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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第一章 研ぎ師
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1.5.職場見学


 長い時間ナルファムと会話をしていたテールとメルは、すっかりナルファムに懐いてしまっていた。

 敬語はとっくのとうになくなっているが、ナルファムはそんなことを全く気にしていないようで、笑顔で対応してくれているのだが、唯一リバスだけが青い顔をしてその会話をヒヤヒヤと見ている。


 王都のギルドマスターに敬語を使わない人物など、王族か余程馬鹿な冒険者くらいしかいないのだ。

 ギルドマスターのナルファムの実力を知っているリバスは、子供たちがなにか粗相をしないか気が気ではなかったが、そのような心配は無用なようであった。


「まずはメルちゃんの職場に行きましょうかね」

「はーい! 冒険者ギルドに行くの?」

「そうよ。まぁギルドはここなんだけど、場所を変えるっていう感じかな。ちょっと性格の悪い奴らが多いけど……今のメルちゃんなら全員あしらえるわ」

「?」


 あしらえるの意味をよく知らないメルは可愛らしく首を傾げる。

 テールもどういう意味なのかよく理解できなかったが、メルならその職場でも問題なく働けるということだけは理解できた。

 テールたちはナルファムの案内で移動を開始したのだった。



 ◆



 移動してきた場所は冒険者ギルドの中でも非常に大きく、入る前から様々な装備をしている冒険者と思わしき人物が闊歩している。

 まだ子供であるメルには似つかわしくない場所ではあったが、ここにいる者たち全員が同じような道を辿っているのだから、なにも変ではない。


 ナルファムが冒険者の隣を通る度、冒険者たちは彼女に挨拶をしてご機嫌伺いのような姿勢を見せていた。

 それだけでナルファムがどれだけ凄い人物なのかという事は分かるのだが、敬語が完全に取れてしまった二人にはその光景が異様であるように見えていた。


 まだ子供だし、ギルドマスターという立場がどれだけ凄いものかを理解できないのは仕方ない。

 そもそもギルドマスターが子供二人を職場へと案内していること自体がおかしいことなのだ。


 普通なら仕事に追われているはずだし、ギルドマスターでなければできない案件などもいくつもあるはずである。

 それなのにこの二人について回っているというのは、誰の目から見てもやはり異様な光景であった。


 ナルファムはその場で声を張り上げる。


「ダムラース! いるかーい!?」

「そんなでっけぇ声出さなくても聞こえてらあ!!」

「貴方の方がうるさいじゃない」

「ほっとけ!」


 呼ばれたその男性は体が非常に大きく、手に持っている書類はとても小さく見えた。

 濃い髭を蓄えており、隣には大きな大剣が立てかけられてある。

 短い会話を終えた後、それをグワシと握って背に担いでこちらに歩いてくる。

 がっしりとした装備も相まって体が余計に大きく感じた。

 とんでもない大男だ。


「ナルファム、この子たちがお前の言っていた奴か?」

「ご明察。最強の少女と希少な少年よ」

「ほーう。初めまして、俺はダムラス! 冒険者ギルドの冒険者をまとめ上げている副ギルドマスターだ」


 ナルファムよりよっぽどギルドマスターらしい見た目をしているのだが、この人物は副ギルドマスターらしい。


 テールたちに挨拶をしたダムラスだったが、笑顔が苦手なのか下手なのか、非常に恐ろしい顔つきになってしまっていたため、結局二人から怖がられてしまった。

 二人はナルファムの後ろにすっと隠れて会釈だけをダムラスに返した。


「怖がっているじゃない。その顔やめなさい」

「シンプルに罵倒しやがったな……。まぁいい。これからここで働くのはそこのお嬢ちゃんでいいんだな?」

「そうよ」


 そう言ってナルファムは後ろに隠れているメルを前に出す。


「この子のスキルは?」

「ここでは言えないわね」

「そりゃそうか。っし、じゃあ奥で話するか。俺が宿にも案内するわ」

「駄目。私がするの」

「……? まぁいいけどよ」


 珍しく一人の子に執着するなとダムラスは思ったが、そういえばナルファムはかわいい物好きだったということを思い出して一人で納得する。

 もしそうでなくてもこれだけ面倒を見ているんだから、テールとメルはすでに注目されているはずだ。

 ここままだと確実に絡まれる事になるだろう。


「じゃ、頼んだぞ。お嬢ちゃん、なんかあったらすぐに俺に言えよな」


 メルはもう一度だけ会釈をして、ナルファムの案内について行く。

 テールもその場に一人だけ居るのはあれなので一緒について行く事になった。


 結果からいうと、メルに当てがわれた部屋は女子寮のようで、その中で数人のパーティーを組んで共同生活をするらしい。

 年齢制限などはないらしく、好きなパーティーに入ってクエストを受注しても良いそうだ。

 今後成長していくにつれてパーティーも見直すらしい。

 なので男女混合パーティ―になることが多いようだ。

 とはいってもまだ慣れるために一人での仕事をしばらくすることになるのだが、メルならやっていけるだろう。


 因みに部屋の中なのだが、テールはまだ幼いといってもここは女子寮なので、中に入れさせては貰えなかった。

 ナルファムがダムラスを突っぱねた理由はこれではないのだろうか?


 村から持ってきた荷物はすでに運び込まれているようで、すぐにでも生活できる様に整えられていたようだ。

 外で待っていたテールは暇だったが、二人が意外と早く戻ってきてくれたので、その時間はごく僅かな物だった。


「どうだった?」

「普通……かな? ちょっと部屋が大きいくらい」

「あれを普通と言うのね……」


 部屋の中に何があったのか分からないが、ナルファムとメルの若干の意見の違いに疑問符を浮かべるテールだった。


「じゃ、次はテール君の職場に行こうかしらね」

「わかった。どれくらいでつく?」

「そこの角曲がったらすぐよ。研ぎ師は鍛冶職人と違って音があまり出ないから町中でも営業ができるのよ」

「ふーん」


 まだ研ぎ師というものにあまり関心がないので適当な返事しか返せなかった。

 とりあえず職場を見学しに行こうと、三人は目的地に足を進めたのだった。



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