9.11.大道芸の一団
常に人がごった返している通りを普通に歩くペースで進み続ける二人。
格好がこの世界の人々とは違うので目につきやすいようだが、声をかけてくるような人はいなかった。
目立つのも慣れたものだ。
もうほとんど気にしていないので、今は西形の武器、一閃通しの情報を確かなものとする為大芸道を生業としている一団の下へと足早に向かった。
歴史資料館から東にずーっと進んだところにテントがあるという話だったが、まだ見えてこない。
かれこれ一時間は歩いているはずなのだが……。
ここまで目立つ建物もないとこの方角で合っているのか不安になってくる。
周囲は大きな市場なので、この辺には一段のテントは無いと分かるのだが。
「姉上、本当にこっちで合っているんですかね」
「移動する話は聞いていないし、さっきも心配になって人に聞いたけどこっちでいいって話だったけど」
「ずいぶん歩いているはずなんですけどね。まだ先なのでしょうか」
「歩いていれば見つかるはずよ。早く進みなさい」
「あ、はい」
背中を小突かれて急かされるので、早急に足を動かして進んでいく。
この通りは本当に賑やかで、様々な店が出ている。
人が多くて熱気も凄い。
早いところ通り抜けたかったが、行けども行けども同じような風景しか飛び込んでこなかった。
またしても不安になり始めた西形が、足を止める。
さすがの水瀬も心配になったのか、同じように足を止めて周囲を見渡した。
「これはもう一度人に聞いた方が良さそうですね」
「賛成ね。じゃあよろしく」
「ああ、はいはい……」
言われるがまま話しかけやすそうな人を一人捕まえて、大道芸の一団のテントの場所を聞いてみる。
すると南の方を指さされた。
どうやら行き過ぎてしまったらしいのだが……はて、テントなど道中で見かけただろうか。
詳しい位置を聞いてみると、丁寧にテントまでの行き方を教えてくれた。
西形は感謝してその場を去ると、水瀬を手招きして呼んだ。
「どうやら向こうの様です。少しだけ行き過ぎてしまったみたいですね」
「では向かいましょう」
それからはすぐにテントに到着することができた。
歩きやすい道を教えてくれたのか、とても進みやすく歩くのが楽だった。
辿り着いた場所には背が低く、横に広い天幕が張ってある。
これでは少し違う通りにいるだけでも見過ごしてしまうのは仕方ない。
そしてここではすでに何か芸が始まっており、人々が多く集まっていた。
お立ち台のところに一人の派手な衣装を着た男性が立っており、小さな琵琶のような楽器を持っている男性が音を奏でている。
「あれね」
「吟遊詩人、でしたっけ。なかなか奇妙な服を着ていますね」
「この世の人々からすれば、私たちも相当でしょうけど」
するとお立ち台から大きな声で観客に聞かせるようにして、男が語り始めた。
助手らしき女性二人が布をかぶせられた何かを持って来て、台に乗せた後下がる。
「さぁさぁお立会い!! 皆様が見たこともないような、面白い姿をした武器をご覧に入れましょう!」
「お」
これはなんともタイミングがいい。
ここで見れるのであれば、情報が正確かどうか一発で分かるというものだ。
大道芸に興味はあまりないが、とりあえず二人はその姿だけを見ることにした。
男性は更に大きな声を上げながら語り始める。
「さぁ、まずはご覧あれ!!」
後ろに設置された台に被せられていた布を、バッと取り払う。
吟遊詩人が激しく楽器を鳴らし、その登場を強調させた。
刃は太陽の光を反射して群衆の目を一瞬だが細目させる。
根本が少し砕けているが、槍の穂先だということはなんとなくわかる。
だがやはり特徴的な刃であり、まっすぐな穂先に加えて片側からもう一つの刃が飛び出ていた。
あれは確かに、片鎌槍の特徴であった。
目的に刃を見つけた西形は、群衆の感嘆の声に混じって歓喜した。
若干疑っていた情報ではあったが、こうして見つけられたのは大きい。
一刻も早く木幕たちと合流してこの事を説明し、何らかの交換条件を付けて譲り受けなければと意気込んだ途端、男がまた語りだす。
「この武器!! 叩いても壊れず、魔法を撃っても壊れない!!」
走り出そうとした西形がぴたりと止まった。
ゆっくり、とてもゆっくりとした動きで振り返り、水瀬でも見たことがないほど目をかっぴらき、彼が作り出せる最大限の恐ろしさを持った顔が張り付いている。
「……は?」
「さらにさらに! 炉に入れたとしても溶けることなく、そのままの形で戻ってくるというのだから驚きだ!!」
「……は??」
「そしてここにその柄もあるぞ!! これは燃やしても燃えず、のこぎりで切っても切れないときた!!」
「あ゛?」
堪忍袋の緒が切れたようにして、腸が煮えくり返っているのが誰の目からも分かった。
彼の圧は近くにいた人には感じ取ることができたらしく、数人がびくりと跳ね上がってこちらを凝視しする。
西形の姿を見てそそくさとその場を後にする者も多かった。
「ではでは!!」
吟遊詩人の奏でる音に合わせて、隠されていた金槌を取り出す。
そして一閃通しの刃を手に取り、台の上にコトリと寝かせた。
「いざ実戦して見せましょう!!」
「やめろ貴様!!!!」
ズダンッと踏み込んで群衆を搔き分けていく西形の後ろ姿を見送った水瀬は、彼が作り出した初めての怒りを見て何もすることができなかった。
止められなかった自分と、奪い返してこの先どうするつもりなのか、と自分への情けなさと止められなかった後悔を抱きながら、顔を片手で覆ったのだった。
「……はぁ」
彼女のため息は、お立ち台に突撃した西形の轟音で掻き消えた。




