7.1.託された刀
第七章開幕です
過去の仲間が一人、登場します
キラキラと輝く鉱石が、部屋の一室に詰め込まれている。
それらは黄色い鉱石で、日の光が当たっていないにもかかわらず明るく輝いており自らの存在感を誇示し続けていた。
どうやら自らが発光しているようで、隣りに置いてある鉱石を照らし、それがまた違う鉱石を照らして部屋中が明るくなっていた。
影もできない程に明るくなっている部屋の中には、様々なお宝と呼べるものが並んでいる。
金があしらわれた鞘、多くの宝石が散りばめられた盾に高級な素材を使ったマントや金貨が入っている石造りの箱。
宝物庫にあって不思議ではない物が数多く並んでいる。
これだけの財宝があると知られれば、ここに忍び込もうとしてくる輩は多いだろう。
しかし警備は万全だ。
三百六十五日二十四時間体制で警備の者が宝物庫の出入り口を数人体制で監視しており、更には魔法道具による警報装置も完備している。
宝物庫の扉は三重の重い扉で仕切られており、鍵一つ一つはそれぞれ違う人物が持っている。
念には念を入れる姿勢は誰もが見習うべきだろう。
しかしそんなところにも……いや、そういうところだからこそ筋金入りの泥棒というのは入ってくるものだ。
逆にこれだけのセキュリティを突破したとなれば、自分たちに盗めない宝はないということになる。
これは彼らなりの挑戦だ。
とはいえ、できない仕事はしない。
警備に当たっていた兵士がふとした拍子に急にバタバタと倒れていく。
声を上げることもなく床に倒れ伏した兵士たちには特に外傷らしい外傷はなく、なんなら息もまだしているようだ。
どうやらただ眠っているだけで死んではいないようだが、これでは警備としての仕事は全うできないだろう。
魔法をこっそり使用した男がひょこっと顔を出して全員が眠っていることを確認し、今度は後ろにいた女性をつんつんと指でつついて合図する。
すると女性が手に持っていた丸い球を地面に転がした。
それはコロコロと兵士の間を通り抜けて厳重に閉ざされている扉の前で停止し、次の瞬間それが小さく爆発する。
殺傷能力も何もなさそうな小さな爆発。
音も極限にまで小さいものであり、近くで聞いていない限り音は聞こえなかっただろう。
「……成功か?」
「大丈夫よー。周囲にある魔道具に使用されてた魔力は全部吸い取った。もう警報もならないはず」
「んじゃ開錠しますかぁ!」
ようやく物陰から立ち上がった男は、転がっている兵士を踏まないように注意しながら扉へと歩く。
目の前に辿り着いた瞬間手を擦り、懐から開錠道具を取り出す。
慣れた手つきで鍵穴に道具を差し込み、手の感覚だけを頼りにして一つ目の扉の鍵を開けた。
すぐに次の扉の鍵へと向かい、再び開錠する。
ここまで来ればあとは作業だ。
兵士が見張り番を交代する時間もしっかりと把握しているし、何なら今日は一番人がいない日である。
見張り番でない兵士がここに来ることはほとんどないということもすでに把握していた。
なので落ち着いて、確実に鍵を開けていく。
ガチャッ。
最後の鍵が開き、大きな南京錠がゴトリと地面に落ちた。
二人は顔を見合わせてにやりと笑い、二人で一斉に扉を開ける。
夜だというのにとてつもない光が襲ってきた。
思わず目をつぶって光に慣れるまでじっとしていたが、ようやく見える様になって目を開ける。
そこには大小様々な鉱石と金銀財宝の数々が置かれていた。
パッと見ただけでも、使いきれない程の財産がそこにある。
二人はもう一度顔を見合わせ、手をパンッと叩いて喜びを露にした。
そして中へと入り込み、持っていた魔法袋へ片っ端からお宝を詰め込んでいく。
「へへへへ……! さすがレッセント家……すげぇ財産だ……!」
「英雄の末裔が守っている、ってだけはあるわよねー。でもその英雄はもういなーい。末裔なんて弱くなっていくのが普通だし、私たちの敵じゃないわ」
「ちげぇねぇ。お、なんだこれ珍しい武器だな!」
男が指差すところには、壁に掛けられた武器があった。
ぱっと見ただけでは少し反った棒にしか見えないのだが、よく見てみればそれは武器だ。
周囲に飾られている武器の中央にあるということから、男はそれを武器だと認識したらしい。
豪華な剣が並んでいる中央に、シンプルなデザインの武器がある。
これが意味することは、周囲にある宝石が散りばめられたり、有名な鍛冶師が彫刻を入れた剣よりも高価であり珍しい武器ということだ。
それに気付いたのだから、盗まないはずがない。
手を伸ばして取ろうとした時……その武器はフッと消え去った。
「……あれ?」
「なーにしてるのよー」
「いや、え? どこ行った? さっきまでここに……珍しい武器があったんだが……」
「気のせいじゃないの?」
「気のせいじゃ──」
「気のせいじゃない」
知らない声が聞こえた。
二人はバッと声のした方向を見て、武器を構える。
そこには先ほど男が手に取ろうとした武器を持った青年が立っている。
綺麗な姿をしているが、その姿は半透明だ。
パリパリと静電気を体に帯びているようで、青白い電気が体を走り回っていた。
黄色い短髪は電気で立ち上がっている。
表情は好青年と呼ぶにふさわしく、少し強気な顔立ちだ。
だが彼が手に持つ武器を見る目は非常に柔らかいものだった。
「おい! やるぞ!」
「分かってる!」
バッと飛び出した二人は、自分が得意とする得物を持って彼へと立ち向かう。
距離はそう離れていなかったので、すぐにでも刃は届きそうだ。
「雷閃流……」
すっと静かに腰を落としたあと、二人を睨む。
目がこちらに向けられた瞬間、彼らは死の気配を濃く感じ取ったが、もう逃げることは叶わないとすぐに悟ってしまった。
なにせ、もう刃が振り抜かれてしまったのだから。
「横一文字」
バツァッ!
体の中に冷たい鉄が入り込んできたのがありありと伝わってきた。
その瞬間、上半身と下半身が泣き別れた。
二人は声を上げることもなくその場に崩れ、数秒後絶命する。
同時に二人を両断した刃には血が一切ついていなかったが、それでも血振るいは忘れずに行って静かに納刀した。
「……僕の刀です。師匠から授かった……僕の……物です」
彼は武器と一緒に、そのままスーッと溶けるように消えていったのだった。




