6.17.ルーエン王国へ
あれから少しだけ時間が経ち、今はレミが回復するのを待っている状態だ。
もう大丈夫ではあったのだが、大事を取って休息を取っている。
木幕に何度か小言を言われていたようだが、彼女は頭を掻いて平謝りをするだけであまり反省をしていないように思えた。
少しばかり呪いの怪物について聞いたのだが、これはレミだけから取り出される呪いらしい。
木幕は呪いを取り出して手の中で殺してしまうし、スゥは怪物すら出てこないようだ。
成長しないという呪いにすべての力が使われているので、レミから出てきた怪物のような存在は出現しないのだとか。
ではレミの呪いが強くなってしまうとどうなるのか。
これは分かっていない。
そうなる前に木幕が取り出し、スゥがすべての呪いの怪物を今まで始末してきた。
だが年々呪いの怪物の力が強くなっているようで、スゥも魔法を使わなければ勝てない程になってきているらしい。
そしてその呪いがより一層強まる要素が一つある。
レミの魔法袋の中に入っている氷輪御殿という薙刀だ。
もちろん、その薙刀も呪われている。
これをレミが使うと、彼女の中にある呪いが濃くなってしまうのだ。
その代わりレミが最も得意とする薙刀であり、異世界の武器ということもあってその力は絶大である。
魔法を使えば、更にその強さが際立つのだが、レミはそれを使えなかった。
武器の中にある力を使えば、呪いの進行はさらに加速して木幕でも手に負えなくなってしまう可能性があるのだ。
だからレミは様々な鍛冶師に頼んで多くの薙刀を作ってもらっている。
「でも、それは全部壊れてしまった……と」
「あははは……。しばらくリヴァスプロ王国に留まっていたから要らないかなって……思ってたんだけどねぇ……」
「薙刀を模して打てる鍛冶師は少ない。相当な技量がなければ、似たような武器すら打てぬ者がほとんどだ。リヴァスプロに薙刀を打てる鍛冶師はいなかった」
「だから数を増やせなかったのよー。乱馬さんに斬られた薙刀と、テール君に触ってもらった薙刀も百二年前に作ってもらったやつなんだから」
「「百……二年前……」」
彼らとこういう話をしていると、時間の感覚が分からなくなりそうだ。
だが百年前ということは、薙刀を打った鍛冶師は既にこの世に存在していない。
なので薙刀を新調するのであれば、新しい鍛冶師を探して作ってもらわなければならないようだ。
「しかし、テールの師のこともある。まずはそれを払拭させねばならぬのだが、お主の研ぎ仕事に使う道具も揃えねばならぬ」
「え? ちょと待ってください……。どういうことですか? テール、どういうこと?」
「木幕さんたちがカルロさんを助けてくれることになったんだ」
「ええ!? ほ、ほんとう!? ほんとうですか!?」
「無論だ」
「ありがとうございます!」
メルは感謝の言葉を述べた。
カルロは彼女にとっても大切な知り合いであり、なによりテールの師匠だ。
あんな事件に巻き込まれたことをよく思ってはいない。
しかし木幕は手を前に出して申し訳なさそうに眉を顰めた。
「だが、それは後だ」
「え?」
「手順を考えると、まずはテールの仕事道具を揃える方が良い。ルーエン王国はここから近く、すぐにでも手に入れることができる。某らの時間がない事は、お主らも理解しておるはずだ。ゆえにこちらを優先させる」
真っ先にカルロを助けに行こうとすると、また長い旅をしなければならない。
ここから普通の船で港に戻ろうものなら、二ヵ月は確実にかかる。
そこからリヴァスプロ王国を経由してキュリアル王国に行くのであれば、さらに時間がかかるので片道三ヵ月は覚悟しておいた方がいい。
その間に必要とする砥石があれば、仕事を教えられる。
一刻も早くテールには日本刀を研げる様になっておかなければならないのに、何もせずに三ヵ月という時間を使って来た道を戻るのは非効率だった。
であればルーエン王国へとまずは赴いて砥石道具を揃え、船で来た時とは違うルートでキュリアル王国へと向かうのが一番いいと判断したのだ。
これはテールと話して合意も得た内容である。
本当は早くカルロを助けに行きたいところではあったが、彼らのこともしっかりと視野に入れておかなければならない。
三ヵ月の無駄は襲撃の可能性を増やしてしまう要因の一つだ。
それにその時間を有意義に使うために、木幕の提案した方針は納得できるものだった。
「カルロさんは、待ってくれるって言った。それに助けてくれる人のお願いを無視はできないから」
「そう、だね。うん、そうだね。じゃあルーエン王国に行きましょう!」
全員が納得したところで、木幕は少しホッとした表情を見せる。
これはレミにしか分からなかった。
彼女はくすくすと笑ってから立ち上がり、何度か跳ねて体の調子を確かめる。
問題がなさそうだったので、大きく頷いて腰に手をやった。
「よし! じゃあ行きましょうか!」
「「はい!」」
「っ!」
「アテーゲ王国には転移の石があるはずだ。そこに向かおう」
「正確には石の魔法陣なんですけどねぇー……」
アテーゲ王国にあるのは石で作られた転移の魔法陣だ。
これを使うことができれば、ルーエン王国まで飛ぶことができる。
金さえ払えば誰でも使用することができるものなので、そこまで行ければルーエン王国はすぐそこだ。
テールは新しい仕事道具を手に入れることが楽しみで、軽い足取りで石の魔法陣がある教会へと向かっていったのだった。
「……ああ!! 教会のこと忘れてた!!」
「「あっ」」
「っ?」
「……」




