8.5.発見方法
辻間は大きなため息を吐いて自分が言ったことの矛盾さを表現した。
同業である西行からは『馬鹿かこいつ』というような目を向けられている。
とはいえまず見つけなければ相手に先手を譲ってしまうことになる。
だが……見つけられれば苦労しない。
相手は忍びであり、まず普通にしていたら近づかれても発見することは不可能だろう。
そんなことを辻間はやろうというのだ。
ましてや自分たちよりも強いかもしれない男。
忍びとしての技量も、各段に上かもしれなかった。
辻間の言葉を最後に静まり返ってしまった空気を破ったのは柳だった。
腰に手を当てながら口を開く。
「辻間と西行が見つけることはできぬのか? 拙者も幾度か忍びの気配を感じ取ったことがあるが、お主らの気配は辿れなんだ。乾芭が同じであるなら、役には立たぬだろう」
「そりゃまたへったくそな奴もいたもんだなぁおい……。まぁいいや。気配だけじゃ絶対に無理だね。気を張っててもいつの間にか後ろに立ってる源六のジジイと同じほどの実力者だ。西行でも無理だろ」
「認めたくはないけど無理そうだね。僕と辻間は里長争いをするくらい期待されていたけど、源六様に勝てる自信はないね」
「忍びは弱気だな」
「ちげぇちげぇ。勝てねぇ戦いはそもそもしねぇのよ柳殿よ」
呆れたように言う辻間の言葉に西行は同意した。
成せないことを成すのではなく、成せることを完璧までに成すのが彼らの本質だ。
無理だと思えば退く。
可能だと思えば遂行する。
少なくとも、彼らの育った里ではその教えを守ってきた。
無茶をする事は確かにあったが、それでも失敗したことは一度としてない。
だが今回は……。
成せないことを成さなければならなかった。
守ることが苦手な彼らではあったが、そうしなければならない理由がある。
重い枷だな、と心の中で呟きながら西行はテールを見た。
貧弱で、剣もまだまともに触れず、頼りがいのなさそうな顔をしているのに、この少年の重要性は高い。
どうしてもやらなければならない仕事というのは、面倒なこと極まりなかった。
「まったく、面倒だね」
「いてっ」
そう声に出しながら、テールの頭を軽くはたいた。
さて、そろそろ話を戻さなければならない。
できるできないではなく、今回はやらなければならないのだ。
いつまでも昔のことを引きずっていても意味はない。
「で? 辻間はどうやって乾芭道丹を見つけるつもりなんだい?」
「一番手っ取り早いのが、スゥだな」
「確かにあの子の索敵能力には関心するけどね」
レミが馬車の中で寝息を立てているスゥに視線を向けた。
獣ノ尾太刀の能力を使えば確かにそれは可能だろう。
どれくらいの範囲を索敵できるのかはよく分かっていないが、大地に足を着けている以上近づいてくればすぐに分かるはずだ。
だが問題もある。
スゥの体はいつまで経っても子供のままだ。
なので睡眠時間も長く、警戒できない時間が一日の中に多く存在する。
こうなってくると、スゥがいない間の警戒を誰がするのかが問題に上がった。
「それは本来の持ち主である葛篭さんに任せればいいのでは?」
獣ノ尾太刀を所有していたのは葛篭平八だ。
能力は日本刀にあるので、彼も索敵をする事ができる。
スゥが寝ている間は彼に獣ノ尾太刀を持ってもらって索敵をしてもらえば、乾芭の接近に一早く気付くことができるだろう。
だが事はそう簡単に進まない。
葛篭が魔法を使用するには、木幕が彼に四割の力を使用して顕現させる必要があるのだ。
彼は確かに強いが、忍びを相手にするのであれば忍びに出てきてもらいたいというのが本音である。
既に西形に魔法を使用できるようにしてあるので、葛篭を出してしまえば使える力は無くなってしまう。
木幕が戦うことになる可能性も踏まえると、三割程度は力を残しておきたいのだ。
確認してみれば、柳、西行、辻間に一割ずつ。
そして西形に四割の力を使用しているので、既に七割の力が木幕から無くなっている。
残しておきたい力三割を押さえるのであれば、もうこれ以上は味方を出すことができなかった。
「忍が朝っぱらから来るとは考えられぬ。夜はスゥが寝てしまうし、守りと攻めの陣形を考えればこの布陣が一番良い。さてどうするか……」
『我を忘れているようだな』
「え? ここで……?」
声の主である灼灼岩金に目を向けると、彼は自慢げに語りだす。
『我の奇術は溶岩を操る! だが同時に、大地にあるすべてを理解することも可能!!』
「土系の魔法は索敵魔法が使えるのか……!」
『その通りだ小僧!! あのような長いだけの輩に後れは取らぬ!! さぁ小僧!! 我を使い、存分にその力を発揮するがいいぞ!! ぐぬはははははは!!』
『『うるせぇー……』』
これは新事実だ。
灼灼岩金がいるのであれば、スゥが寝ている間も警戒することができる。
テールが起きている必要はあるが、スゥと交代で切るのであれば楽なものだ。
すぐに灼灼岩金を手に取り、それをみんなの所に持って行く。
「み、皆さん! 灼さんは溶岩を操るだけじゃなくて索敵もできるみたいです!」
「マジかよ」
「ほぉ。それは僥倖。……だがテール。お主が起きておらねばならぬぞ? 問題ないか?」
「夜の間は研ぎしてるんで、大丈夫だと思います」
「んなら決まったな! はい、じゃあ考えるのやめよう」
「おい」
辻間の飄々とした態度にカチンときた西行は鋭い視線を向けるが、彼は気にすることなくその場を離れて木の上に登った。
相変わらず自由な奴だとため息を吐く。
だがこれで問題は解決した。
どの程度の精度で索敵できるかは分からないが、自分たちが発見できない以上彼らに任せるしかないだろう。
西行が木幕を見てみると、彼は小さく頷いた。
これでいい、とのお達しだ。
であればこれ以上策を練らなくてもいいだろう。
あとは……獲物が来るのを待つだけとなった。




