6.2.アテーゲ王国不法入国
ふわふわと浮いている葉の絨毯に乗ったまま、アテーゲ王国へと入った。
海へと突き出すように出ている石の桟橋に着地したと同時に霧散し、葉っぱが静かに消えていく。
よくやった、と褒める様にして柄を撫でた木幕は、そのまま歩いていこうとする。
それにレミとスゥは続き、その後ろを追うようにしてテールとメルもついて行った。
しかしこの入国方法はとても目立ったようだ。
当たり前といえば当たり前なのだが、それに気付いた警備隊と思われる人物たちが、隣の橋から一生懸命走ってきているのが見える。
数人に指示を飛ばして、自分たちの仕事を一時的に変わってもらったようだ。
長い桟橋なので彼らがこちらに来るのに時間を要するだろうが……これはやはりマズいのではないだろうか?
「これ、絶対声かけられるよね」
「……うん……。どうするのかな?」
「さ、さぁ……。レミさんレミさん。警備隊の人がこっちに向かって来てますけど大丈夫なんですか?」
「まぁ不法入国だからね。でも対策は考えてあるわ」
歩きながら後ろを振り向き、得意げな顔をしてピンッと何かを親指ではね上げた。
金色のそれは明らかに金貨であり、ぱしっとキャッチして再び歩く。
どうやらお金を渡して見てみぬふりをしてもらうつもりのようだ。
しかしそんなことで警備隊の人が納得するのだろうか?
あまりこういう手を知らないテールとメルは、少しだけ不安だった。
堂々と歩いていたが、さすがに木幕の服装は他とは違う為警備隊の二人はそれを目印にしてようやくこちらにやってきた。
ガシャガシャと音を立てている甲冑がやかましいが、彼らはそんなことを気にせず木幕の前で足を止める。
「ま、待てお前たち! 何処から来た!」
「海からです」
「そんなことは見れば分かる! というか立派な不法入国だぞ!」
「じゃあこれで」
「「えっ」」
レミが金貨を一枚ずつ、兵士の手に落とす。
目をパチクリさせていた兵士の横を、木幕とレミは通り過ぎたので慌ててついて行った。
恐る恐る後ろを振り返ってみると彼らは金貨を即座に懐に仕舞って咳ばらいをしている。
そして何事もなかったかのようにして、周囲の安全確認をした後持ち場へと帰っていった。
なんだか人の汚いところを見てしまったような気がする。
警備隊があんなのでいいのだろうか。
これを見たらナルスが悲しそうな顔をするだろう。
「……」
「世渡りの一つ」
「と、いいますと?」
木幕が歩きながら人差し指を立ててそう言った。
詳しく説明を求めると、振り向かずに歩きながら説明してくれる。
「某らが不自由なく旅をするのには、極力面倒ごとは避けるべきだ。先の方法はその一つ」
「職務怠慢では……」
「されど双方の同意は得られた。お主が港に寄付をしたのと同じことよ」
そう言って木幕は指を下した。
しかしそれとこれとは違う気がする。
すぐに反論しようとすると、灼灼岩金がそれを止める。
『やめとけ小僧』
「でも……」
『あやつは間違っておらぬ。お前は善意で港に寄付したかもしれぬが、裏を返せば“これで手を引け”と言ったようなものだ。あやつら、港が壊されたのは我らのせいだと思っていたかもしれぬからな』
あの場で対等に里川と戦い、そして会話をした。
単なる敵同士ではないことはその場にいた住民でも分かることだろう。
木幕たちが来たから、港が使われて破壊された。
そして奇襲を仕掛けるのに絶好のタイミングで、襲い掛かってきたのだ。
破壊された港は、これから長い時間と大量の資金を使って復興していかなければならない。
その原因を作った彼らを果たして住民は許せるだろうか?
そしてお金を渡したテールの行動こそ、自分たちのせいでこうなってしまったと認めるようなものだったのだ。
だがそうなったのは……。
「灼さんのせいでは?」
『まぁな。だがそれは主に言ってくれねば困る。主はお前らが来ることを知っておったから、あの港を破壊したのだ。逃げられぬように』
「むぅ……」
『ま、もう少し考えてから行動せよ。じきに失敗するぞ、小僧?』
そんなことはない、と一度は思ったが既に一度大きな失敗をしていることを思い出した。
自分が追放されている原因となったあの一件だ。
カルロは自分を庇ってくれたが、正直に本当のことを言ってしまったが為にどちらも有罪が決まった。
全く納得はいかなかったが、王の命令であれば従わざるを得ない。
そうしなければ……どうなるか分からなかったからだ。
確かに灼灼岩金の言う通り、もう少し慎重になって行動した方がいいのかもしれない。
「テール、大丈夫?」
「う、うん。まぁ……」
「この武器が何か言ったの? 会話してたみたいだけど」
「もう少し考えて行動しろだって言われた。確かに、その通りかも」
「悪いことはしてないから大丈夫だよ」
その言葉を聞いて少しホッとした。
自然と顔が緩んで小さく笑う。
本当にメルにはいろんな意味で助けられているな、と確かに思った。
橋を渡って大地に足を着ける。
そこでレミが立ち止まり、周囲を見渡した。
「さぁ、これからどうしましょうかね?」
「っ」
「研ぎ場所を見つけるのは苦労しそうですよ? 善さん」
「葛篭が作る」
「ああ、それなら問題ないですねぇ……。じゃ、とりあえず人が少ない所に行きますか。昔とは違って、ここにはスラム街もあるみたいですし。まずはそっちに向かってみましょう」
「っ~!」
そんな所に行くのかとテールとメルは驚いたが、彼らは何の躊躇いもなしにスラム街へと足を運んだ。
不安しかなかったが二人は顔を見合わせた後、置いていかれないようについて行ったのだった。




