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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第六章 迅速の二枚刃
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6.4.研ぎの準備


「仙術、御霊呼び」


 怪しく光る魂が形を成していき、沖田川がその場に出現する。

 大きく伸びをしたあと、葛篭が作った作業場へと足を運ぶ。


「来たか沖田川の爺さん」

「うむ。さて、ようやっと教えられるのぉ。スゥや」

「っ!」


 沖田川に呼ばれたスゥは、すぐに魔法袋の中に手を突っ込んで一振りの刀を取り出す。

 これは短刀だ。

 それを手に持ったまま鞘を抜き、沖田川に刀身を手渡した。

 次に少し分厚めの布を取り出し、丁寧に畳んで作業場に置く。


 丁寧に受け取った後、彼はテールに見せながら柄を取り外す。

 目釘を道具で抜き、柄頭を持った手を反対の手で叩く。

 すると茎が緩み、完全に緩んだところで茎を掴んで取り外す。

 最後に(はばき)を取り外して解体は完了した。

 解体した物は先ほどスゥが置いた布の上にすべて綺麗に置かれている。


「テールや。これが日本刀の柄の外し方じゃ。刀身は良く斬れるから注意を払う。解体した柄も魂の一部。決して地べたに置くことは許されぬから注意するのじゃぞ。布か何か傷の付かない物の上に置きなさい」

「分かりました」


 これは今までテールがやっていた事だ。

 当たり前のことをしてあげればいいということであれば、覚えやすい。


 すると沖田川は準備されていたテールの砥石を手に取った。

 光に当てて真っすぐかどうかを確認し、一つ頷いてそれを台の上に置く。

 刀身に手で水を塗り、刃を外にして砥石に当てる。


「日本刀は押し研ぎじゃ。下研ぎは棟、(しのぎ)、地、(きっさき)の順に研ぐ。棟と鎬は斜めに、他は直角に研ぐ。まだ刃は研いではならんぞ」

「まだ駄目なんですか?」

「うむ。刃は最後の方じゃ。さて、葛篭、あれはあるかの?」

「あれ?」

「踏み木じゃ。それと砥台枕」

「わてはげなもんつこーとらんかったぞ」

「研ぎ師には必要な物じゃ。無いのであれば作ってくれ」

「しゃーねーなぁ」


 カシカシと頭を掻いた後、葛篭は周囲を見渡す。

 周囲には壊れた家屋が並んでおり、再利用できるものはないかと目を凝らした。

 そこで比較的状態のいい材木を発見したので、そちらへと歩いて材木を片手で持ち上げる。

 ずいぶんな大きさだったが、彼は軽い棒を持ち上げるようにしてそれを引っ張り出した。


「スゥ。貸してくれ」

「っ!」


 スゥに声をかけると、彼女はすぐに持っていた日本刀を葛篭に手渡す。

 大太刀を頭の後ろに回し、腕を伸ばして抜刀する。

 抜いた鞘をスゥに預け、手に持っていた材木を空高くに放り投げた。


 葛篭は重力に従って落ちてくる材木を一瞬で両断する。

 切った材木は綺麗に片手へと納まり、要らない部分は家屋の瓦礫の中に落ちていく。


「わりぃな獣ノ尾太刀(けもののおたち)。げな使い方しちまって」


 すると、ドンッという振動が地面から伝わってきた。

 脚から伝わってきた振動に頷いた後、鞘を手に取って抜刀と同じ要領で納刀する。

 スゥに獣ノ尾太刀を手渡し、材木を手に持ったままその場に座った。


 今度は何をするのだろうかと思ってみていると、懐から箱を取り出した。

 静かな音を立てて開けられた箱には、鋭そうな道具がたくさん入っている。

 その一つを手に取り、ほとんど正方形となっている角材の一つを四回突いて角を一部取り除いた。

 それを沖田川に放り投げる。


 パシッと手に取った沖田川はそれを見る。

 手触りは鉋を掛けた様に仕上がっており、葛篭が今し方加工した場所は材木の繊維が光沢を帯びていた。

 それに満足し、砥台枕となった角材をテールの前に置いた。


 その間に葛篭はもう一つの道具を作っているようだ。

 大きな刃のついている道具を使い、丁寧かつ大胆にそぎ落としていく。

 次第に反りのある木材になっていき、その先端は猫の手の様に丸くなっている。

 軽く強度を確かめた後、すべて道具を片付けてそれをこちらに持って来てくれた。


 すると葛篭は砥台枕を奥に置き、そこに砥石を立て掛けるように置いて斜めにした。

 そして踏み木を手前に置いて、猫の手になっている場所を砥石の一番下へと置く。


「どうだ?」

「まぁいいじゃろう。本当であれば砥石の台も欲しいのじゃが……」

「そりゃここにある材じゃ無理だ。買った方がいいな」

「贅沢は言っておれんか。ではテールや。この踏み木に足を置くのじゃ」

「こうですか?」

「そうじゃ。あとは自然と分かるのではないか?」


 踏み木を踏んだまま、短刀を手に取った。

 砥石を踏み木で踏んで動かないようにしなければならないのなら、体勢は自ずと決まってくる。

 踏み木に体重をかけ、上半身の体重が砥石に当てている短刀に乗るようにすればいい。

 すっと姿勢を作ってみると、案外しっくりきた。


 それを見て、沖田川は大きく頷いた。

 葛篭に至っては「おおー」と声を出して感心しているようだ。


「おい沖田川の爺さん。テールは呑み込みがいいじゃねぇか」

「うむ、期待通りじゃな。ではテールや、まずは自分が思うままに研いでみると良い」

「い、いいんですか?」

「それは石動が打った物だ。誰の魂の片割れでもない。さぁ、やってみなさい」

「わ、わかりました……!」


 沖田川に先ほど教えてもらった工程を思い出す。

 まずは棟から。

 テールは自分のバックの中から布を取り出し、それを短刀の切っ先に巻いてしっかりと握り込んだ。

 斬れないことを確認してから、一つ息を吐いてスッと刀身を動かした。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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