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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第二章 追放
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2.3.メルの仲間


 入ってきたのは槍と杖を持っている女の子だ。

 槍を持っている彼女は背が高く、メルよりも重い装備を身に付けて体全体を守っている。

 肩ほどある金色の髪の毛は癖っ気が強く、毛先の方へ行くほどクルクルと回っていた。

 凛々しい表情は自分よりも年上だと思わせるが、実は同い年だ。

 キリリとした強そうな目つきが特徴的である。


 杖を持っている彼女は眠そうな顔でこちらを見ている。

 分厚いローブと三角帽子から、明らかに魔法使いだということが分かった。

 藍色の長い髪の毛はストレートで、腰程まであるようだ。

 細い目を擦って欠伸をし、ゆったりした歩き方で店に入ってきた。


 二人はメルの冒険者仲間であり、槍を持っている女の子はアイニィで、杖を持っている女の子はコレイア。

 どちらも実力を買われてナルファムギルドマスターに推薦され、メルのパーティーに強制的に組み込まれたと聞いたことがある。


 どうしてそうなったのかというと、冒険者を始めた子供たちはまず同性のパーティーで数年一緒に仕事をするというのが決まりだ。

 冒険者の最低ランクはF。

 依頼をこなし続けてDランクになった時、パーティーを男女混合にして調整するようになっている。

 女の子だけのパーティーではいつか勝てない敵に遭遇することがあるし、男の子パーティーだけでは猪突猛進して止めてくれたりする人物が欠落してしまう可能性があるからだ。

 もちろんその限りではないことも多々あるが。


 女の子より男の子のパーティーの方が問題を起こしやすい。

 すべてのバランスを整えるために、こういったことをギルドでは数年に一度行うのだ。


 だがしかし……。

 メルのパーティーはそれが必要ないくらい力のあるメンバーが集まっていた。

 男たちのパーティーへの勧誘はめちゃくちゃ多い。

 しかし入ってしまえば返って男が足手まといになるということに気付いた三人は、このメンバーでずっとやっていくということを決めたのだ。


 メルから話を全て聞いているテールは、二人のことを見てすぐに名前を思い出す。

 とりあえずお客さんだ。

 小さく礼をして相手の様子を伺う。


「……はぁ、不遇職のどこがいいんだか……。で、メル。まだなのー?」

「眠い……」

「もー、もうちょっとゆっくりしたっていいじゃない」

「この辺にいると変な目で見られんのよ……。それに勧誘部隊もこっち見てるしねー」

「うわそれは嫌だな……。今度は隠れてここに来るか……」

「メル? 今なんて?」


 独り言のように呟いていたので、二人は最後の言葉を聞き取ることはできなかったようだが、近くに行たテールはしっかりとメルの言葉を聞き取った。

 メルは聞かれてしまったことに気付いて舌を出して誤魔化す。

 まったく誤魔化せていないと思いながら、頭を掻いた。


 すると、メルは二人の手を引いて店の中に連れ込んだ。

 ばたんと扉を閉める。


「わっ」

「ねぇねぇ! 貴方たちも武器研いでもらおうよ!」

「ええー……。私はいいわよ。他人に愛用の武器は任せてはいけないってお父さんに言われてるんだから」

「私、必要ない……」

「そうだった」


 杖しか持っていないコレイアには研ぎという作業は無縁だ。

 となると標的はアイニィにのみ。


 メルはズイッと近づいて彼女の槍を握る。

 奪われないようにアイニィも手に力を入れた。


「とても綺麗になるのよ! 切れ味もよくなるわ!」

「やーめーなーさーいー! 研ぎなんて自分でできるから必要ないわよ! 貴族じゃないんだから輝きとか必要ないし!」

「そう言わず~!」

「いーやっ!」


 やはり研ぎ師に対する考えは変わっていないらしい。

 冒険者は武器の見た目より性能を重視する。

 それに、自分の武器というのは他の人に任せたくはないものだ。

 自分でしっかりと手入れすれば、武器の性格も分かってくる。

 わざわざ人に頼むなどといったことは絶対にしない。


 アイニィはなんとかメルの手を無理やり離させて一つため息をついた。

 彼女の考えも研ぎ師をしているテールにはよく分かる。

 自分の武器はかけがえのない財産であり、自分の命を守ってくれる重要なもの。

 だからこそ人に任せたくはないのだ。


 だがメルは諦めない。

 槍が駄目なら解体用のナイフならどうだと提案する。


「どう!?」

「ど、どうって……」

「これなら別にいいでしょ! ねぇねぇ!」

「はぁ、もう分かった分かった! まったくメルはこうなると諦め悪いんだからこっちが折れなきゃいけないじゃない……」


 呆れた様子で小さなナイフをカウンターの上に置いてくれた。

 見ただけでも随分と使い込まれているということが分かる。

 鞘もずいぶんと汚れていた。


「……手に取ってもいいですか?」

「好きにしなさい」

「では」


 ナイフの柄を握った瞬間、手にあまり気持ちの良くない感触が伝わった。

 これは油だ。

 動物や魔物の油というのは水で洗っただけではなかなか落ちない。

 狩った獲物の種類によって油の質も違うのだが、この感じは随分と強力な魔物のものだというのがすぐに分かった。


 最近になって、テールは人が使った武器を握ると何と戦ったのかなんとなく分かるようになっていた。

 ということはこれからも同じような敵と対峙する可能性があるので、それに適した研ぎを行ってお客に武器を返してあげる。

 しかし今回はまず手入れから行わなければ、この子は素直に研がしてくれそうになかった。


 鞘から刃を抜いてみれば、刃先はほんの少し欠けている。

 研ぎ石で研いだ特有の白い線が刃に付いていることから、手入れだけはしっかりと行ってきたようだ。

 手で触ってみるとまた油の感触が伝わってきた。

 作業後、布か何かで血や油を拭い取ったのだろう。


「……すごいですね」

「え?」

「ずいぶん使い古していますが、まだまだ現役です。手入れしてないとこうはなりませんから」

「ふん、当然よ」

「では研ぎの内容ですが刃の調整と鞘の手入れも同時に行っておきます。明日にでも取りに来ていただければと。お代は前払い銀貨二枚です」

「ん」


 カウンターの上に出された銀貨二枚をしっかりと確認して、ナイフも預かった。

 それを見てメルが不思議そうに声をかける。


「テール、いつも思うんだけどそれ安くない? 大丈夫なの?」

「うん。貴族様からの鏡面仕上げ依頼で生活にだけは余裕があるから。高すぎると冒険者さんたちはまず任せてくれないだろうし」

「へ~。フフッ、良かったねアイニィ!」

「私が不遇職に依頼をする時が来るとは……」

「もうっ、そんなこと言わないで!」

「ああ、ごめんごめん」


 カランカランッ。

 誰かが扉を開ける音がした。

 その場にいた全員が扉に目を向けると、女性陣は明らかに嫌気な顔をして眉にしわを寄せる。

 テールも苦手な人物が来た、と顔には出さないが心の中で嘆息した。


「やぁこんな所にいたのかい? メル?」

「……呼び捨てにすんな」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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