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感染-infection-  作者: 爭槻
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3-3



人形の目の前にそびえる、巨大な施設。

中には、何百という兵士がいるだろう。

そんな場所へ、一人で飛び込めば、死を免れる事は出来ない。


「、、、ッハハ、、、わかってんだよンな事」


人形のギザギザの歯が、音を立てて軋む。


斬り殺しながら、人形は進む。

真っ直ぐに。ただひたすら、真っ直ぐ。

階段を駆け上がり、斬っては撃たれ、撃たれては斬る。


「な、なんなんだよあれ...?!」

「...化け物だ」


遠くから銃を放つ兵士が、そう呟く。

2階へ駆け上がってくる人形は、既に、ボロボロだった。

銃弾により、身体の至る所が抉れ、出血し、血溜まりを作る。

口が切れ、出血しても、人形は歯を食いしばったまま、怒号を上げ、進んでいる。


兵士の感情に刻まれる、確かな"恐怖"。


「ゥ゛ゥ゛ウ゛ウゥ゛ウ゛ウあ゛ああ゛ぁあ゛!!!」


遂に二階へたどり着いた人形の眼前に飛び込んでくる物は、眩い光と共に、破裂した。


「、、、ぁ?」


何が起きたか、判断が追いつかない。


「、、、ぇ、ぉ、、、ぅぁ?」


確かに感じる、身体中を駆け抜ける激痛。

そして、理解が追いつく。



ーあァ゛、手榴弾か。


ドシャリ、と、人形は倒れ込む。

二階、エントランスで、広いエントランスの真ん中で、血の花を咲かせ。


呆気ない。

あまりにも、呆気ないほど、力なく倒れ込む。


「し、死んだのか...?」

「さすがに死んだだろう...頭も半分ないし、脇腹だって抉れてる...両腕も吹き飛んでるし……これで生きていたら...」


ーアァ。

ーどうりで。

ーすごく、いたいわけだ。


どろどろ、ぐちゃぐちゃと、身体から臓器や血液が流れ落ちる。

この臓器も、血液も、もう人間の物ではないのかもしれない

ただ、それでも。


「、、、ッ゛ぅ゛う゛ぅ゛う゛ぅ゛う゛あ゛ぁあああああ゛ぁああ゛あああああ!!!!!!!」


立ち上がる。

立ち上がった瞬間に、何もかもがぼとり、ぼとりと落ちる。

痛い。すごく。いたい。


「ひっ...!」

「...ば、ばけも___」


「、、、い゛、、、く"、、、い゛、、、ッッ」


血と涎、回らない舌。

その全てが混じった人形の声が、小さく、響く。


「、、、に゛ぐい゛、、、ッッッッ!!!!」


ギリギリと軋む音。


「、、、憎い、、、にくいニクイにくイにくいニクイにくイにくいニクイにくイにくいニクイにくイにくいニクイにくにくいに゛ぐい゛に゛ぐい゛に゛ぐい゛ア"ァ"ア"ア"に゛ぐい゛!!!!」


歯車が周りだし、機械仕掛けの人形(にんぎょう)が動き出すように。

まだ、人間と、同じ物を、同じ感情を、同じ心を持つ感染した人形は、崩れ落ちそうな身体で、哭き(なき)、動き始める。


「お゛っ゛おぉおお゛ぁあああァア゛ア!!!!」


どんな原理で、まだ走れるのか、わからない。

だがしかし、人形は走り出した。

落ちていた刀を踏みつけ、口で噛み締める。

刀を握っていた手は、もう、両方とも存在していない。


「そんな死に損ないに何を恐怖している!!もう何発か当てれば死ぬような体なんだぞ!!撃て!!!」


一人の兵士の声で、一斉に銃弾が発射される。


ーぱらららららららららら。



体を貫く銃弾。

剥き出しになった頭の中身を潰して、貫通する。

もう、何がどうして、どうなっているのか、人形はわからなかった。

だが、まだ。


ーやることが、ある。


「があ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


潰れた足で、地を蹴る。

壊れた身体で、踏み込む。

斬り裂き、駆け抜ける。

兵士の軍勢は、肉片と化していた。

あれほど、人形を囲っていた兵士は、たった一人を残して全滅した。


「、、、ぁ()、、、()、、、()、、、()、、、え、、、()、、、()、、、、、、」


「……ヒッ……ッ!」


人形が何かを呟くと、残った1人の兵士は座り込む。

べちゃべちゃと、血で染まった広間を進む、青い人形。

兵士にはもう、戦う意思はなかった。

顔は青ざめ、失禁し、この世のものでは無いものを見たような顔で、固まっていた。


ゆっくりと、歩みを進める。

もう、邪魔はいない。

残るは、この施設に居るであろう責任者のみ。


このパニックについて、何かを知っているであろう責任者のみ。


人形は、力を振り絞り、あらゆるものがなくなった身体で、扉を押し開ける。


暗い部屋が、一瞬で光が灯る。


「、、、はは」


責任者を囲むように、十数人程の兵士が、人形に向けて銃を構えている。


「現地民...生きていたのか」


責任者はそう言うと、表情を変えず、言葉を繋ぐ。


「正直、何故今そうして立っているのか、不思議でならない、頭半分失い、両腕も失い、身体も半分以上が抉れている状態、見るだけで吐き気を催す、何故、生き、そうして立ち、私の前に立ちはだかる」


「、、、」


人形は何も言わない。

何も言えない。


もう、力など、残っていない。


ーなんだ、まだいたのかよコイツら。


力など。

力___


「ごろ゛じでや゛る゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛!!!!」


勢いよく跳ぶ。

最期の跳躍。

瞬間。


ーぱららららら。


撃ち落とされ、地に落ちる。


「...なんという執念だ」


倒れる人形を、責任者は驚愕した顔で見つめる。





ーオレは、ただ。

ーアイツらと。

ー皆と。

ーもっと、笑顔で。

ーもっと、一緒、に。

ーいたかった、だけなの、に。


ーーごめんな、皆。

ーー待たせちまって。

ーーソッチ行ったら、謝るから。

ーー殺した事、ちゃんと、謝るから。

ーー今から、ソッチ、行くわ。


ーーーまた、皆で。

ーーー笑おう?


ーーーーーー、、、、、、、、



壊れた人形(にんぎょう)が、直る事は、もう二度と無い。

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