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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第九章 折れた一閃通しと水面鏡
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9.7.過去の歴史


 大きくガッツポーズをした西形を、水瀬が容赦なく脇腹を突いて沈黙させた。

 痛みはないが強烈な違和感が襲い掛かってきているのだろう。


 すると水瀬がトライに近づき、もう一度水面鏡を見せる。


「これは……分かりませんか?」

「申し訳ありません。残っている歴史は頭の中に叩き込んでいるつもりなのですが……」

「そうですか……」


 しゅん、とした水瀬は腰に日本刀を差し直す。

 まだ確証は得られていないが、西形の槍は見つかるかもしれない。

 だが一つでも情報があったのは収穫だった。

 とりあえずはその話題になっているという刃を見に行ってもいいだろう。


 となればその大道芸が行われている一団のテントのある場所を知らなければ。

 トライに聞いてみると、すぐに教えてくれた。

 彼等はこのミルセル王国で結成した一団で、他国に移動することはあっても大体はここを拠点に活動をしているらしい。


 場所はミルセル王国の中心から東に歩いた場所。

 広い国なのでたどり着くまでに徒歩で一時間を要してしまうようだ。

 今のところ他国に芸を見せに行くという話は出回っていないので、ここ一ヵ月の間は移動しないとのこと。

 とはいえ今は急ぎの旅なのでできるだけ早く確認したい。


「とりあえずレミさんが帰って来るまで待ちたいね」

「うん。しばらくすれば来てくれると思うから待とうか。でも水瀬さんの水面鏡……どうしよう」

「んー……」


 何一つ手掛かりがないのは予想していた事ではあるが、これ以上どう探したものか、と頭を抱えることになった。

 やはり一筋縄ではいきそうにない。


 しばらく考え込んでいると、トライが一つ手を打った。


「仙人様、一つお願いがあるのですが」

「なんだ」

「私は歴史資料館の館長であり、今も尚古い話を集め、その証拠となるものも集めて回っています。その中で長きを生きた仙人様の発言は何よりの証拠となるものです」

「……それで、なんだ」

「トリック・アベラス様の剣を見ていただけませんでしょうか」


 その話にテールとメルは首を傾げた。

 既にトリック・アベラスの剣として保管しているというのに、何故木幕に見てもらう必要があるのか分からなかったのだ。

 彼と共に戦った木幕であれば、確かにその剣が本物かどうか確認することはできるが……。


「もしかして、トリックの剣っていう証拠がないのですか?」


 二振りの日本刀を撫でている水瀬がおもむろにそう聞いたところ、トライは申し訳なさそうに小さく『はい』と言いながら頷いた。

 六百年も経っていればそれもそうか、とも思ったが、彼はこの国で英雄として祀られている存在だ。

 トリックの歴史は長く語り継がれ、その武器も石像になっている。

 そんな彼の所有物が本物かどうかわからない、というのはなんだか可笑しな話だった。


 とはいえ見るだけであれば、そんなに難しい事はない。

 なんならここに、トリックと共に戦った者が三人もいるのだから、本物でなければすぐに分かるだろう。


 了承すると、トライは早速立ち上がって剣が保管されている場所へと案内してくれた。

 厳重な警備が用意されており、魔道具なども使用しているらしい。

 トライの魔力に反応して解除される仕組みになっているようで、ごそごそと装置を動かして解除した。


 さらに奥へ進んでいくと、ガラスケースの中に保管されたロングソードがそこにあった。

 凝った装飾などは一切なく、十字架のような姿をしている美しい剣。

 今は既に輝きを失ってしまっており、剣身はくすんでいる。

 長年使い込まれた柄に巻かれている布は朽ちており、少しでも触ればぼろぼろと崩れてしまいそうだ。


 ガラスケースの中にあるということもあって、相当古いものだということが分かる。

 数百年間大切に保管されてきたこの剣は、この国の象徴とも言っていいだろう。


「これなのですが……」

「……違う」

「え?」


 ガラスケースに、木幕が手を触れる。

 睨みつけるようにしてその剣身を眺め、眉を顰めた。

 隣にいた西形と水瀬も木幕の言葉に頷いている。


「これはトリックの剣ではない」

「やはり……そうでしたか……」


 その事実に落胆することはなく、逆に納得した様子で彼はそう呟いた。

 しばらくの沈黙が続く。

 テールとメルはどうすればいいのか分からず、ただ顔を見合わせ、困ったようにしてもう一度そのロングソードを見つめた。


 メルはテールの力を使えばこれが誰の武器なのか分かるのではないか、と思いつき、声を潜めて聞いてみる。


「テール、この武器触って声……聞けない?」

「今そんなこと言える雰囲気じゃないんだけど……」

「まぁ触らせてくれなさそうではあるけどね……」


 ここまで大切に保管されているものなのだ。

 そもそもテールの力を信じてくれるか分からないし、これがトリックの剣ではなかったとしても長い時間保管されていた貴重な古い剣には変わりない。

 今まで通り大切にされても問題のない代物だ。


「……テール」

「え? あ、はい!」

「声を聞け」

「どぅえ!?」


 いつの間にか開け放たれていたガラスケースからおもむろにロングソードを掴み、テールへと押し付ける。

 さすがにぎょっとして駆け寄ってきたトライだったが、仙人としての木幕の行動なのでそこまで強く出ることができず、結局成り行きを見守ることになった。

 だが何をする気なのかまったく分からない状況なので、固唾飲んで待つしかなかった。


 手渡された剣は非常に軽い。

 本当に鉄が使われているのか不安になる程だ。

 くすんだ剣身は磨けば本来の姿を取り戻すだろうが、さすがに許可なく研ぐことはできない。

 今はただ、この剣が何かを口にするのを待つ。


『────』

「……ん?」


 何か聞こえた気がする。

 すぐに耳を近づけ、それを聞き取ろうと尽力する。


『──』

「……んん?」


 やはり何か音が聞こえるのだが、それが何なのか一切わからない。

 片耳を押さえ、もう片方の耳にくっつけるくらいにロングソードを近づけて目を瞑り、絶対に聞き逃さないようにして息を止める。

 なにかを聞き取ろうとしていることが誰の間からも分かったので、他の全員が音を立てないようにその場にじっとして立って待った。


『──こんにちわ』

「声ちッッッッッッさ!!」


 とんでもなく声が小さく甲高い。

 大声でツッコんでしまい灼灼岩金と隼丸に盛大に笑われた。

 これは……不意打ちのもほどがある。

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