9.4.ミルセル王国での探し物
街道を走り、ようやく城門前までたどり着く。
いつも通り入国料を払ってから、馬車と馬を預けられる場所へと向かい、もろもろの手続きをしてようやく捜索準備は完了する。
あと宿を取らなければならないのだが、それはレミが担当してくれるらしく一足先にスゥと一緒に宿泊施設がある方へと歩いていった。
残されたのはテールとメル、そして木幕だ。
さて、ここでは二つの探し物がある。
内容は移動中馬車の中で聞いていたが、再確認に意味も込めてもう一度口にした。
「えっと、この国に西形さんの槍と、水瀬さんの日本刀があるんですよね」
「そのはずだ」
彼らの持つ武器には保護魔法がかけられており、六百年経った今でも昔の姿を保ち続けている。
折れていたとしても、西形と水瀬の魂があるということから、武器は未だに残っていると推測した。
西形の槍の名前は一閃通し。
先祖代々引き継がれてきた片鎌槍で、彼の祖父から正式に受け取った大切な槍なのだとか。
片鎌槍とは、槍身の枝にある鎌槍の一種であり、片側に枝のあるものを片鎌槍と言う。
もう少し簡単に言うと、十文字槍の片方の刃が欠けてしまったものだ。
西形の持つ槍はまさにその典型的なもの。
何度か目にしたことがあるテールは、形が頭の中に入っているので、もし見つけたらすぐに分かるだろう。
メルもこの武器で何度か刺されているし、忘れたくても忘れられないはずだ。
一閃通しは穂先のみを折られているらしいので、小さな欠片を探すのは苦戦するかもしれなかった。
因みに本人に曰く、柄の方も探して欲しいとのこと。
そして水瀬の日本刀の名前は水面鏡。
二振りの日本刀であり、忍び刀の特徴が色濃く出ているもので、重心が柄の方にある。
これによって非力な女性である水瀬でも、凄まじい速度で二振りの日本刀を振るうことができるのだ。
もちろんこれも折れているので、探すのに苦労するかもしれない。
なにせこれらは六百年前に失われた物なのだ。
ここではないどこかに移動している可能性もあるし、もしかしたら家屋の立っている地下に埋まっているかもしれない。
どう頑張っても取り出せないような場所に封印されているかもしれないので、望みは本当に薄かった。
しかし探さなければならないことには変わりがない。
なんにせよ、まずは情報が必要だ。
とりあえず灼灼岩金に、地面に埋まっている日本刀を探し出せないか聞いてみる。
『無理だ』
「無理なんですか?」
『我の奇術は大地を歩くモノしか分からん。その辺に落ちている鉄など石と同義よ。違いが分からぬわ』
「スゥさんの獣ノ尾太刀ならできるのかな……」
『できぬと言っておったろう』
「あ、そうか……」
大地を操るのだから、できそうではあるのだが……。
残念ながら獣ノ尾太刀に特定の鉄を探す能力はないらしい。
そもそもあったらここまで考えを巡らせてはいないだろう。
さて、どうやって調べるか。
腕を組んで唸っているテールの隣りで、メルも一緒に考えこんでいる。
木幕も妙案は浮かばないようで、顎に手を添えたまま動こうとしない。
この広大な国の何処にあるかも分からない折れた武器。
長い間放置され続けていた探し物を探し当てるのは、並大抵の努力では見つけ出すことはできないだろう。
「テール、どうする……?」
「んー……。聞き込みも意味なさそうだしなぁ……」
『『ねぇねぇ。何かこの辺に展示してる場所はないの?』』
「展示、ですか?」
隼丸の言葉にテールは耳を傾ける。
『『そうそう。僕のいた世界ではそんなことなかったんだけどさ、物を売りに出す時は人に見せるだろう? 目玉商品は一番最前列に置かれてたし、そういうところ探したら何かあるんじゃない?』』
「てなると……図書館かな……? 展示ってなると歴史資料館とか?」
古いものなので、歴史に残っている可能性は確かにある。
槍と日本刀が折れた状態で保管されていることはないだろうが、やはり歴史から調べた方が何か掴めるかもしれない。
この事を木幕とメルに話してみたところ、特に他の考えも思いつかないので隼丸の提案に乗ることになった。
これだけ大きな国であれば、幾つかの図書館はあるだろう。
歴史資料館は重要な物ばかりを保管している所なので、庶民は入れないかもしれないが。
そこにミルセル王国勇者のトリック・アベラスの剣もあるのだから、厳重な警備の下で保存をしているはずだ。
そんなところに入れるわけがない。
……が、約一名それを聞いて面白そうに顎をさすった。
「そういう場に、ある可能性は高いか」
「「……えっと」」
「参るぞ」
「「待って」」
話を聞いていなかったのか、と心の中で叫び散らしたが、ルーエン王国で貴族街に土足で入った彼を間近で見ていたテールは、どうしてこういう時にレミがいないのだとまた頭を抱えたのだった。




