政略結婚
政府の方針で政略結婚が正式に発表された。
テレビのニュースによると、あまり関係が宜しくない国相手の物資輸出輸入に期待ができるようになるらしい。
しかも、拉致問題収束の一手となるようだ。
『そんなにメリットがあるのか?』
妻に話を振りつつ、リビングのリモコンに触れる。
『さあ? お偉いさんはこれからもっと大変になるわねえ』
『好きでもない人と結婚か……それは死んでも嫌だな』
『私もよ、あ、な、た』
朝食を済ませた俺は電車に乗って仕事場に向かった。
クールビズでクールな風に包まれたオフィスの先で部下と部下が話をしている。
『聞いた? 政略結婚』
『聞いた聞いた、大変になるな、あれは』
『本当に実行するなんて、おおこわいこわい』
そんな部下の間に入って仕事を促す。
『他人の心配をする前に自分の心配をしたらどうだ』
「はーい」
最近の若い者は。なんて思いながら定時に帰って妻を抱く。
明日の朝ご飯は? 明日の夜ご飯は?
同じ時間になる度に聞いて36回。月も欠けて満ちる頃。
妻が死んだ。
死因は横断歩道を赤信号に気づかず渡ってしまい、そのまま大型トラックに跳ねられ。
どうしてトラックは止まってくれなかった?
疑問で一杯だった。どこからか湧いてきた保険金も一杯だった。
物事を済ませて仕事に復帰した。
ニュースの話は誰もしなくなっていた。
『政略結婚の話、誰もしなくなったな』
『したいわけないじゃないですか、心配してますから』
『俺もそろそろ、政略結婚しないとな』
『冗談でも笑えませんよ』
俺は面白いと思ったのだが、自虐はウケなかった。
残業をして帰ってきて。ポストを久々に開く。
一枚の封筒を見つけた。
『電気代か?』
開いて紙を取り出す。細い文字に目を凝らす。
【あなたはこの人と結婚してもらいます】
差し込まれた画像は黒人の痩せこけた男性だった。