7.29.片足一本
地面が揺れる。
クオーラクラブの甲羅は非常に重く、それが思い切り地面に叩きつけられた。
立っていられないという程ではないが、足から伝わってくる振動に心地悪さを覚える。
それを間近で感じていたメルは、目をつぶっていた。
次に来る衝撃に供えていたが、どうしたことか何もない。
恐る恐る目を開けてみれば、地面が大きく盛り上がってクオーラクラブの胴体を支えていた。
メルに当たるか当たらないかといったギリギリでクオーラクラブは静止しており、これ以上落ちてくる事はない。
「っ!」
スゥが足を踏み込む。
ぺんっと可愛らしい音が鳴ったかと思うと、地面が動いてクオーラクラブが押し返された。
転がらないように必死に脚を動かし、何とか体勢を整えながら後退する。
どうやらスゥが助けてくれたようだ。
あれだけの土を動かせるのは、この中ではスゥしかいない。
さっきまで柳に抱えられていたはずだが、抜け出してきたようだ。
当の本人は後ろでそのまま戦いを傍観しており、レミも同じように見守っている。
「はっ!」
すぐに立ち上がったメルは、一度体勢を立て直すために距離を取る。
懐に潜り込み続けるとまた暴れさせてしまいそうなので、今度はすぐに抜け出そうと考えた。
動きの遅いクオーラクラブであれば、追いかけることは難しいだろう。
しかし、あの甲羅を斬れなかったことを思い出す。
関節部位を狙えと柳からは教わったが、まったく歯が立たなかった。
幸いにもナテイラの刃は未だ健在だ。
凄まじい切れ味は今も尚有しているとは思うが……本当に自分にできるのだろうか。
だが柳にはできていたはずだ。
懐に潜り、回転しながら下段より斬り上げるようにして日本刀を振り抜き、脚を両断する。
見ていたので、動きは覚えていた。
「……あ! スゥさんが伝えようとしていたのって……」
スゥがゼスチャーで伝えようとしていたことが、今なんとなく分かった気がした。
柳は、確かにクオーラクラブの脚を両断した。
そのやり方を、スゥはもう一度しっかり考える様にと伝えたかったのではないだろうか。
自分がやっていなくて、柳がやっていた事。
「下段からの切り込み!」
メルは今まで、上から叩きつけるか、水平切りしか行っていない。
なにせそちらの方が力が乗るのだ。
力強く斬撃を繰り出すためには、やはり武器の重さを利用するのがいい。
柳も一度回転することで日本刀に遠心力を乗せていた。
それとまったく同じことをしてみれば、もしくは……!
メルは思いついた瞬間、即座にクオーラクラブへと接近した。
クオーラクラブの特性を知っている可能性のある仙人の仲間であれば、甲羅の“割り方”を知っていてもおかしくはない。
今一度柳の動きを思い出す。
回転は流麗で、無駄な力を一切入れていなかった。
関節を守っている甲羅へ一撃を与える際は迷いがない。
では同じ様に、何とかやってみる。
クオーラクラブのハサミが迫ってきたが、それを危なげなく回避して腹の下に滑り込む。
脚が動いて関節部位が狙いにくくなった。
とはいえ脚の動きにも規則性がある。
自分の手が届く範囲で、最も動きの少ない脚を一瞬で見極めた。
一本。
片側の一番後ろの脚。
最も動きの少なかったその脚目がけて、メルは一気に詰め寄った。
そして右足を軸にして回転し、両刃剣・ナテイラに遠心力を乗せて下段からの切り上げで関節を狙う。
「はあっ!!」
真下から掬い上げるようにして繰り上げた両刃剣・ナテイラは見事にクオーラクラブの関節に直撃する。
期待を込めた明確な一撃は、クルミが割れるような音を洞窟に響き渡らせた。
「おお」
「しっかり見てたみたいですね」
「うむうむ。見事なり」
二人が満足そうにその様子を見る中、クオーラクラブから少し離れたところに、一本の脚が転がった。
「や、やった……!」
「ゴブクブクブクブク」
余裕をかましていたクオーラクラブも、メルをようやく危険な存在だと認知したらしい。
脚一本無くなったところで動きに制限はかからないが、数多の攻撃を弾き返してきた戦闘経験のあるクオーラクラブは自分の身が危機に瀕していると察知した。
即座にハサミを持ち上げ、振り下ろして地面を殴る。
先ほどと同じように、メルを転ばせてお膝部作戦を実行する様だ。
脚も同時に動かし、地震を発生させようとする。
だがそれは、小さな手によって防がれた。
スゥが地面に手をついて、クオーラクラブの脚を捕らえてしまう。
地震を発生させることができなくなったことに気付いてハサミを持ち上げるが、それはメルによって切り飛ばされた。
「スゥさんありがとうございます!」
「っ!」
残ったハサミで何とか交戦しようとしたクオーラクラブだったが、その前にスゥが体に手を触れた。
バガッという音を立てて甲羅が半分割れる。
中から内容物が零れだし、生命を維持することができなくなったクオーラクラブの瞳が、真っ黒から真っ白に変わっていった。




