7.17.素材採取
一体、スゥはどういった魔法を所持しているのだろうか。
長い年月を生きて来た一人ではあるものの、呪いのせいで成長を止められている。
だというのに彼女は様々な技術を習得している様だった。
完全に呪いを無視しているような気がする。
スゥがクオーラクラブに手を触れると、背中に生えていたクオーラ鉱石がゴロゴロと転がり落ちた。
それはすべて完璧な状態で保存されており、傷一つない。
クオーラ鉱石がとんでもなく硬い鉱石であるからかとも思ったが、クオーラ鉱石はクオーラクラブから離れてしまうとその強度を急激に失う脆い鉱石となり下がる。
とはいえその輝きは一級品のままだ。
柳が転がり落ちたクオーラ鉱石を片手で軽々と持ち上げた。
彼の上半身ほどもある大きさではあるが、比較的軽い鉱石らしい。
重いのはクオーラ鉱石と一緒にくっついているクオーラクラブの甲羅だ。
とはいえ、それもスゥの魔法でできるかぎり綺麗に取り払われているので、苦にはならない重さとなっている。
手のひらの上でクオーラ鉱石を回転させながら、柳はその全体を確認した。
幾重にも飛び出た黄色い結晶。
天に突き出すかのように上へ上へと伸びようとしている鉱石は、非常に美しかった。
周囲の青白い光に負けじと、黄色い光で身を包んでいる。
ひとしきり眺めたあと、それをぽーんとレミへと放った。
すぐにキャッチしたレミは、それをスッと魔法袋の中へと仕舞う。
「良い型だ。他のも回収してしまおうか」
「分かりました」
「えーーーーっと……私は何すればいいですか?」
「回収のお手伝いよー」
「りょ、了解です……!」
ててててっとクオーラ鉱石が転がっている所まで走っていき、そっと手に取る。
ぐっと力を入れて持ち上げてみると、何とか持ち上がった。
ずっしりしており、意外と重い……。
さきほど柳は片手で軽々と振り回していたが、あれは彼自身が怪力の持ち主だからなのだろうか。
とはいえ歩けない程ではないので、躓かないようにだけ気を付けてレミのところへと運んでいく。
それを受け取り、魔法袋の中へと仕舞う。
これをあと八回繰り返した後、全てのクオーラ鉱石を回収し終わった。
カンカンコンコンッ。
カーンコンコンッ。
スゥがその辺にあった石で、クオーラクラブの死骸をつつきまわしている。
なにかを確認しているようだが、遊んでいる様にも見えた。
なにをしているのだろうかと思って首を傾げていると、おもむろに手を甲羅に当て、その部位を片手ではぎ取った。
「っ~……。っ」
被り物をはぎ取るように簡単にその甲羅を手にしたスゥではあったが、すぐに後ろの方にぽいっと投げ捨ててしまった。
ゴッ……という音を立てて甲羅が転がる。
「スゥさんは何をしているんですか?」
「クオーラクラブの甲羅は荒砥石になるの。だけどできるだけ硬い場所を選ばないといけないらしいのよね」
「それが分かるんですか?」
「スゥちゃんはね」
再び剥ぎ取った甲羅を、また捨てる。
難しそうな顔をして、今度は斬り飛ばされたハサミの方へと足を向け、またべりっと剥ぎ取って確認する。
「スゥさんの魔法ってなんです?」
「土魔法よ。あ、いや……土魔法っていうより……大地魔法かな?」
「何が違うんですか?」
「土魔法は土を様々な形にして攻撃したり防御に回したりするけど、大地魔法だと地面にあるものであればなんでも使うことができる。土、石、岩、樹木、雑草……全部ね」
「ひょえっ」
あまりに規格外な魔法を聞いて、メルは縮こまる。
あんな小さい体の何処にそれを扱えるだけの魔力と技術が溜まっているのだろうか。
そんな魔法が使えるのであれば、確かにレミが自分よりも強いといった理由が分かった気がした。
……これも、呪いのせいなのだろうか?
「更に」
柳が付け加えるようにして、こちらを見た。
「スゥは木幕の剣術、葉我流剣術の免許皆伝を授けられている。それがあの大太刀、獣ノ尾太刀で繰り出されるのだ。まったく、背の差など刀身の長さで補われてしまう。油断した方が負けるとは、スゥと戦った場合によく使う言葉だ」
感心したような、それでいてどこか羨んでいるような声色で、優しい笑顔のまま柳はスゥの事を褒める。
自分が彼女に劣っているとは思わないが、本気でやり合えば互角程の実力だろうと考えていた。
あの大太刀が、スゥに力を貸していることは確かだが武器の性能で優劣を付けられるとは思っていない。
あれは、紛れもない彼女の実力だ。
「さて」
気を取り直した柳は、メルに目線を合わせる。
優しい笑顔が何だが不気味だ。
というのも、これから何を言われるか薄々分かっているからである。
耳を塞いで聞こえなかったふりを貫き通したいとは思ったが、それを許してくれる人物ではないだろう。
ゆっくりとクオーラクラブを指で指した柳は、メルに鬼の所業とも言える難題を口にした。
「メル」
「無理です」
「あのクオーラクラブを」
「無理です」
「倒してみようか」
「無理ですってー!!」
にこやかな笑顔をこちらも崩さなかったが、最後まで彼の話を聞いてしまったメルは頭を抱えて叫んだのだった。




