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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第六章 迅速の二枚刃
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6.3.簡易的な研ぎ場


 大きく賑わっていたアテーゲ王国の港を抜けると、今度はこれまた大きく賑わっている繁華街へと出てきた。

 人混みを何とか搔き分けながら進んで行き、裏路地の方へと足を伸ばす。

 次第に人がいなくなってきて、人相の悪い連中が睨みを効かせてきたが一瞬で青い顔になってその場から撤退した。

 なんだったんだろうと首を傾げたが、そうしている間にも人はどんどんいなくなって、ついにはぼろ小屋が建ち並ぶ場所へと辿り着く。


 見るからに貧しそうな場所だ。

 家は古くなって崩壊したり、傾いて隣りの家に体重を預けている。

 少し触れただけでも倒壊してしまいそうだ。


 そしてこの辺りにいる住民は、総じて貧相だった。

 やせ細っており動く気力もないのか、その場に座って足を抱いている。

 彼らはこちらに顔を向けるが、すぐにまた顔をうずめた。

 興味がないといった風だ。


 そんな場所を木幕は先陣を切って歩いていく。

 何かを探しているようでキョロキョロしながら歩いていたのだが、ついに目的のものが見つかったらしく足早にそちらの方へと歩いていった。

 木幕が見つけたものは、井戸だ。

 中を覗いてみればまだ水がしっかりと残っている。

 これであれば問題ない。


 木幕は片手を出して一つの魂を呼び出した。


「仙術、御霊呼び」


 手の中で回転しながら大きくなっていく魂は、茶色の色をしていた。

 手に収まらない程大きくなった魂は木幕の手から離れ、更に大きくなっていく。

 人と同じくらい巨大になった魂は一瞬で固まり、がごっという音を立てて岩が出現する。


 円形の岩は少しその場にとどまっていたが、次の瞬間中から手が突き出てきた。


「「!?」」


 がしっと岩を掴んで中に引き込むようにして崩壊させていく。

 最後に足で蹴とばして完全に岩を破壊して、ようやく中にいた人物が顔を出した。


「っつぁ……なげにわてさ出るときゃあげな岩ん中からだいや……。大して硬くもなからぁけぇええけど戦場だったらえらいこっちゃで」


 背が高く、片目に鍔の眼帯を左目にした男が、頭についた岩の欠片を払いながら意味不明な言葉を発して出てきた。

 職人気質の顔立ちは少し威厳を醸し出している。

 少し長めの短髪で、目つきは鋭く顔は細い。

 分厚い和服を上に着て腰には獣の毛皮で作ったであろう腰布を巻いていた。

 ごつごつとした手はとても大きく、硬そうだ。


 岩の中から出てきた伸びをし、体をパキパキと鳴らした。

 準備運動もそこそこにしたあと、腰に手を当ててこちらを向いた。

 その表情は柔らかく、とっつきやすそうだ。


「よぉ、呪い研ぎの研ぎ師テールや」

「は、初めまして……」

「わては葛篭平八(つづらへいはち)。よろしくなぁ。それとそこの嬢ちゃんは木幕の弟子だったか? メルだっけ?」

「そうです。初めまして」

「おうおう。はやく手合わせしてぇもんだ」

「つ、つつつつ、葛篭さんが……普通にしゃべってる!!?」

「げな驚くこたぁなからぁて」


 レミはいつもと違い過ぎる葛篭の言葉使いに驚きを隠せなかったようだ。

 昔は彼も方言しか話すことができなかったが、数百年この世界の言葉を聞いていれば自然な会話もできるというもの。

 さすがに初対面で方言丸出しというのは、十中八九理解してはくれないので葛篭の方が折れたのだ。

 本当は方言の方が楽ではあるらしいが。


 葛篭はレミの言葉を軽く流したあと、テールとメルの頭をぐりぐりと撫でた。

 子供好きなのでどうしても面倒を見たくなってしまうらしい。

 なので木幕の中にいるときは早く出せと何度か言ったのだが、無視されてしまった。

 出せてもらえなかった分、ここで思う存分面倒を見ることにする様だ。


「はっはっはっは、手前ら若いのに頑張るなぁ。木幕の中から二人の覚悟は見せてもらった。これからも励めよ」

「はい!」

「うぁう……。あの、葛篭さん。私はいつでも戦えますけど……」

「ん? ああ、手合わせのことか。やってもいいんだが……」

「メルちゃん。まだその人を相手にするのは無理よ」


 メルは体調も万全だし、槙田からの教えをここで実践できるかもと思っていたのだが、レミに止められてしまった。

 どうしてだろうかと首を傾げると、メルは人差し指を立てる。


「その人、生前善さんを二度負かした人だから」

「……え!?」

「要するに、今の善さんを抜きにして魂の中で最強の人ね」

「よせやいよせやい。はっはっはっは!」


 まんざらでもないという風に頭をガシガシとかいて照れている葛篭。

 その姿だけ見ると、とても最強の人物だと思えない。


 しかしレミの言っていたことはすべて事実だ。

 実際に木幕は彼と対峙した六百年前、二度負けている。

 殺されなかったのは葛篭が『仏の顔も三度まで』という諺の信念を貫いていたからだ。

 二度まではどんな方法で襲ってきても殺しはしない。

 しかし三度目は、彼は刃を抜いて襲い掛かる。


「御託は良い。早う場を整えぬか」

「はっは、せっかちだな木幕は。しゃあね、んじゃまぁ作るぜぇ」


 葛篭は手を二度払ったあと、地面に手をついた。

 すると地面が小さく揺れる。


 次の瞬間、井戸の隣りに土台が出来上がった。

 かっちかちに固めた土台は石造りの柱の様に綺麗であり、そこには研ぎに必要な台が作られている。

 水を溜める場所、排水路も作られており、テールから見ても完璧な研ぎ場が一瞬で完成した。


「わぁすごい!!」

「だらぁ? これがわての奇術だ。広範囲の土を操れる。それと馬鹿力か」

「いやぁすごいですね! でもどうして研ぎに必要な物を知っているんですか?」

「んん? そりゃわても研ぎは身近なものだったからな。沖田川の爺さんと一緒に教えてやる。楽しみにしとけぇ?」

「やった!」


 ようやく教えてもらえる。

 それも二人から。

 様々な意見を聞いた方が研ぎに関しての知識が深くなると思うので、それをすべて取り入れたい。

 テールにとって師匠は今までカルロしかいなかったので、本職の人に仕事を教えてもらえるというのが本当に嬉しかった。


 すぐに研ぎ場へと上り、砥石の準備をし始める。

 水を隣の井戸から汲んで水を溜める場所に何度か流し込む。


「私も手伝う!」

「メルちゃんはだーめ」

「ええ!?」

「貴方は私と模擬戦ね」

「! 分かりました!」


 テールが研ぎを学ぶのは時間がかかる。

 こういうときは、メルの訓練に付き合ってあげようとレミは考えたらしい。

 しかしうるさくしてしまうと駄目なので、ここは場所を変えることにした。

 木幕に一言言って、その場を離れていく。


「では頼むぞ、葛篭」

「おうよ」

 

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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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