表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第十章 歩む紅蓮焔
238/422

10.14.一刀の下にて


 ロングソードを引きずりながら、少しおぼつかない足取りでこちらに向かって歩いてくるアベン。

 呪いによって強化されているようではあるが、力を使いすぎると普通の人間よろしく疲弊するらしい。

 新たな発見だ、と槙田は紅蓮焔を構え、切っ先を向ける。


 過去にリーズレナ王国で勇者の称号を手にしていたアベンだったが、その実力の元となっていたのは、槙田の日本刀、紅蓮焔だった。

 右も左も分からない頃、槙田正次はリーズレナ王国に召喚された。

 そこで助けてくれたのがアベン。

 しかし彼は槙田の持っている日本刀の魅力に気付き、彼を騙して牢に入れ、自分は紅蓮焔を持って英雄譚を作り上げ続けていた。


 紅蓮焔を持ったアベンの実力は、確かに勇者に匹敵する。

 しかしその所業は、とても勇者と言えるものではなかった。

 どれだけ貧困に陥っている者たちに食料を分け与えようが、どれだけ強い魔物を倒して英雄に祀り立てられようが、一人の男を騙して牢に入れ、その魅力ある武器を盗んだ悪事は、勇者という肩書を背負うことはできない枷。

 それでも彼を勇者にしたのは、その所業が公にされていなかったからである。


 こいつの仲間さえいなければ、自分はもっと生き永らえ、そして勇者を続けられていた。

 栄光と誉を手にし続けることができたはずなのだ。

 だがしかし、それは牢に入れたはずの槙田の手によって打ち砕かれた。


 今こそ、その屈辱を晴らす時。

 この剣で、一刀の下に斬り伏せてやろうという強い怨念を膨らませ、次第に踏み込みの力が強くなる。


 それと同時に槙田も同じように歩み出す。

 未だに片手で紅蓮焔を握り続け、両手で振る素振りは一切見せない。

 少し背を曲げ、下から睨めつけるようにしてアベンの目をしっかりと捉えている。


 ようやく、雨が降ってきた。

 先ほどの熱量で周囲の水気は完全に消し飛び、熱気だけが支配していた。

 それを中和するかのように大量の雨が再び地面を濡らし、両者の足音を消していく。

 だがそれでも隠し切れない強烈な殺意と憎悪がぶつかり合っており、雨など降っていないかのようにも感じられた。


 間合いまで五歩。

 アベンは脇構えの状態で柄を思い切り握り込み、残り四歩に力を入れる。


 間合いまで四歩。

 相変わらず睨めつける形で前進してくる槙田の気配は恐ろしい。

 だがアベンもまったく動じることなく進み続ける。


 間合いまで三歩。

 豪雨の中、両者の刃が火を噴いた。

 アベンの炎の大剣はブーストが掛かったかのようにゴウゴウと燃え、その勢いを増し続けている。

 一方槙田の紅蓮焔の刀身は自然に炎を作り出しており、風によって不気味に揺れていた。

 だが鞘の中から零れる炎の液体が、地面をじゅう、と焼く。


 間合いまで二歩。

 明らかにやばい気配を感じたロストアは、その場から逃亡する。

 近くにいると確実に巻き添えを喰らってしまうと察したのだ。

 顔を覆っても肌を焼く熱波が、背中に浴びせられる。


 間合いまで一歩。

 両者目をかっぴらき、この一撃に全霊を込めて大きく踏み込む!

 ズダンと鳴り響いた踏み込みの音は、遠くにいたテールたちにも伝わった。


 槙田は見え透いた攻撃方法で右上から刃を振り下ろす!

 アベンはそれに合わせて真反対からの攻撃を繰り出した!


 ズバンッ!!

 一瞬の静寂は、勝敗を決めるときになくてはならないものかの様に、自然に作り出された。

 アベンの振り上げた炎の大剣が、半分に切られて地面に落ちる。

 水溜りに落ちて鋭い音を立たせ、燃える炎は消えていく。


 左肩から右腹までを斜めにぶった切られたアベンは、下半身をそのまま残し、上半身だけが地面にどうと倒れる。

 まだ負けていないというように、手にしていた切れた炎の大剣が再生しようとしていたが、結局維持することができず、雨によって消滅した。

 アベンの体も、水に溶けるようにして消えていく。


 勝敗が決まった後、槙田は紅蓮焔を血振るいして納刀する。

 消えゆく男を見送りながら、小さく笑った。


「お前じゃァ……俺はぁ、殺せねぇ……」


 振り返り、未だにしりもちをついているロストアの所へと向かう。

 まだまだ確認しなければならないことが山積みだ。

 折角協力的であるならば、呪いについて少し研究をしようと思う。


 不敵な笑みを浮かべでこちらに近づいてくる槙田を見たロストアは、明らかに嫌な予感が本能を刺激したので、即座に立ち上がって逃げるようにトリックがいる所へと走ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ