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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第九章 折れた一閃通しと水面鏡
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9.8.貴方は誰の剣?


 とんでもなく小さい声に驚いたが、どうやらこの剣は意思疎通ができるようだ。

 挨拶をしてきたのがその証拠。

 だが声が小さい。

 先ほども何か話していたようなのではあるが、小さすぎてなんと言っているかさっぱり分からなかった。

 もしかしたら、自分たちが入って来た瞬間から声をかけてきていたのかもしれない。


 とりあえずなんとか言葉を聞き逃さないために、耳に剣を当てた状態での会話を試みる。

 これくらいしなければ本当に話を聞き取れないのだ。


「えっと、こんにちは」

『──こんにちわ。──たは、声がき──のですね』

「……はい」


 貴方は声が聞こえているのですね、と言っていると頭の中で変換し、返事をする。

 この程度であれば会話に支障はなさそうだ。


『ぐぬはははは! 面白い剣もあったものだ!! ぬはははは!』

「灼さんちょっと黙っててください聞こえないです」

『ぬ!?』

『『怒られたねー!』』

「隼丸も」

『『すいません……』』


 ようやく静かになった刀たちを見て、テールはもう一度剣を耳に当てる。

 その様子を奇怪に見ていたトライは、あの子は大丈夫だろうかと心配しているようだ。

 メルが小さな声で事情を説明してくれているので、そちらは任せることにした。


 まずはこの剣について解明していこう。

 とりあえず……これがトリック・アベラスの剣ではないのであれば、誰が所有していた剣なのかを聞けばいいはずだ。


「えっと、貴方の持ち主は誰ですか?」

『────です』

「あ、すいませんもう一回お願いします……」

『トリック様です』

「…………えっと、トリック・アベラスさんの剣ってことでいいですか?」

『はい』


 周りの人全員に聞こえる様に再確認したところ、少し大きな返事が返ってきた。

 テールは木幕の方を振り向き、小さく頷く。

 どうやらこの剣はトリック・アベラスの剣で間違いないようだ。


 そこで西形が異を唱える。


「いや、違うはずだよ。トリックが持っていた剣は同じ両刃の剣だったけど、そんな形はしていなかった。鍔はまっすぐじゃなくて湾曲していたし」

「特徴的なのは柄頭だったわね。獣の顔を模していたと思うけど」

「な、なるほど?」


 突然西形と水瀬がトリック・アベラスの剣の特徴を口にするものだから、トライは慌ててその内容をメモに取った。

 二人が言った特徴と、今手にあるロングソードの特徴を比べてみるが、確かにポンメル(柄頭)はただ丸いだけでそんな装飾はないし、ガード()はまっすぐだ。

 途中から装飾を取り払ったりはしないだろうし、使い慣れたガードの形を変える必要もない。

 完全な別物ではあるのだが……この剣の主はトリックだという。


 だがこれは本人(ロングソード)に話を聞いてみれば分かることだ。

 そう思って今疑問に思ったことを聞いてみると、こんな返事が返ってきた。


『トリック様が魔王軍と共に戦った剣は、トリック様と共に眠っています。私は、トリック様が幼く、有名ではなかった頃、冒険者として初めて買っていただいた頃の剣なのです』

「なるほど!!?」


 それは盲点だった、という風にテールは声を上げる。

 彼がまだ勇者ではなく、冒険者として日銭を稼いでいたころに大切に使われていた剣が残っていたということにまず驚いた。

 これはこれでとんでもない価値になるのではないだろうか、と心の中で呟きながらも、今聞いたことを全員に伝えた。

 だが本人(ロングソード)の希望で、トリックが魔王軍と戦った時の剣のありかは伏せることになった。


 話を聞いて納得した木幕たちは、感心したように頷いた。

 剣自身がそういうのだから、これに間違いはないだろう。

 だがトライは半信半疑といった様子で、納得しきれてはいなさそうだ。

 まずはテールが武器と会話することができることをはっきりさせておいた方が良さそうだった。


 とはいえ仙人である木幕が信じているので、信じざるを得なかったらしい。

 とりあえずテールが本当に剣の声を聞けるのかと再確認をしたが、木幕が頷いてくれたので彼もようやく信じる気になったようだ。


「……では、これは今まで通りトリック様の剣ということで良さそうですね」

「そもそもどうして偽物なんじゃないかって話になったんだい?」


 西形の言うことは最もだ。

 これだけ長く保管され続けてきたというのに、今になってどうして疑うような話が出てくるのか。


「我々研究者の中では、証拠がないものはあまり価値がないとされておりましてね。過去の文献も失われつつある今、この剣もその標的になったんですよ」

「証拠ないんだ……この剣……」


 これまで長きに渡って守られ続けてきたというのと、石像にも同じ剣があるということで何とかこの剣の存在を維持できていたらしい。

 疑って、今まで真実だと信じていたものが覆るのは、研究者にとっては嬉しい事なのかもしれないが……。


「でもどうして、トリックさんは魔王軍と戦った時に使った剣じゃなくて、古い剣を石像にさせたんですかね」

「石像ってトリックが死んでから作られたんじゃないの?」

「ああ、はい。彼が存命の時に作られたとされています。なので君の疑問は私も気になっていた事です」

『それはですね』


 ぎりぎり聞き取れたその声に気付き、テールはロングソードを耳に当てる。

 全員が空気を読んで静かにしてくれたのでとても聞き取りやすかった。


『トリック様は、この地で活躍していた時の剣を石像にしてくれ、と王様に頼んだのです。『ロングソード、カイテイは向こうで大きな役目を終え、勲章も頂いた。だが一番最初の相棒である、ベムテイルは勇者になるまで共に戦ってくれたもの。作るのであれば、この剣をモチーフにしてくれ』……と』


 懐かしい記憶を思い出しながら恍惚そうに語る彼女は、だんだんその声量を大きくしていった。

 そんな歴史があったのか、と感心しながら聞いたテールは、この話も全員に伝える。

 すると目を見開いてトライが反応した。


「カイテイとベムテイル!?」

「えっ……はい」

「それがトリック様が使っていた剣の名前なのだね!?」

「らしい……です」

「おお!!」


 すぐさまメモを取る彼は、なんだか興奮しているようだ。

 何か気付いたことでもあるのだろうか。


 そこでテールはふと思いついたことがある。

 ベムテイルはこの国で何百年も過ごしてきた剣だ。

 保存されていたのでどこまで歴史に詳しいかは分からないが、トリックが生きていた当時は彼女も情勢を知っている可能性がある。

 西形と水瀬がこの世界で亡くなった時、彼はこの国に居たはずだ。

 何か聞けるかもしれないと思い、問いかける。


「ベムテイルさん。あの人の持っている武器について、何か知りませんか?」

『あれですか?』


 剣の何処に目があるかは分からないが、とりあえず水瀬に向けるようにしてベムテイルの剣の腹を向けた。

 彼女はしばらく考え込んだ後、こう言った。


『ありますよ』

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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