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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第七章 雷閃流継承者
153/422

7.22.誤解です


 どうしてこうなってしまったのか。

 触ることも躊躇しそうな高級そうな椅子に座らされ、シンプルだが明らかに値の張るであろう色合いをしている机が目の前にある。

 その上には先ほどの使用人が運んできた茶菓子と紅茶がこれでもかというくらい机に広げられており、色とりどりの菓子が積まれていた。


 部屋の中もきらびやかな飾り付けがされており、少し眩しい。

 何年前に描かれたのか分からないような絵画が、木の根をモチーフにし額縁の中に納まっている。

 壁紙は一切の汚れがなく、暖炉の上には巨大な魔物の角らしき剥製が掛かっていた。

 こんな部屋に独りぼっちでないだけましだとは思うのだが、場違い感が否めず小さく縮こまる。

 目の前に用意された茶菓子も、とてもではないが手に取る勇気はなかった。


 使用人が満足げに笑った後、一礼をする。


「レアル様がすぐにお越しになられますので、今しばらくお待ちくださいませ!」


 そう言い残し、使用人はシュタタッとその場から居なくなってしまった。

 弁解する余地もなく、これからどうしようかとまた頭を悩ませることになってしまったテール。

 ちらりと木幕と沖田川を見てみると、静かにその場で行儀よく待っていた。


「あのー……」

「なんじゃ?」

「いや、明らかになんか誤解されてる気がして」

「誤解? 何も間違ったことは言っておらんと思うが」

「いや、あのですね……」


 テールが思うに、あの使用人は絶対勘違いをしている。

 先ほど『家宝についてお話があります』と言ったが、恐らく彼女は件の日本刀を回収して来てくれたのだと思っている可能性が高い。

 だがこちらとしては、ただ本当に話があるだけなのだ。

 物があるわけでは……ない。


 そのことを沖田川に共有すると、何故だか大笑いした。

 次第に笑いが収まっていくが、カラカラと笑う彼は面白そうにして顎を撫でる。


「言霊とは面白いものよなぁ。さて、どうなるか少し楽しみじゃ」

「ぜんっぜん楽しみじゃないんですけど……。むしろ心臓が持たない……」


 ガチャリ、と扉が開けられる音がした。

 それを聞いて背筋を伸ばし、自分の中の緊張の糸が張りつめるのを感じ取る。

 恐る恐るそちらの方を見てみれば、ストレートに伸びた綺麗な金髪の男性が立っていた。

 ぴしっと着こなした豪華な服は彼の体のラインをよく強調してくれている。

 その腰には黒い合口拵えの日本刀が携えられており、ベルトでしっかりと固定してあった。


 若く、中世的な顔立ちをしている彼はまずこちらを見て驚いた。

 独特な出で立ちでそこに座る二人の服装は、やはりこの部屋には似合わない。

 だがすぐに気を取り直し、小さく頭を下げた。


「お初にお目にかかります。レッセント家当主、レアル・レッセントでございます。メイドより話を伺いました。仙人様」


 その言葉に、テールはバッを顔を上げてレアルの顔を見た。

 木幕と沖田川は、興味深げに彼を見る。

 木幕が仙人であることは誰も言っていないし、あの使用人が気付いたとも思えない。

 となると、レアル自身がそれに気付いたということになる。


 彼は一礼すると、こちらに歩み寄って向かいの椅子に座った。

 貴族らしい動きは少しぎこちないが、それが緊張の表れだということは誰もが理解できた。


「リヴァスプロに居られたのではなかったのですか?」

「訳あって旅をしている」

「ほぉ~……よう似ておるわ……。木幕や、ライアにそっくりじゃのぉ」

「うむ」


 沖田川が品定めするような目でレアルの顔をまじまじと見る。

 何処からどう見ても、過去の弟子であるライアに似ていて仕方がなかった。


 先ほどの言葉を聞いたレアルは、少し眉をひそめて訝しむ。

 だが彼らの事を仙人だと知っているので、その疑問はすぐに消え失せた。

 代わりに信じられないとても言いたげな目線を、沖田川へと向ける。


「も、もしや……。ライア様の……お師匠?」

「お? 数百年経った今でも語り継がれておるとは意外じゃな……。儂の事は、どう語り継がれておるのじゃ?」

「なんと……!」


 驚きの声を上げ、興奮気味にレアルは立ち上がる。

 かの英雄のお師匠様が、仙人と共に生きていたことに感激した。

 彼らを見た瞬間、話に聞いていた仙人の事を思い出し、木幕の貫禄を見て彼らが仙人であるということはすぐに分かった。

 だがまさかこのような形で、英雄を知る師に出会えるとは思っていなかった。


 聞きたいことが山のように溢れ出るが、そこで一度自分を押しとどめる。

 まずは、彼らがここに来た理由を聞かなければならない。

 私情を後周しにするのは当然の事。

 落ち着きを取り戻し、コホンと咳払いをしたレアルは椅子に再び腰掛ける。


「失礼……。それで……メイドの話では家宝、一刻道仙を持ってきてくださった、と聞いているのですが……」

「やっぱりそうなってるかぁ~……。すいません、それ……誤解です……」


 予想した通り、あの使用人は日本刀を持ってきてくれたと勘違いしていたようだ。

 テールは申し訳なさそうにを説明する。


「僕たちは、沖田川さんの日本刀を持っているわけではありません。それとは別件で、レッセント家の家宝である日本刀の件で、お話があるのです」

「ああ、そうでしたか。それは家のメイドがとんだ早とちりをしてしまったようですね。もう少しお客人のお話を聞くようにと、言い聞かせておきます」

「えぇ……? あ、はい……」


 貴族であるにもかかわらず、レアルの物腰の低さにテールは驚いた。

 普通貴族という者は、立場の低い者に敬語をほとんど使用しない。

 テール自身それは何回も見て来て慣れている事だったのだが、レアルにこう敬語を使われるとなんだか違和感しかなかった。


 だが恐らく、仙人の仲間の様に自分も見られているのかもしれない。

 それで気を使ってくれているだけだろうと勝手に納得した。


「では、ここに来た本当の目的は?」

「それはですね……」


 そろーっと沖田川を見る。

 ここにある日本刀は彼の物だ。

 自分から口にしてもらった方がいいだろうと思い、その先の言葉を沖田川に譲った。


 コクリと頷いた後、端的に目的を口にする。


「儂の愛刀、一刻道仙を返してもらえんかの」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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