6.14.呪いの怪物
乱馬が振るった隼丸を水瀬が防いで金属音が鳴り響く。
それが合図だったようで、呪いの怪物がようやく動き出した。
カサカサと四本の細い足を動かして接近してくる。
その速度は特段早いというわけではないのだが、大きさが小型犬ほどなので的が小さい。
鎌の足は巨大であり、それを振るいながらこちらに迫ってくるものだからテールは完全に臆していた。
だがメルとスゥは果敢にも前へと足を踏み込んだ。
振り回される鎌をスゥが獣ノ尾太刀で止め、メルがその隙に足を一本切り落とそうと渾身の力で両刃剣ナテイラを振り抜く。
粘液質の塊だった存在が無理矢理形を成しているだけだ。
簡単に切り飛ばせると考えていたメルだったが、見通しが甘かったようだ。
ナテイラは狙い通りに呪いの怪物の足に直撃する。
だがそれは石のように固く、メルの手が逆に痺れてしまう程だった。
「~!?」
「──」
鎌の足の関節が折れ、膝蹴りの要領でメルの側面から攻撃を仕掛ける。
細い脚は硬く、これが当たってしまえば無傷ではいられない。
攻撃の危険性を感じ取ったメルはすぐに飛びのいてその攻撃を回避した。
そこでスゥが鎌を弾き上げ、瞬く間に二連撃を繰り出す。
的確に関節部位を狙った攻撃で見事に当たったのだが、やはり斬れなかった。
眉を顰めて不満げな表情を露にしたスゥは、もう一を踏み込んで今度は脇構えから掬い上げる様にして呪いの怪物を吹き飛ばす。
体の大きさは小さいので簡単に吹き飛んでいき、空中に浮いたと同時にスゥが呪いの怪物に手を向ける。
大きく足を上げて地面を踏む。
その瞬間、鋭い土が盛り上がって呪いの怪物を貫こうと迫った。
「──」
呪いの怪物もただ吹き飛ばされているわけではない。
鋭い土が盛り上がった瞬間、即座に鎌をその土に突き刺し、それを支点として体を振り回して回避する。
良い足場を確保できたというように暫く動き回り続け、最後に遠心力をしっかりと付けて飛んでいった。
……飛んでいった方向にはテールがいる。
「うわああああ!?」
『小僧! 踏み込め!!』
「せ、せええい!!」
灼灼岩金に教えてもらった通りの構えから、足を上げて強く地面を踏み抜いた。
バガッと地面が割れ、そこから赤い炎が噴き出す。
「ぎゃああああ!? ……あれ?」
『術者は熱を感じぬ!』
次の瞬間、呪いの怪物が宙を舞っている一歩手前に炎の壁が出現する。
だがよく見てみれば、それはすべて溶岩だ。
赤い液体が吹き上がり小さな石や土を熱して呪いの怪物に襲い掛かる。
空中で足場もなかったため、その攻撃は確実に入った。
ジュワァッという音がして溶岩が呪いの怪物に纏わりつく。
溶岩の壁を通り抜けて勢いを失ったあと地面に転がり、苦しそうにじたばたと暴れまわっていた。
「────!! ──!!」
溶岩が体を溶かしている。
脚の一本が溶け、他の箇所もボロボロになっていた。
どうやら斬撃……物理攻撃には強いが魔法攻撃にはめっぽう弱いらしい。
悶え苦しんでいる呪いの怪物の鎌が周囲を切り刻む。
地面や壁には既に多くの切り傷が付けられていた。
危なくて間合いに入れない。
だがそこで足を踏み込んだのはスゥだった。
「っ~!」
獣ノ尾太刀の柄を頭上に、切っ先を地面すれすれに。
刃は空を向いており、そのままの構えで滑るように進んで呪いの怪物の鎌を捉えた。
ガチッとぶつかった瞬間、その場に縫い付ける様にして突く。
切っ先が鎌の腹を貫通し、地面に突き刺さった。
関節部位だけが暴れまくるが、それだけで脅威は既に無い。
細長い足は到底スゥの場所までは届かないだろう。
「テール!」
「やぁっ!!」
メルの呼びかけに瞬時に応える。
足を大きく踏み込み、地面をもう一度割った。
すると、呪いの怪物の真下が赤く染まる。
次第に周囲にも熱が発生ているような気がしたが、それは勘違いではない。
バゴッという音と同時に地面が一気にどろりと溶け、赤い溶岩が顔を表した。
ぼぢゃっとその中に落ちた呪いの怪物は足を大きく動かして暴れるが、近くには支えになる様な物はない。
だがスゥが幸いにも鎌を固定していた。
それを使って這い出そうと力を込めた瞬間、支えがフッと消え去った。
「せえええい!!!!」
メルが渾身の一撃で、その腕を斬り飛ばしたのだ。
溶けて脆くなっていたということと、テールが研いだ両刃剣ナテイラの切れ味があったおかげでようやく切り落とせた。
甲高い音が鳴り響き、支えを失ってしまった呪いの怪物は溶岩だまりから脱出することが不可能になり、そのまま下へと沈んでいく。
最後の最後まで暴れ続けていたが、斬った鎌の足が見えなくなったところでようやく静かになる。
ゆっくりと溶岩だまりが土に覆われ、発していた熱が消え去った。
何とか危機が去ったと安心したテールは、その場にへなへなと座り込む。
「お、終わったぁ~……」
『斬れなかったが……まぁ及第点だ!! 踏み込みだけは一丁前だなぁ? ぐぬぁっはっはっはっは!』
意気揚々と笑う灼灼岩金は楽しそうだ。
既にツッコむ気力を失ったテールは、一つ息を吐いて灼灼岩金を不器用ながらに納刀した。
すると、スゥが手を握ってくる。
「っ!」
「わわっ」
「テールすごいじゃん! 使いこなしてるじゃーん!!」
「いやいや、灼さんが凄かっただけで僕は……」
『何を言っている。小僧が凄いんだぞ?』
「ええ?」
灼灼岩金の言葉に首を傾げる。
どう考えたってあれは魔法のお陰だし、テール自身は特に何もしていない。
だが、そうではなかったらしい。
『我の力を扱うのは難しい。そもそも我も使い手がいなければ実力を発揮することはできぬのだ。それを引き出せる小僧はなかなか筋がいいぞ? まぁ奇術の発動位置は我が調整したが』
「へ、へぇ……」
『褒めているのだ喜べ!!』
「あ、ありがとうございます!!」
『よろしい!!』
日本刀に褒められるというのは初めての経験だし誰も経験したことがないだろう。
なんだか複雑な気持ちだったが、とりあえず勝ったのだ。
今は喜ぼうと思ったのだが……未だに決着がついていない音がこちらまで聞こえてくる。
乱馬と水瀬は未だに戦っていた。
だが、もう少しすれば決着がつくだろうということがここからでも理解することができた。




