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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第七章 雷閃流継承者
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7.37.返却命令


『勝負あったな』


 灼灼岩金がそう言うと、西形正和は小さく飛んだ。

 着地すると同時に、シュンッという音を立ててその場から消える。

 元からそこに誰も居なかったかのような静寂がしばらく続いたが、それを破ったのは木幕だった。


 ライアの下へとゆったりとした歩調で近づき、その手に持っていた一刻道仙を握る。

 これ以上刃を傷つけまいと、赤子を触るような手つきで優しく持ち上げ、反対の手にあった鞘も丁寧に取り上げた。

 刃の鍔元から切っ先までを流れる様に見たあと、鞘に切っ先を流れるようにあてがう。

 そのまま刃を鞘の中へと収めるのだが、その際、音は一切聞こえてこなかった。

 最後に鯉口を静かに閉める。


『……分かっておったが、あやつはとんでもないな』


 日本刀を取り上げて納刀するまでの一部始終を見ていた灼灼岩金がそう言い、隼丸も声で頷いた。


「木幕さんの事ですか?」

『ああ。あの納刀……。見る者が見れば、それだけで戦意を削がれるであろうな』

「え、そんなに?」


 テールは何も分からなかったが、日本刀である彼らには何か分かることがあったようだ。

 使われているから、分かったのかもしれないが。


 木幕はすぐにレアルの前に立った。

 そして、今手にしている一刻道仙を彼に渡す。


「え?」

「……? まだ許可は得ておらぬ。今の主に返すのが、常識であろう」


 その態度に、レアルは目を瞠った。

 難癖付けて持って行かれそうな雰囲気を感じ取っていたので警戒していたが、まさかこうして一度返してくれるとは思わなかったのだ。

 レアルは丁寧にそれを受け取り、落とさないようにしっかりと握った。


「現当主」 

「うおっ!? く、首が……!」


 こちらを向いたまま目線を合わせて来た生首に、思わず肩を跳ね上げて驚いた。

 ライア・レッセントは満足そうな顔で、今まで手に持っていた日本刀を眺めている。

 彼が、このレッセント家初代当主。

 そんな人物と話せる機会があるなど夢にも思っていなかったレアルは、声を掛けられて暫く硬直した。


「一刻道仙を、木幕さんに渡しなさい。初代当主の命令です」

「…………お言葉ですが」

「お言葉は要りません。それは我が師匠である沖田川藤清の愛刀。彼らがここに来た理由は、この一刻道仙の回収でしょう? そうですよね、木幕さん」

「ああ」


 木幕が先ほど口にした言葉だけで彼らがここにきている理由を看破したライア。

 それ以外の理由で彼らがここに来ることはないだろうし、今も尚自分の心の中で燻っている殺意から察するに、自分はそれを阻止するために蘇らされたのだと勝手に想像する。

 彼はレアルにもう一度目線を向け直した。


「現当主。渡しなさい」

「違うのです、初代当主ライア様。私も、貴方様からそう言われれば、そうするつもりでした。ですが一つだけお聞きしたい」

「ふむ」

「本当に、良いのですね?」

「当たり前です」


 間髪入れずに、ライアはそう口にする。

 これは元より沖田川の日本刀であり、自分はその武器を託された弟子に過ぎない。

 代々一刻道仙を守り続けてきた子孫たちには感謝している。

 だが、この……この日本刀は。


「それは呪いの日本刀……。わが師を救うために、返さなければならない物」

「呪い……?」

「ライア。お主……知っていたのか」

「負けを認めた瞬間、自身の身に起こっていることを理解しました。僕も呪われているんですよね。師匠の魂も、一刻道仙に……」


 最後は寂しそうにしながら言葉を濁す。

 恐らく自分があの少年に抱いているとんでもない殺意は、それを阻止するためのもの。

 あの少年が、彼こそが……呪いを解く鍵なのだと教えてくれた。


「現当主」


 ライアはもう一度レアルを呼び、その目を見つめる。

 するとライアの体が次第に朽ち始めた。

 その速度は意外と早く、数秒の間に下半身が消えてしまう。


「一刻道仙は、このために守られてきた日本刀。その役目を見事果たしてくれたこと、礼を言います」

「……はっ」

「あとは、頼みます」


 パリバリッ。

 静電気が走り、ライアの体が完全に朽ちて砂になる。

 それすらも朽ちて空気に溶けるようにして完全に消え去った。


 宝物庫に付けられた傷がよく目立つ。

 これが初代当主の真の実力であると、教えてくれていた。

 レアルはそれを見た後、木幕に向きなおる。


「……仙人様。これを」

「……うむ」


 差し出された一刻道仙。

 それを丁寧に受け取ったあと、レアルの肩をぽんと叩く。


「かたじけない」

「いえ、初代の願いを叶えるためです」

『……懐かしや』


 木幕の手に握られて一刻道仙が、ふと呟いた。

 彼の中にある沖田川の魂を感じ取っているのだろう。

 優しさに満ちた声は老人のようで、口数が少なそうな印象が残った。


 一刻道仙を何とか手に入れ、砥石を手に入れ、脅威を打ち破った一行。

 ここでの目的は果たしたため、双方の組が合流を目指すためにその場を後にする事になったのだった。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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