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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第八章 不死の毒牙
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8.11.仕込まれた毒


 右足が足首から切断された。

 支えを失った体は溝に落ちるかのようにしてべしゃりと座り込んでしまう。

 手を突いて何とか背中を打つことは避けたが、伝わってくる強烈な違和感に顔をしかめた。


 西形が倒れてようやく木幕が何をしたのか理解したレミは、目を見開いて顔を見る。

 彼は大して悪気があるような顔はしておらず、いつも通りだ。

 おもむろにその場に存在し続けている西形の右足を手に取ると、もう一度小太刀を抜いて細切れにした。


 血液などは出ないが、代わりに白い靄が立ち上って消えていく。

 そして……黒紫色の液体が、地面にべちゃりと落ちた。

 それはゆっくりと地面を這っているようで、何かに引き寄せられるようにして進み続けている。


「これは……!」

「木幕さん、せめて一言。一言だけでいいからくれませんかね?」

「……水瀬の奇術に似ているな」


 西形の言葉を無視し、小太刀を納刀してその黒紫色の塊をしげしげと見つめる。

 魂の位置からして、辻間と西行のいる方向へと向かっているようだ。

 となると、これを頼りにして乾芭は西形を追ってきたのだろう。

 どれだけ遠回りして目を欺こうと、これが仕込まれていたのであれば無駄な労力となる。


 そしてこの魔法の使い方。

 これは水瀬が使う魔法の一つに近い使われ方をしているようだ。

 彼女の魔法は水を操るのだが、それとは別に水を設置しておいた周辺の音のみを聞くことができる索敵魔法を所持している。

 いわば魔法の応用。

 乾芭も自分が所持している魔法を応用して、このような芸当ができるまでに理解したのだろう。


 素の実力、そして魔法、更に応用。

 どれも熟達しており、魔法に対する理解も深い。

 それだけで非常に厄介な存在であることはすぐに理解できた。

 乾芭に対する警戒度を、数段階ほど上げておく。


 木幕は西形に触れ、足の傷を完治させる。

 再び立ち上がれるようになったので、腰を上げて足の調子を確認した。

 問題はなさそうで、手に持っていた槍で石突をカンッと突いてテールたちのいる馬車へと指をさす。


「じゃ、僕は三人の護衛をしますね。三人なら、連れて逃げられますし」

「任せる。レミも護衛にあたれ」

「了解しました。善さんはどうします?」

「……あ奴らの根が折れていなければよいが……さて、どうするか」


 金属音が響く森の奥へと目線を向ける。

 あの二人であれば何とかなるような気もするが、一抹の不安が胸の内に残り続けた。

 嫌な予感というのはよく当たる。

 だが、今木幕が抱えている不安は彼らに対しての不安ではないような気がした。


 結局乾芭たちは彼らに任せることにして、木幕もテールたちの護衛に努めることにした。

 三人が馬車に戻ってみると、一生懸命メルとスゥを起こそうとしているテールが目に入る。

 スゥは子供のままだから眠りが深い。

 メルは……修行で相当体力を消耗していたのだろう。

 揺すっても叩いても起きる気配はなさそうだ。


「メールー!! スゥーさーん!! 起きてー!!」

「起きないのね……」

「あ! す、すいません……。僕じゃ……起こせそうにないです」

「まぁ木幕さんがいるから大丈夫だよ。それより、テール君は大丈夫? 柳さんの修行を受けてから休んでなくない?」


 テールはあれから少し休憩した後、すぐに研ぎに入ってしまった。

 それから暗くなるまでずーっと刃物と向き合っていたのだ。

 なので寝ていない。

 それに加えて乾芭を警戒するために夜の見張りまで請け負ってくれたのだ。

 少し無茶をし過ぎているような気がする。


 かくいう本人は、数十本のクナイを研ぎ終えてご満悦だった。

 先ほど砥石も回収し、大切に布に包んで保管している。

 一本だけ研ぎきれなかったのが悔やまれるが、今日はいい研ぎができたと思う。

 なので疲れは逆に吹き飛んでいた。

 が、それは研いでいた時の話。

 すべてが終わり満足をしてしまった今……強烈な眠気に襲われていた。


 西形に言われるまでは気付かなかったかもしれない。

 体も未だに濡れたままではあったが、もう服を脱ぐにも億劫なほどの睡魔が眠りにいざなってきている。

 急激に重くなる瞼を開け続けることができず、一瞬だけ瞬きをした。


「すー……」

「ありゃ?」


 一秒もかからず寝落ちてしまい、馬車の中で倒れるようにして横になる。

 レミは馬車の中に入ってせめて濡れた服でも変えてあげなければと思ったのだが、触れてみるとなにやら体が温かい。

 既に服の水気はなくなっており、乾いていた。


「ああ……灼灼岩金ね」

『ふん。小僧が体を崩しては仕事に差し支えるからな』


 灼灼岩金は自分の魔法を使い、熱だけをテールの体に纏わりつかせていた。

 この世界に来た時、主と共に寒い雪山を登った時に編み出した技である。

 こんなところで使う機会があるとは思わなかったが……。

 昔取った杵柄というのは馬鹿にならないものだ。


「さて、結局護衛は三人かぁー」

「まぁ何とかなるでしょう。あの二人もいますし」

「だと、いいのだがな。構えろ」

「「……え?」」


 木幕が見据える一点には、おぼつかない足取りでこちらに向かってきている男が一人居た。

 怪我をしているわけでもなく、何か重いものを背負っているわけでもない。

 ただ……生まれたばかりの小鹿のような歩き方をして、こちらに近づきながら満面の三日月の笑みを浮かべている不気味な存在。

 黒い忍び装束、そして背中には忍び刀。

 いるのかいないのかよく分からない存在感がその場に滞在しており、気配は皆無。

 本当に人間なのかと疑いたくなるような、気味の悪い男が……背負っている忍び刀に手を掛けた。


「ど、どこから!?」

「……厄介な」


 でろり、と溶けた片腕は、黒紫色をしていた。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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