夢日記
これは、私の古くからの友人で精神科医仲間ーここではYとしておくーから聞いた話だ。
Yの独白
その日、私は一人で山道を歩いていた、約束の時間まであまり時間がなかった、おまけに雨まで降ってきてとても歩きやすいとは言いにくい道「らしきもの」を一人歩いていた、引き返せば良かったのにって?バカを言っちゃいけない、その日の依頼人は金払いが良いと専らのウワサだったからね。
話を戻そう、そうしている内にどうにか依頼人の家らしき洋館を見つけた、そうだ、立派な洋館だったよ、そして呼び鈴を鳴らすと和服を着た中年の女が出てきた俺は聞いたんだよ「ご主人はどちらでしょうか?」ってね、そしたらその女はこう言ったんだ「主人は二年前に死にました、今日あなたをお呼びいたしましたのは私で御座います」ってね、いや、キミ、驚いたのなんのってキミが大嫌いな蜘蛛となんの予告も無しに出会ったのとじゃ比にならないよ、なんでって中年の女、A氏としておこうか、A氏と患者が二人きりで山奥の洋館で住んでるんだぜ、キミもご存知の通り精神病患者は色々と手助けが必要になる、だのにそのA未亡人は少なくとも二年間一人で患者の面倒を見ていたってこった、それが町中ならまだしも山奥と来た、俺は気味悪ささえ感じたねぇ。
あぁ、そうだ、患者の話をしなくては、先刻もいったが俺は気味悪さを感じていた、が、まぁそれを態度に出してしまうほど落ちぶれちゃいないから精一杯重々しい声で「患者は?」と問うた、するとA氏は奥から一冊のノート持ってきた。
「これは?」
「娘の日記で御座います」
俺はここで初めて患者の性別を知った、だがなんだか普通と違う、いや、別に見た目からして違うと言う訳ではないのだが、長い経験の勘か、本能的な物か、普通の日記ではないと言うことは火を見るよりも明らかだった、こらえきれずに俺は尋ねた「この日記はなんの日記ですか?」、バカな質問をしたと思うかい?俺も思い返すとなんであんな素人みたいな質問をしたのかわからないんだ、そして少しの間の後A氏は答えた「それは夢日記で御座います」ってね、まぁそこまではいいんだ、だがね、キミ、ここからが問題なんだ、そう、その日記の内容!一寸聞いていってくれ給え、えぇと、アレはどこにやったかな、あったあった、じゃあ読むぞいいかね?
七月十日 晴れ
今日から夢日記をつけることにした、今日は川で友達と遊ぶ夢をみた、みたことがない子だけどあの子はだれなんだろう。
七月十四日 曇り
この前の夢であった子はエリゼと言うみたい!でもなんで覚えているのかしら?またエリゼに会えると良いのだけど。
七月十七日 雨
今日は久しぶりにエリゼに会えた、この頃前よりも夢の中の記憶が鮮明になってる気がする、なんでかしら?でもエリゼと遊んだ記憶が長く残るのは嬉しいわ!
七月十八日 晴れ
今日もエリゼが来てくれた!二日連続で会えるなんて初めて!二人きりで空を飛んだり野原を駆け回ったりしたの、「現実でも会えたら良いのに」って言ったらエリゼはクスクス笑ってた、ひどいわ!
九月十日 曇リ
今日は久しブりにエリゼが来てくれた!しかも夢だけじゃなくて現実でも!学校に一緒ニ行ったのに学校のヲ友達は「そんなの居ない」って言うの!エリゼはここにいるノニ
九月十一日
今日もエリゼが来タ!ウレシい!学校に行ったけどみんな変ナめでミテクルノ、エリゼと話しているとき、エリゼと遊んで?トキなんで?なんでみんなはエリゼがわからないの?
?!月二百十日
エリゼ、来タミンナわからない、エリゼはミンナがバカだからと言った、キッとそうだワ変なメ、バカなメバカはいなゐほうがひい
!?月≪≫日
エリゼトバカ、コロしたミンナバカェ?がワルウ
)$^%月\:3}日
以下見開き一ページに渡り意味不明な文字の羅列が続く、「エリゼ」「バカ」「コロス」「嘘」といった言葉が所々に見られる。
どうやらまだその先にも文字の羅列は続いているようだったが、俺はその先を読むことは出来なかったよ、だってそうだろう?この先を読んでしまったら確実に自分まで可笑しくなってしまうのは火を見るより明らかだったからね、その患者?今も「エリゼ」と遊んでるんじゃないのか?
Yは話終えるとコーヒーを一口飲んだ、そこで私はそのカフェー中の視線を一身に受けていることに気がついた。