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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十章 歩む紅蓮焔
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10.16.原因


 可能性として一切考慮していなかった存在が、この雨の原因だとトリックは言う。

 どういうことだ、と木幕が問い詰めると同時に、悪いタイミングで槙田とロストアが帰ってきた。

 不穏な気配を感じた槙田は眉間にしわを寄せ、かつて共に戦ったロストアに視線を向ける。


「なんだこれはぁ……」

「いや知りませんて! 俺じゃなくてトリック殿に聞いてくださいよ! 何処まで話したか知らないんですから!」


 それはそうだ、とテールは思う。

 槙田は渋々トリックに視線を向け、状況の説明を促した。


「この雨の原因が、槙田さんの使っていた武器、紅蓮焔にあるんです」

「……はぁ? ……くく、ぐはははははは! 俺の紅蓮焔はぁ……炎を操るぅ……! 地獄より呼び起こされたぁ、悍ましい炎をぉ……! だが周りを見ろぉ……。雨ではないかぁ……」


 確かに槙田の使用する魔法は炎であり、雨とは無縁の関係に思えた。

 彼らの中の知識では、火は水を作り出すことは不可能。

 何を馬鹿げたことを言っているのか、と槙田は大笑いしてトリックが失念している点を指摘した。


 普通に考えれば炎が水を作り出すなど、ありえない話だ。

 それはトリックも、そして槙田の隣りで縮こまっているロストアでも理解している事である。

 しかしそれを確定付ける事実を、彼らは知っていた。


「その、紅蓮焔が出現(・・)したときから、この雨が降り始めたと言えば信じますか?」

「……なにぃ?」


 トリックが選んだ言葉に、槙田は眉を顰めた。


「出現とはぁ……どういう意味だぁ……」

「そのままの意味です。紅蓮焔は炎の防具を作り出し、それを操ってとある場所に立っているのです。私も何度か、戦いましたが……」

「何?」

「なんだとぉ……?」


 日本刀が、意思を持って魔法を操り、自ら戦える術を有したというのか。

 今までにない前例。

 水瀬の日本刀、水面鏡は水を作り出してその身を隠していたが、移動したり戦ったりすることはできなかった。

 他の日本刀も、何もできずにその場で待ち続けていることがほとんどだったはずだ。


 だが、紅蓮焔は違うらしい。

 トリック曰く、周囲の状況を調べていると、その一帯で大きく変わった出来事が一つあった。

 それが紅蓮焔に出現。

 これから雨が降り続くようになったはずだ。

 それ以外に何か変わったこともないし、少し遠くの方の話を聞いてみれば雨雲は発生しておらず、少し濃いめの雲が流れてきているだけなのだという。


 あの日本刀が原因だということを周囲の状況から察した二人は、何とかしようと立ち向かった様だ。

 しかし暴力的な炎魔法を幾度も浴びせられ、結果は惨敗。

 何度か復活して戦いを挑みはしたが、同じことの繰り返しで勝利するビジョンが見えなかった。


 彼らは、戦ったのだ。

 紅蓮焔と。


「……ま、槙田さん……。これは……」

「なんにせよぉ……。あいつを回収するのにぃ、変わりはねぇ……。丁度いいんじゃねぇかぁ……? なぁ、木幕ぅ……」

「ああ」


 紅蓮焔がこの雨の原因にしろ何にしろ、回収しなければならない事実は変わらない。

 在り処が分かったのだから、すぐにでも行こうと槙田は急かす。

 とりあえず交渉は成立したようだ。

 トリックたちは紅蓮焔を何とかしてもらえるし、槙田は紅蓮焔を回収できる。

 どちらもウィンウィンである。


『テール、テール』

「わわっ。どうしました?」


 珍しく不撓がテールを呼んだ。

 すぐに返事をして、彼女の言葉に耳を傾ける。


『元主様は、元主様は死んでいたからこそ私の奇術を使いこなせました』

「あ、その話は聞きましたよ」


 不撓の魔法は毒。

 毒を使って様々なことができるのだが、乾芭の様に体全身を毒にすることは叶わない。

 それがなぜかというと、そもそも乾芭は死んだ状態でこの世界に飛ばされてきたからだ。

 それにより毒を体に変換することが可能だったらしく、彼女の魔法を余すことなく使いこなせた。


 だがテールはまだ生きている。

 なので不撓が作り出した毒に触れただけでも死ぬ危険性があった。

 さすがに殺されたくはないし、彼女も殺したくもないらしいので毒の魔法は封印している状況だ。

 折角手に入った忍び刀の魔法を使えないのは残念だが、死ぬよりはマシである。


 役に立たなくて申し訳ない、と不撓は謝っていたが、それを今更掘り返すようなことはしたくない。

 なのですぐに話を切ろうとしたのだが、どうやら彼女が言いたいことはそれではないようだ。


『違うのです、違うのです。分身体を作ったこともありますので、それに私を持たせて移動することは可能だったのです』

「……えっと、それで……?」

『ですがそれは、それは主あってこその技。紅蓮焔が主なしに、主なしに奇術を使いこなせるとは、思えません。思えないのです』


 魔法を使うには、誰か使い手が必要となる。

 今携えている隼丸は勝手に魔法を使ってくれたりはするが、それも装着していなければ意味がない。

 灼灼岩金に至っては踏み込まなければ魔法を発動させることすらできない。

 唯一索敵はできるようだが、攻撃はできないのだ。


 しかし水面鏡は主が居なくても魔法を使っていたように思える。


「でも水面鏡は……」

『『あれは奇術を使いこなしてるとは言わないよ。ただ水を大量に出しただけ。地下水の水を持ち上げる程度の力しかない。水瀬みたいに、水底を歩けるように湖を割ったりはできないのさ。僕の場合は効果範囲が狭いだけだけど……』』

『我は大地に何かした衝撃を与えねば、上手く操れぬ』

「……じゃあ……」


 主も居ないのに、ひとりでに動いて、更にトリックとロストアを何度も倒す実力のある紅蓮焔は……。


『一言でいえば、異常、だな』


 生暖かい風が、テールの頬を撫でた。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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