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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第七章 雷閃流継承者
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7.10.移動中の会話


 早速ルーエン王国の大門を通り抜けて入国する。

 門番は木幕と柳の出で立ちに驚いていたが、彼らは一切気にすることなくその横を通り過ぎた。

 大通りはずいぶん賑わっており、物資を積んだ荷馬車や木箱を抱えて歩いていく数名の労働者、店へと客を呼び込む者や今まさに出店を出そうとしている者などさまざまで、通行人は足を止めて商品を見たり、物珍し気に遠巻きに見ながら歩いてく者も多い。


 そしてここ、ルーエン王国はテールが使っていた砥石発祥の地でもある。

 いつか来てみたいとは思っていたが、まさかこんな形で訪れることになるとは思っていなかった。

 これから自分だけの砥石をここで入手する。

 それを考えるだけでテールはわくわくが止まらなかった。


 だが、その砥石がどうやって作られているかよく知らない。

 石を削りだしているということは知っているのだが、それがこの国にあるとはなんだか思えなかった。

 山がある訳でもないし、大きな鉱脈がある訳でもない。

 では、一体何処で採掘して削りだしているのだろうか?


 気になったので聞いてみようとしたところ、メルが先に違う質問をレミに投げかけた。


「レミさん。ここではテールの砥石を作るだけが予定なんですか?」

「いいえ。実はもう一つあるの」

「もう一つ?」

「沖田川さんの、刀を譲り受けに行くのよ」


 二人の頭の中に、老人の顔が浮かび上がった。

 彼も侍の一人であるということは知っていたが、まさかここに武器があるとは思いもしなかった。

 しかし彼の武器は一体何なのだろうか?

 腰に携えている白い棒は見たことがあるが、まさかあれではないだろう。


「そのー、沖田川さんの武器ってどんなのですか?」

「あら? 貴方たちに姿を見せた時、常に持ち歩いていたわよ? あの腰に携えていた白い刀」

「「あれが!?」」


 二人はすぐさま柳と木幕を見る。

 腰にはしっかりと日本刀が携えられており、色の濃い鞘が刀身を隠しており、鍔と鞘がこちらに向けられている。

 鞘にはいくつか紋様が描かれているようではあるが、それらはテールが腰に携えている灼灼岩金と隼丸によく似ていた。


 今まで見たことのある日本刀は、どれもが同じような姿をしている。

 だから沖田川もそう言った武器を持っているのだろうとは思っていたのだが、まさか鍔もなく、そしてただの白い棒……それこそが日本刀だとは思いもしなかった。

 驚いている二人に、柳が隣から口を出す。


「沖田川の持っている日本刀は合口拵え。鍔のない日本刀だ」

「この世界の剣はほとんどガードが付いていますけど……。無いなんてあるんですね?」

「ああ。鍔迫り合いには向かぬが、あやつはその前に切り伏せる。まっこと、油断ならん翁よ」

「えーと、それが……。この国にあると?」

「そうだ」


 テールとメルが見た沖田川の刀は、魂から形どられたもの。

 なので本物ではない。

 それが今もこの国にあるということに少なからず驚いたが、そう言えばあの刀は壊れないということを思い出す。

 とはいえ、それを数百年間守り続けている家は、彼から受け賜わった刀を厳重に保管しているずだ。

 そう簡単に渡してくれるだろうか?


「返してくれなければ困るのだがな」


 柳は少し困った笑顔を向けて、そう口にした。

 なかなか難しそうな話ではあるが、木幕がいるので何とかなると信じたい。


 そこでテールは、柳が携えている日本刀に目が行った。

 優しく美しい曲線を描いているということが鞘越しに分かるが、木幕の持っている物より反りは少ない。

 その視線に抜け目なく気付いた柳は、テールによく見えるようにして少しだけ鞘を腰帯から抜く。


「良い刀だろう?」

「これも魂から取った日本刀なんですか?」

「いいや、これは拙者の愛刀だ。本物である」

「えっ」

『やはりなぁ』


 灼灼岩金が喉を鳴らした。

 今まで静かだったので、急に声がして驚いてしまう。


『この刀……ふん。神でも真似ているつもりか』

「え? 灼さん、どういうことですか?」

泣沢女神(なきさわめのかみ)のようなことをしておる。刀であるのに、詰まらんことを』

「なき……え?」


 聞き慣れない単語に問い返すが、灼灼岩金はこれ以上説明する気はないらしい。

 大きくため息をついた後、再び黙り込んでしまった。


 もう一度柳の刀をテールは見る。

 この日本刀が本物であるのだとしたら、何故声が聞こえないだろうか。

 木幕の日本刀の声も未だに聞いてはいないが……やはり触らなければ聞こえない武器もあるのかもしれない。

 一体何が違うのかと首をかしげるが、考えても分かるはずがないので早々に考えるのを止めた。


 というか隼丸は何故話さないだろうか?

 トントンと鍔を軽く叩いてみると、小さな寝息が聞こえてきた。


「……武器って寝るの?」


 以外な発見に戸惑うテールはどういう顔をしていいのか分からず、とりあえず愛想笑いを浮かべておく。

 というか戦闘の時に眠るのだけは本当にやめて欲しい。

 そうならないことを祈りつつ、先頭を歩くレミについて行った。


 今向かっている所は、レッセント家という名家らしい。

 沖田川はその昔、ライア・レッセントという人物を弟子に取っていたらしく、彼は魔王軍との戦争で人間軍に大きく貢献した英雄のような存在らしい。

 その話を聞いたメルは、目を輝かせて詳細を説明してくれたレミに問いかける。


「あ、あのライア・レッセントですか!?」

「あら、知っているの?」

「知ってますとも! 魔王軍との戦いで、魔王側の四天王を一人倒したっていう英雄です! その際に負った怪我で戦えなくなったと言われていますが、功績が認められて貴族の仲間入りをしたとかなんとか……」

「メル、詳しいね」

「冒険者やってる人だったら結構知ってる人多いんじゃないかな?」


 大昔の事なので詳細は分かっていないが、当時最強だと言われていた魔王軍四天王の一人を倒したことによって、戦況が大きく変わったと書物には残されている。

 もちろん何かしらの脚色が施されていてもおかしくはないが、英雄といわれるだけの功績を残したのは事実だ。

 その結果、こうしてレッセント家は長い間存在し続けている。


 彼が沖田川の弟子であったのであれば、確かに日本刀はそこにあるだろう。

 今からそんな英雄の末裔に出会うということに気付いて、ようやく押さえつけた緊張の糸が再び張った。


 ぎこちない動きをしているテールに柳がくつくつと笑った後、その背を優しく叩いた。


「案ずるな。話は木幕が付ける。さてさて、これからやらなければならなんことは二つ。一つは沖田川の日本刀を回収。そしてもう一つは……洞窟に行ってテールの砥石を回収すること」


 柳の説明を聞いて、コクリと頷いた木幕が手を広げる。

 すると沖田川がその場に出現し、腰を伸ばしてから首を回した。


「では、二手に分かれよう」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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