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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第九章 折れた一閃通しと水面鏡
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9.12.騒がしい?


 アベラス湖近辺はとても綺麗に整備されており、落ち着けそうな場所が多かった。

 静かな場所を好む木幕のために、レミとスゥは落ち着いた雰囲気のある宿を探していたのだが、いつの間にかこんな所にまで歩いてきていたのだ。

 だがそのおかげで良い宿を見つけることはできた。

 あとは彼らと合流するだけなのだが……その道中、二人は足を止める。


 なんだか騒がしいな、と思いながらレミとスゥはその方角を遠巻きに眺めていた。

 歓声……ではなく悲鳴などが上がっていることから、ただ事ではないことが起きているということがなんとなく推測できる。


 とはいえ二人が関与する必要はない。

 スゥは気になっているようだったが、できるだけ面倒ごとは避けたいのでテールたちと合流するためその場をすぐに立ち去ろうとした。


「っ、っ」

「どうしたの?」

「っー」


 魔法袋の中から木の枝を取り出したあと、がりがりと地面に文字を書く。

 古い文字なのでほとんどの人には読むことができないだろうが、レミであれば読めるので書き終わるまで静かに待った。

 すると……そこには『西形が騒ぎの中心にいる。水瀬も近くにいる』とあった。


「……」


 あからさまに嫌な顔をするレミを見て、スゥは苦笑いするしかない。

 テールたちが今どこにいるかを探すために魔法を使ったのだが、その時に彼らを見つけてしまったのだ。

 どうやら水瀬も一緒にいるようなのだが、止めに入ってはいないらしい。

 弟である西形に厳しい彼女が静観しているのは非常に珍しいのだが……一体何があったのだろうか。


 さすがに身内が暴れているとなれば放ってはおけない。

 このまま帰って報告すれば木幕に何かお叱りを受ける可能性だってあるのだ。

 それは嫌なので、渋々ながら騒ぎの中心に向かうことにした。


 近づいてみると、辺りにいるのは野次馬たちだということが分かる。

 騒ぎに乗じて何か賭け事をしてみたり、事の成り行きを興味深そうに眺めている者たちが多い。

 彼らの視線の先にあるのは言わずもがな……西形だった。


 どうやら大道芸の一団と揉め合っているようで、数十人に囲まれているというのにその体捌きだけで全員を尽く躱し、目的の一閃通しの折れた穂先を確保しようと躍起になっている。

 一団の仲間たちがどんどん集まってきているが、それをものともせずに立ち向かい、襲い掛かってきた者を投げ飛ばす。


「……なにしてるんですか」

「っー……」


 一団の持っているものが西形の武器の穂先であるということはすぐに分かった。

 だがここで強引に奪取しても仕方がないだろう。

 西形はある程度良識を心得ていると思っていたレミとスゥだったが、どうやら勘違いだったようだ。

 やはり自分の武器があると冷静を保てないのだろうか。


 呆れながらその様子を目にしてしまった二人に、水瀬が近づいてくる。

 スゥからの話で水瀬もここにいると聞いていたので、彼女が出てきたことに驚きはしなかった。


「あの、水瀬さん? これは……」

「あはは……。愚弟の武器が見世物にされてましてね。それだけならまだよかったんですが、壊れないという特性を利用して槌で殴ろうとしたものですから……」

「そ、それは……まぁ怒りますよね」

「あそこまで顔に怒りを表しているあの子は初めて見ましたよ」


 侍にとって武器とは、魂の半身。

 それをぞんざいに扱われている場面を見て、冷静でいるというのは不可能だ。

 そりゃそうなるわな、と心の中で呟き、もう一度西形を見る。


 相変わらず襲い掛かってくる一団の者たちを一人一人確実に倒していき、目的の物を手に入れようと怒りを表にしながら戦っていた。

 的確に急所を手刀で叩いて気絶させたり、貫き手で喉元を突いたり、肘や膝を使って鳩尾に打撃を繰り出す。

 服を掴まれたらまず大きく腕を動かして振り払い、一瞬の隙を突いてつま先で腹部を突く。


 西形の槍術の技量は意外と低い。

 どちらかというと騎馬術の方に優れている為、魔法なしの練習試合では他の侍たちによく敗北しているのだ。

 だが、体術では数十人を相手にしても何とかなる程の技量を持っていたらしい。

 恐らく落馬後の対処法として、彼の祖父から古武術を伝授してもらっていたのだろう。


 彼の凄まじい快進撃を見て、観衆は盛大に盛り上がっている。

 あまりに堂々とした登場だったためか、これも演目の一部として捉えられてしまっているらしい。

 投げ銭が多く投げられ、その騒ぎを聞きつけた人々が更に集まってくる。


「……これ放っておいてもいいんですかね。大丈夫ですかね、水瀬さん」

「私は大丈夫だと思いますよ。あの程度の相手であれば、怪我の一つも負いません」

「いや、そうじゃなくて……」


 西形の心配は一切していないのだ。

 どちらかというと、一団の方が心配だ。

 このまま放置して怪我人が増えれば、彼らの仕事に支障をきたすのではないだろうか。


 ……とはいえ、もう遅い気もするが。


 西形が最後に立ちふさがった大男と戦い始めた。

 巨大な肉体はほとんどが筋肉であり、並大抵の攻撃では倒せないということが誰の目からも分かる。

 さぁどうするつもりなのかと、観衆はその様子に目を釘付けにした。


 西形はパキリと指を鳴らしたあと、地面を蹴った。

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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