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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第八章 不死の毒牙
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8.20.突然の絶叫


 完全に煙の中に捕らえられてしまったスゥは目を閉じる。

 獣ノ尾太刀を中段に構え、長い刀身を一切動かすことなく静止していた。

 目を開けると、おもむろにそれを持ち上げて横凪に振るう。

 すると鋭い金属音が再び鳴った。


 ギチギチと鍔迫り合いをしている二人。

 なぜ自分の位置が分かったのかと乾芭は眉を顰めたが、恐らくこれは偶然だ。

 毒が効かないことも気になるところだが視界不良には変わりない。

 すぐさま後退し、再び気配を消した。


 だがスゥにはそれがまるわかりである。

 索敵能力を持っている彼女はこの程度の煙の中では敵を見失わない。

 脇構えにしてある一点に向かって踏み込み、下段から突き上げるようにして切っ先を乾芭目がけて突き出す。


 それを首を傾げて回避した乾芭。

 彼女の攻撃は殺気が籠っておらず分かりにくいものだが、無垢な気配はよく分かる。

 今ので自分の居場所を把握していることを悟ったので、すぐに戦い方を変えた。


「毒分身」


 種の様に撒いた毒が、一瞬にして複数の乾芭を作り出す。

 全員が背にあった忍び刀を握った瞬間、総勢十名の分身がスゥ目がけて突っ走る。

 抜刀の勢いを殺すことなく斬りかかった三人は、地面から飛び出した土の棘に腹部を貫かれて消えた。

 周囲を取り囲もうとしていた七人は地面が裂け、その中に落ちて食われる。


「む」


 本体のところにも同じような気配が伸びてきたので、その場から跳躍して離脱すると大地が裂けた。

 着地地点も同じように大地の口が開いている。

 即座に懐から鎖を取り出した乾芭は、木の方にそれを投げて巻き付け、ぐんっと引っ張って空中を移動した。


「ん?」


 自分が空中にいる間、スゥはこちらを見ていない事に気付く。

 地面に着地してみると、パッとこちらを向いて剣を構えた。


 なんとなく彼女の能力を理解した乾芭は顎をさすった。

 要するに大地にいなければこちらの位置は分からないらしい。

 となると……宙から数で攻め立てれば、仕留めるのは容易の筈だ。


 こんな子供相手に時間をかけすぎた。

 すぐさま分身を二十体作り出し、それぞれを二人一組にして移動させる。

 一人が地面に跪き、膝に手を置く。

 もう一人が走ってきた勢いをそのままにその手に足をかけ、十名が一斉に宙を舞った。


「っ!!」


 自分の弱点を突かれたスゥは即座に獣ノ尾太刀を振るう。

 大地から大量の土の棘が生成され、空中で移動できなかった分身は無様に串刺しにされてしまった。

 でろりと溶けた分身が黒紫色の液体になってその場に落ちる。


 ぱんぱん、と乾芭が手を叩くと、先ほど串刺しにされた分身の毒が動いて移動し、その液体から分身が再生された。

 大地を利用するあの攻撃、防御は厄介だが抜け穴はあるはずだ。

 なにより、先ほどの攻撃で彼女はあからさまに動揺していた。

 これが弱点と見て間違いはないだろう。


「さて、あちらはどうなったかな?」


 ゆらりとした動きで振り返った乾芭は、軽い足取りでその場から離れる。

 毒分身を作り出した時、二人の分身を向こうに派遣しておいたのだ。

 一人でも問題はなかっただろうが、念には念を入れてすぐに仕留められるようにしておいた。

 未だに分身が死んでいないことを察するに、もう終わっているのかもしれない。


 であれば毒に侵されている人間二人の顔でも拝むとしよう。

 そういえば久しくその顔を見ていなかったな、と気付くと途端に楽しみになってきた。

 さてどの様な顔をさらしているのだろうかと期待を膨らませていると、妙な光景が目に飛び込んでくる。


 少年と少女が溶岩を背に武器を構えている。

 なにをしているのだ、と首を傾げると分身が急に動き出す。

 忍び刀を逆手持ちにして最高速度で肉薄した瞬間、二体の分身が消えた。


「あ?」


 ドポ、ボドブッ。

 溶岩の中で暴れている分身が二体。

 少年少女は即座に距離を取って溶岩の跳ね返りを回避し、その光景を見守っていた。


「ぐ?」


 乾芭の体に異変が起きる。

 腕が灼熱の様に焼けただれる感覚が走ったのだ。

 だが外傷はない。

 鋭すぎる痛みは拷問の訓練を行っていた時の比ではなく、顔を歪めて歯を食いしばらなければならない程の物だった。


「ぐおああああ!!? なぐっ!? ぐんぬぅうう!!」


 突然の絶叫に、溶岩を見つめていた二人の視線がこちらに集まる。

 即座に武器を向けてくるが、今はそれどころではなかった。

 とにかくその痛みに耐え、腕を地面に叩きつけては痛みを誤魔化す。


 乾芭はどうしてこのような症状が起きているのか一切理解できていなかった。

 彼の魔法は確かに不死身に近い能力を持っている。

 しかし……不死ではない。


 彼は魂を毒に変換してしまっているのだ。

 その一部の消滅は……彼の魂に絶大なダメージを与えることになる。

 今乾芭が感じている痛みは肉体の痛みではなく、魂の痛みだった。


「な、なんか効いてる!?」

「なんで!? どうして!? 灼さん!!」

『我が知るかそんなもの! だが……おい若造! 先ほどの様に奇術で奴を我の術の中に落とせるか!?』

『『距離が遠すぎる! 近づいてもらわないと! だけど……』』

『ああ。これで、奴の弱点は見切った!!』

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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