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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第一章 研ぎ師
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1.7.初日


 長い夜が明け、周囲が白みだした頃に目を覚ます。

 テールは早起きが得意……というより習慣になっていたので、どこでもすんなりと早く起きることができる。

 村ではこの時間帯には既に色んな人が動き出していたのだが、外を見てみれば人はまったくいないようで、夜とは違った静な町並みを見ることができた。


 皆寝ぼすけなんだな、と心の中で呟いたテールは、リバスの手伝いをするため部屋を出る。

 リバスは今日中に帰ってしまうため、少しでも一緒に何かをしておきたいのだ。

 下に降りてみるとすでにリバスが荷物を片付けているようで、店の中から馬車の中に荷物を運び入れていた。


「おはようお父さん、手伝うよ」

「おはよう。じゃあそこの荷物を運んでくれ」


 この会話も今では懐かしく感じる。

 いつも猟からの帰りはこうして指示を受けたものだ。


 テールはひょいひょいと荷物を馬車の中に運び入れているのだが……ふとその中身が気になった。

 ここに来るまではなかった物だったからだ。


「お父さん、これ何?」

「皆へのお土産だよ。王都になんて滅多に来ないからな」

「喜んでくれるといいね」

「そうだな」


 そんな会話を時々続けながら、すべての荷物を馬車に積んでいく。

 ようやく終わったと思えば、リバスはすぐに馬を引くために席に座った。


「え、もう行っちゃうの?」

「ああ。なんか心配だったが、お前なら何とでもなりそうだからな。頑張れよテール。メルに負けるな?」

「うん!」


 テールがそう言ったのを確認すると、リバスは手綱をぺしっと叩いて馬車を動かした。

 リバスの姿は馬車で見えなかったが、それでもその馬車が見えなくなるまで見送り続ける。


 見えなくなったことを確認したと同時に、テールは店の中に入ってカルロが起きてくるのを部屋の中で待つことにしたのだった。



 ◆



「……降りてこない……」


 リバスを見送ってから一時間が経過しようとしていた。

 もうすっかり日は昇って、外もまばらではあるが人々が動き始めている。

 だというのにカルロは一切降りてくる気配がなかった。

 一体何をしているのだろうかと不思議に思うのだが、流石に勝手に上がって部屋を覗き見るのはよろしくない。


 ということなので、昨日の罠を確認しに行くことにした。

 実は昨日、王都を見学するついでに近くにある森に罠を設置していたのだ。

 もしかかっていたのであれば一日仕事になってしまうため、どうしようかと悩んだのだが何もしないよりはいいと考え、置き手紙をしてから外出する事にする。


 罠を仕掛けた所は簡単に行ける場所にあるので、すぐに見に行くことができる。

 片道徒歩二十分といったところだろうか。

 テールは罠を仕掛けた所に到着した。


 さて結果……と思って見てみるが、今日は残念ながらかかってはいなかった。

 となればまた明日だ。

 流石にこの時間帯であればカルロも起きているだろう。

 テールは足取り軽く、店に戻ることにした。


 しかし、戻ってみると……誰も居なかった。

 未だに起きていないらしい。


「うそー……」


 自分は今日一日どうすればいいのだろうかと悩むことになってしまった。

 砥石の使い方は知っているが、種類が多すぎて何を使って良いか分からないので勝手に動かすことはできない。

 刃物は危険なので、これも勝手に弄くってはいけないだろう。


 さて、本格的に困ってしまったテールだったが、そういえば朝食を食べていないということに気が付いた。

 朝食を食べずに狩りに行った時はお母さんによく怒られたなと思い出しながら、何か食料がないかを探してみる。


 テールはメルほど上手く料理はできないが、それでも美味しいと言われる程度の簡単な物は作ることができる。

 刃物や砥石は分からないが、これであれば怒られる事はないだろうと、台所をまさぐって朝食に合いそうな物を探してみることにした。


「パンと……卵……あと胡椒!? うわー、すごい……」


 なんと胡椒が見つかった。

 胡椒などイタール村では見ることのなかった代物だ。

 とても高級なものと聞いていたので思わず声を上げてしまったが、見つけてしまったからには使わずにはいられない。


 胡椒の使い方はメルから伝授して貰っている。

 メルも使ったことはないはずだが、何故か詳しかったのだ。


 そこでメルから教えて貰った簡単な料理を今ある材料を見て思い出したので、カルロの分も一緒に作ってみることにした。

 二人分作っておけば、何も言われないだろうという算段だ。

 まずは火をおこして……。


「ん? 何これ」


 明らかに火がつく道具らしき物があったのだが、使い方がイマイチ分からない。

 それは何か摘みのような物があり、それを動かせるようなのだが……。


「えい」


 何か分からないけどとりあえずそのつまみを捻ってみることにした。

 すると、ボウと火が点火した。


「うわぁ! ええぇ……王都って便利なものがあるなぁ……。これ火の魔法石だよね……」


 リバスから何となく聞いたことがある。

 王都では木をくべて火を起こすのではなく、魔法石で火が簡単におこせるのだと。

 しかしとても高級なものらしく、村にいたときは見ることすら叶わなかった。


 メルはこれを見て心底喜んでるんだろうなと考えながら、そこにフライパンを置いて二枚のパンを軽く焼く。

 ひっくり返して少し焦げ目がついていたら引き上げて、今度は卵を割ってフライパンに投入。


 白身部分が真っ白な色になり、黄身の部分が半熟になったと同時に、フライ返しで焼いたパンにのせる。

 そこに先ほど見つけた胡椒を少しだけ振りかけて完成!

 メルから教えて貰ったのは胡椒じゃなくて塩だったが、これはこれで美味しいはずだ。


 皿をテーブルに持って行って適当なコップを選んで水を汲み、料理の隣に置いておく。

 本当はミルクが欲しいところではあるが、流石にそこまで好き勝手してはいけないだろうと思い、水にしておいた。


「いただきまーす」


 作った料理を一口頬ばる。

 胡椒は塩とは違った辛さではあったが、その美味しさに目を見開いた。


 そのまま無言でパクパクとパンを食べ、水を飲んで流し込む。

 また今度作ろうと思えるほどの出来映えだったので、カルロに頼んで卵とパンを買って貰える様に工面して貰おうと思う。


 しかし……それにしてもカルロは降りてこない。

 一体なにをしているのだろうかと思い、痺れを切らして部屋に行くことにした。

 部屋の前まで来てノックをするとバタバタと慌てた様子でカルロが寝間着姿のまま出てきた。

 テールはそれに少し呆れながら、朝食ができたということを伝える。


「おはようございます、カルロさん。朝食が出来ましたので……」

「あ、ありがとう……。ごめん、寝過ごした」

「昨日何してたんですか?」

「いやー、弟子ができるってはなしだったから舞い上がっちゃって……」

「寝られなかったんですね……」

「あ、いや、そうじゃなくて酒を──」

「ご飯冷めちゃいますよ。降りてきてくださいね」


 楽しみで眠れないだなんて子供だなと思うテールではあったが、自分もまだ子供だった事を思い出す。

 それからはカルロに朝食を取って貰ったのだが、何故か今後食事を作るのを任せられてしまった。

 よほど気に入ったのかとテールは嬉しくなったが、それと同時に料理を憶えなければと少しだけ頭を抱えることになった。


 今度、メルに教えて貰おうと決めたあと、ようやく仕事を教えて貰えることとなった。

 なんだかここまで長かったと思いながら、カルロの仕事部屋に入る。


 ここは昨日見た場所ではあるが、カルロは一つの片刃ナイフと、四つの砥ぎ石を持ってそれを作業台に置いた。

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
― 新着の感想 ―
[気になる点] 高価な胡椒を勝手に使っておいて、ミルクを飲むのを躊躇する理由が分からないのですが?
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