なので一番目の粗い荒砥石を準備し、中砥石もついでに水の入った桶に沈めた。

 水が十分砥石に含むまで少し時間が必要だ。


 空気が砥石から出ているところを見ながら、ぽつりとつぶやいた。


「……んー、カルロさん」

「なんだーい?」

「メルによく引っ付いている男の人いるじゃないですか」

「ああ、あの迷惑な青年ね。名前なんだっけ。ガーディウスだっけな」

「そいつがメルと話していると、なんかもやもやするんですよ」

「……お?」


 鞘の汚れを洗い落とすための準備をしていたカルロだったが、その話を聞いて完全に手を止めた。

 なんだ、しっかり意識しているんじゃないか。

 そう安堵し、少し深く聞いてみることにする。


「それでそれで?」

「なんかよく分からないんですけど……。そうするとある一定の考えがふと頭の中に浮かぶんです」

「それはなに?」


 これは完全に嫉妬している。

 いくら鈍いテールでもこういう考えを持っているのであれば、自分の本当の気持ちに気付くのも、もうそろそろだろう。

 カルロは心の中で『よかったなメルちゃん!』と叫び、テールが次に口にする言葉を待った。


「そいつの顔を荒砥石ですり下ろしたい」

「おっけい仕事しようか」


 めちゃくちゃ真面目に言うものだから逆にこっちがぞっとする。

 すぐにその考えを離れさせるために仕事に集中するように指示をした。


 テールもそんなことより仕事に集中した方がよさそうだと思い、カルロの指示に従ってタオルでナイフについている油をある程度拭う。

 荒砥石に水が十分に浸透したことを確認した後、作業台に置いてナイフを当てた。


 ナイフは引き研ぎ。

 ジャッという音を立てて一度研いだ瞬間、この子の性格をすぐに理解することができた。

 どうやら研ぎ石を変に当ててしまっているので刃が真っすぐではないらしい。

 (しのぎ)から刃先に掛けてほんの少しだけ湾曲して凹んでいるようだ。

 これを直すのは骨が折れるなと思いながらも、荒砥石にもう一度しっかりと当てて何度も研ぐ。


 ナイフを荒砥石から離して研いだ面を見てみると、やはり刃の中央を研ぐことができていなかった。

 こういう場合は鎬と刃先に力を入れて研ぎ、刃をまっすぐにさせる。

 時間のかかる作業だが、この一番粗い荒砥石であれば作業自体はすぐに終わるだろう。


 何度も何度も研ぎ、刃返りが出すぎる前にそれを落とし、再び研ぐ。

 この繰り返しだが手首は完全に固定して、ナイフが動かないようにしっかりと抑える。

 数十回研いだ後、もう一度面を見てみると刃すべてに砥石が当たっている痕が見て取れたので、今度は切っ先を研ぐ。

 これは片刃のナイフなので反対の面を研ぐ必要はない。


 切っ先はナイフの反りに合わせる様に動かして研ぐ。

 これが一番難しいが、既に腹の部分の刃をまっすぐに仕上げているのでそこを定規にして真っすぐになるようにナイフを動かした。


 切っ先はあまり問題がないようだったが、腹部分を研ぎすぎてしまったのでそれに合わせるようにして反りを調整していく。

 綺麗な曲線を描いていなければ綺麗なナイフとは言えない。

 ここは腕の見せどころだ。

 今まで培ってきた研ぎ技術をすべてこの一瞬に注ぎ込み、完璧と言わしめるほどのナイフへと鍛え上げていく。


 ジャッと最後の一押しを決め、ナイフを確認する。

 光に当てて当たっていない部分がないかを見てみるが問題はない。

 反りも完璧で、刃返りもしっかり取っている。

 これであれば次の工程に進むことができそうだ。


「テール君。お昼だよー」

「んええ!? もうそんな時間ですか!!?」

「そうだよ。鞘の方は終わったからね」

「あ、ありがとうございます……。これ今日中に終わるかな……」

「形はできたんでしょ? じゃああとはすぐだよ」

「ですかね……」


 こんな事ならもう一日くらい余裕を貰っておけばよかったと少し後悔したのだった。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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