3-2
研究施設へ通じる鉄製のフェンス扉を破壊し、爆煙の中、ゆらりと人形が姿を見せる。
既に、扉の中は戦闘態勢で、入ってきた人形に、何十という兵士が、銃口を向けている。
「、、、オイ人間ども、クソッタレな責任者はどこにいやがんだ」
「来たぞ!!現地民だ!銃で応戦しろ!ここで息の根を止めるんだ!!」
「、、、人間風情が、、、オレの、、、!」
人形は刀を鞘から引き抜くと、構え、叫ぶ。
「邪魔ァ゛すんじゃねえェエ゛ェ゛エ゛エェエェ゛エ!!」
目を見開きそう叫ぶと同時に、走り出す。
銃声、金属と金属がぶつかる音、刃物と刃物が鍔迫り合いをする音。
広い敷地内に響く、怒号と絶叫。
「アァ゛ァ゛アァ゛アァァ゛アア゛!!!」
怒りに狂う人形は走る。
己の信ずる者がいなくなった世界を。
己が護るべき者達がいなくなった世界を。
壊すために。
殺すために。
「退けクソがぁあああぁあ!!!!!」
怒号を上げながら、人形は走る。
黒く変色した右目が紅く輝く。
「ッ!!現地民だ!!現地民が来たぞ!!」
「構うな!!撃ち殺せ!!!」
施設の近辺を護衛する兵士が人形に気付くと、部隊長の指示で、4.5人の兵士が人形にアサルトライフルの銃口を向ける。
「退けゴルァアアァアアアアアァアァ!!」
人形はそう叫ぶと、赤く染まった刀を振りかざし、兵士に斬りかかる。
駆け抜け、斬り裂く。
撃ち出された銃弾を回避し、3人の胴体を切断する。
「ば、化け物が!!!」
兵士が飛び上がった人形に銃口を突きつけ、引き金を引く。
放たれた銃弾は、人形の眉間に一直線に飛ぶ。
乾いた銃声の後に響く、肉の潰れる音。
銃弾は人形の眉間に入り込み、頭を貫通する。
その衝撃と痛みで、人形はそのまま後頭部からべちゃりと、地面に倒れ込む。
「やったか!!このまま撃て!どどめを刺すんだ!!」
部隊長、兵士の二人は、倒れる人形に銃口を突きつけ、引き金に指をかける。
その瞬間、人形は尋常ではない速度で跳ね起き、兵士の首を掴むと、ねじり切る。
宙を舞う、防具がつけられた兵士の頭。
部隊長は尻餅をつくが、それでもなお、人形へ銃口を向ける。
「な、なぜ生きている...?!!」
「殺してやる、ぶっごろ゛じでや゛る゛、、、」
人形の眉間からは止めどなく血が流れている。
血。
感染してもなお、その血は赤く、綺麗だった。
本来感染した者の血はどす黒くなる。
何故人形の血は感染してもなお赤いのか、知る者はいない。
「このまま進んでも貴様はすぐに死ぬ事になる!!死が怖くないのか?!!」
「怖えわけねえだろうが、、、オレにはもう、、、何も残っちゃいねえ、、、」
銃口を突きつける部隊長の手が、僅かに震える。
「、、、もう、アイツらはいねえ、アイツらがいねえこの世に、、、もう、用はねえ、用済みだ」
人形は吐き捨てるようにそう言うと、刀を振りかぶる。
「、、、テメエにわかるか、、、?アイツらが、どんだけの小せえ希望で、毎日生きてたか」
人形は刀を振り下ろす。
「、、、まだ、希望はあるって、皆で、生きようって、そう信じてたんだよ、アイツらは」
人形は刀を部隊長に突き立てる。
「、、、アイツらは、もう、いねえ」
突き立てる。
「、、、アッハハ」
突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。突き立てる。
「、、、アッハハハ、、、アッハハハハハハハハハハハハ!!!ようやくだ!!!ようやく!!このゴミみたいな世界を!!!!ぶっ潰せる!!!アッハハハ!!!」
刀を引き抜き、壊れた様に、人形はただ笑う。
「、、、笑わせんなよ世界、アイツらがいたから、今日の今日まで、手ぇ出さずに見逃してきてやってたんだぞ、、、」
人形はフラフラと歩き始める。
眉間からの出血は、もう、止まっていた。
「、、、全部、殺して、やる」