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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十章 歩む紅蓮焔
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10.23.呪いの化身


 四体の呪いの化身は巨大ムカデの姿を取り、大きな牙をガチガチと打ち鳴らして襲い掛かってきた。

 全員に一体ずつが張り付き、トリックは操るようにしてロングソード振るっている。

 彼を倒せば何とかなるのではないか、という一つの攻略法が頭の横を掠めるが、まずこのムカデを何とかしなければ近づくことも難しそうだった。


 波打つようにして接近してくるムカデの動きは流動的で、とても一直線だ。

 しかしその分速度が速く、気付けば目の前にいて大きな牙をグワッと開く。

 回避して迎え撃とうとするが、奴の武器は牙だけではない。

 無駄に長い足も脅威的で少しでも回避する間合いを間違えてしまえば数百本の足でずたずたにされそうだ。


 だがそれを打ち返してしまうのが仙人の仲間である。

 レミは柄を強引に振り回し、重そうなムカデを弾き上げた。

 スゥは横から斬撃を繰り出し、頭部付近の長い足をすべて両断してしまう。

 前回戦った呪いの化身は防御力が高かったので今回も渾身の力を入れて獣ノ尾太刀を振るったようだったが、どうやら意外と脆いらしい。

 これであればすぐに倒して他の二人の援護に回ることができる、とスゥはニコッと笑って余裕をの表情を浮かべだたが、そう簡単ではないようだ。


 斬られて周囲に撒かれた長い脚が、ひとりでに動き出して本体に集まっていく。

 溶けるようにして吸収されたそれは、しばらくすると斬られた足が再生して元通りになった。


「っー!?」

「これは厄介ね」


 レミの方も柄に付いている金物部分でムカデの顎を砕いたのだが、その破片を本体が吸収したところ元通りになって牙を威嚇するようにして打ち鳴らした。

 今回の個体は再生能力があるようだ。

 だが失われた部位を回収しなければならないらしい。

 それだけであればよかったのだが、切り離された部位がひとりでに歩いて本体の元に近づくのは予想外だった。


 二人は背中合わせになって、自分たちの周りをゆっくりと周回しているムカデに得物を向ける。


「いつの間にか分断されちゃったわね……」

「っ」


 大して問題ではないかのように、レミはそう言って二人の方へと目をやった。

 あちらもあちらで協力して戦っているらしい。

 パッと見る限り急いで増援に向かう必要はなさそうなので、まずはこちらを処理することを目的に動くことにした。


 さて、この呪いの化身。

 攻撃力は高そうだが防御力はいまいち。

 再生能力を持ってはいるが、簡単に甲羅や脚を破壊することは可能なのでそこまで危険ということはないだろう。

 だが決め手に欠ける。

 まずは弱点を探り当てなければならなさそうだ。


「こういう時は、私ね」

「っ!」

「サーチ」


 レミが片手を広げて呪文を唱える。

 それで何かが起きたわけではないようだったが、レミにはしっかりと相手の弱点が見えていた。

 頭部から二つ下の甲羅の中心。

 この位置に一際黒く蠢く丸い核のようなものがあった。


 それを見て、詰まらなさそうに息を吐く。

 やはり蘇った人物から生み出された呪いの化身は、総じて弱い。


 弱点が分かった瞬間、レミは一気に飛び出した。

 手に持っていた柄を何度か振り回し、遠心力を付けながら掬い上げるようにして突きを繰り出す。

 咄嗟に回避しようとしたムカデだったが、狙いを定めたレミの攻撃がその程度の速度で躱せるはずがない。


 バッギャチャッ!!

 柄についていた金属が甲羅を見事に貫く。

 甲羅の破片と体液らしい黒い液体が飛び散った。


「フッ」


 そのまま力を込め、ムカデを地面に叩きつける。

 強引に体を持ち上げられ、地面にめり込む形で呪いの化身は沈黙した。


「虫相手に負けると思うなよ邪神」


 怨みの籠った言葉で吐き捨てる様に言い放つレミの口調は少し荒い。

 ムカデを踏みつけ、貫通していた柄を引き抜く。

 手の中で何度か回転させて付着した体液を振るい飛ばし、意味もなくムカデの頭部をガッと蹴飛ばす。


 一瞬で仲間がやられてしまったことに臆することなく、もう一匹がスゥに向かって滑り寄ってくる。

 上体を少し持ち上げ、大量の脚で串刺しにしようと襲い掛かってきたが……。

 スゥの所持している武器は、その脚よりも長いのだ。


 ─葉我流剣術、肆の型……葉返り!─


 八双に構えたスゥは即座に獣ノ尾太刀を振り下ろし、地面にあたらないギリギリのところで刃を返し、斬り上げる。

 上下二連撃。

 一撃目で脚の半分を切断され、二撃目で体が半分になった。

 鮮血が噴き出すように黒い液体が飛び散り、裂けるようにしてどしゃりと地面に這いつくばった。


 葉返りは落ちていく葉が空中でくるりと舞うようにして戻るのを見立てた技だ。

 葉我流剣術の中は非常に簡単そうに見える技ではあるが、簡単だからこそ難しい技だった。


 スゥは回転しながらすり足で後退し、回転に合わせて血振るいをしてようやく止まる。

 ムカデが倒れるのを見て満足し、ムフーと鼻を鳴らして得意げに獣ノ尾太刀を肩に担いだ。

 見事に技が決まってご満悦の様子。


 あとはトリックを倒すだけではあるが……。

 それは彼らに任せておいてもよさそうだ。

 スゥは獣ノ尾太刀を納刀し、見学に回ったのだった。

 もちろんレミも同じである。

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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