97.女の友情はハムより薄い?
『ゲイル君、いま大丈夫?』
メッセージを見た私は、一も二もなくゲイル君へとの通話を試みた。
反応は程なくしてあった。
『大丈夫ッス。連絡できずにホントごめんッス!』
通話の向こうで必死に頭を下げる姿が目に浮かぶ程、その言葉には必死さが込められていた。
私はほっと息を吐き、久々に声を聞けてちょっと嬉しくなる。
『ううん、大丈夫だよ。多分いろいろ頑張ってくれてたんだと思うし。
あ、メッセージでも送ったけど、こっちの準備はほぼ完了したよ』
『そうみたいッスね!やっぱプラムちゃんはスゲーッスよ!』
『そんなことないよ。私一人の力じゃないし。いろんな人に手伝ってもらったから出来たんだよ』
その言葉に嘘はない。リーオンさんにもねりけしくんにもアミーさんにもスプロさんにも、そしてもちろんアヤナにも手伝ってもらった結果だ。
『それで、大事な話ってなに?』
本当はもうちょっとゆっくり話していたいけど、大事な話ってのも気になるし、クレスも待たせているしということで、すぐに本題に入る。
『実は、CGのアジトがわかったッス』
『えっ!?本当っ!?』
それは驚きの報告だった。たくさんの人が調べてもわからなかったアジト、それを発見したというのだから。
『マジッス。実はアジトの場所だけならもうちょい前からわかってたんッスけど、色々調べてたら遅くなっちゃったッス、ごめんッス』
『いやいや、謝んなくていいよ!
それよりすごいよ!アジトを突き止めるなんて!どうやって調べたの?』
『見つけたっていうか、教えて貰ったんッス。メンバーに』
『ん?どういうこと?』
『オレ、今CGのメンバーなんッス』
『はい?』
え?
なに?
どういうこと?
CGってあのCGだよね?
これからリベンジしにいく、あのPK集団だよね?
それのメンバー?
え?
なんで?
一瞬の間に頭の中に疑問符が並ぶ。
耳に入ってきた単語とその意味が、頭の中でイコールで繋がらない。それを嬉しそうに報告するゲイル君のテンションが余計に私の頭を混乱させた。
『あ、違うッス違うッスよ!なんか勘違いしてないッスか!?
スパイとして潜入してるってことッスよ!』
私の不穏な空気を察したのか、ゲイル君が必死に否定してきた。
その言葉を聞いて、ゲイル君がPK集団に寝返った訳じゃないと安心する。
え、でも潜入って。
『それってめっちゃ危ないんじゃないの?』
『そうなんッス。だから連絡できなかったんッスよ。どこで情報が漏れるかわかんなかったんで』
そういうことだったのか。確かにあの集団なら盗聴なり盗撮なりしていてもおかしくはない。
そしてもしそんなことをしてるなんて、バレたらと思うと。
『なんでそんな危ないことをっ!』
『プラムちゃんの力になりたかったんッス。
頑張ってるプラムちゃんを見ると、オレも嬉しいっていうんッスかね?』
向こうで苦笑いを浮かべているゲイル君の顔が手に取るようにわかる。
そんなゲイル君の気持ちに、胸がきつく締め付けられた。
『でも、本当に無理はしないで。危なかったらすぐに逃げてね』
『大丈夫ッス。それにスパイももう終わりッスから』
『どういうこと?』
『今夜、作戦決行ッス』
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
ゲイル君がスパイとして潜入した結果、得られた情報はアジトの場所だけじゃなかった。
それは集会の日程。
CGは月に一回、メンバーが集まって取得したアイテムの分配を行うらしい。
それが今日の夜だという。
『つまり、今日の夜にメンバーが全員集まるって事?』
『そうッス。そしてその中に、プラムちゃんの取られた記憶核も必ずあるッス』
私の取られた大事な物。
記憶核。クレスから預かった大事な物。必ず取り戻さなきゃいけない物。
『アイテムの分配が終わったら、それがどこに行ったかはわからなくなるッス。
なんで、今夜が最初で最後のチャンスッス。
ただメンバーが揃うってことは、それだけ危険度も上がるんで、もし無理そうなら───』
『ううん、今夜、行こう』
私は即決で判断する。
元より無謀な挑戦だ。であれば成功した時の見返りが確実な方がいい。
それに今、私は最高にノッている。
『はは、プラムちゃんならそう言うと思ってたッス。
じゃあ、詳しい時間とかは後でメッセージで送るッスから、それまで残りの準備をお願いするッス』
『了解。
ゲイル君』
『どうしたんッスか?』
『ありがと』
『っ。また、連絡するッス』
そう言って、ゲイル君との通話は切れた。
思ったより結構長く話してしまった。クレスから早く来いとの催促のメッセージも来ている。
うん、ちょっとこれはお祝いは後かな。
ただ、丁度よかった。そうと決まればクレスにも伝えに行こう。
私はアトリエを出ると、ポータルで王都へと向かった。
「遅いよ、プラム」
「ごめん、ちょっと急用が入って…って!?」
「プラムさん、あけましておめでとう、かな?久しぶり」
「先輩!?海外に行ってるんじゃなかったんですか、どうしてここに!?」
クレスの待つヴォワ・ラクテの扉を開けると、そこには待たされてちょっと苛立ったクレスと、海外旅行中で日本にはいないはずの先輩がお茶をしていた。
「ふふ、実は今、スウェーデンから繋いで貰ってるんだ。
向こうで知り合った友達がね、こっちのサーバーに繋がる回線を持ってて、たまたまさっきログインしたところ」
そんな偶然ってあるの!?海外からアクセス出来たこともびっくりだけど、このヘルメットみたいなゲームハードも持っていったのが驚きだよ!
「出来れば海外からアクセスして驚かせたかったからね」
いたずらに笑う先輩は、いつもよりちょっとテンション高めな気がする。やっぱり環境かな?そんな先輩もお茶目でとても素敵です。
「まぁせっかくだし、いいじゃん。プラムのために今日もお店貸切ったんだからね」
言われてみれば私たち以外のお客さんはいなかった。
もはや王都の人気店のこのお店を貸切ったとなると、また後で何か噂になりそうだが、そこはクレスの心遣いに感謝しておこう。
ただ、事情が変わったことはちゃんと伝えないと。
「実は、ちょっと予定が変わったんだよね」
「変わったって、どういうこと?別れたの?」
「違うよ!
そうじゃなくて、前に言ってたPK集団なんだけど、向こうのアジトがわかったみたいで」
「あ、そうなの?じゃあもしかして今から行くとか?」
「今からじゃなくて、今日の夜からなんだけど」
今日の夜かぁ、とクレスが腕を組んで思案している。元より休日は徹さんとの時間を大切にしてログインしないクレスだ。夜ともなれば、さらにログイン率は下がる。どうしたものかと悩んでいるようだ。
クレスが悩んでいる横で、先輩が首を傾げて問いかける。
「PKって何?何かあった?」
そういえば先輩には何も言ってなかったっけ。ちょうど海外旅行に行っちゃった後だし、言う機会がなかったっけ。
「実は───」
私はあの忘年会の後、PK集団Chaos Gigantに襲われたこと、そこでクレスから預かった記憶核を盗まれたことを伝えた。
そしてその時知り合ったゲイル君と復讐するために、準備をしてきたことも。
「CGねぇ…」
「知ってるんですか?」
「まぁ、ね。ただ、わたしが知ってるのはもっと前のCGだけど」
前のCG?それって夢幻が入って規模拡大する前のCGってことかな?
先輩も何やら思案モードに入ってしまったようで、私はどうしたものかと手持ち無沙汰になる。
すると、クレスが。
「ちょっと、ごめん。一旦落ちてくる」
言うや否や、クレスは店の奥へと行ってしまった。多分そっちにログアウト用のベッドでもあるのだろう。
先輩と二人きりになり、しかし思案中の先輩は黙ったままで。
「えーっと、先輩?」
沈黙に耐えられなくなった私は、思わず声を掛けた。
「あ、ごめん。
その、お願いなんだけどさ、わたしもそれに参加していいかな?」
「え?先輩もですか!?」
思ってもいなかった申し出に、思わず聞き返しちゃったけど。
「ごめん、迷惑なのはわかってるんだけど、ちょっと思うところあって」
「いえ、迷惑なんてそんな!もし手伝ってもらえるなら、心強いです!
でもいいんですか?すごく危険ですよ」
「いいのいいの。
私の感情的なところの問題だから」
そう言った先輩の目は、すごく真剣で、すごく真っ直ぐだった。
「ごめん、お待たせ」
十分ほどしてクレスは戻ってきた。
その表情は明るくて、暗い。
「あたしも今夜、参加するよ」
「え?いいの?」
てっきり厳しいかと思っていたけど、大丈夫なようだ。
でも、いいのかな?徹さんとの時間とか。
「徹のやつ、急に仕事が入ったとか言って出てっちゃったから。
今日はもしかしたら帰れないとか言うし、だったらこっちだって好きにしますよってさ」
だから、そんな顔をしてたのか。
徹さんが急に仕事にいって寂しい反面、私と一緒に行けることを喜んでくれたのかな。ちょっと自惚れだけど。
「そっか、ありがとね、クレス。
それとね、先輩も今夜一緒に来てくれるって」
「ハルキ、大丈夫なの?海外からなんでしょ?」
「大丈夫だよ。時差も八時間だから、日本の夜なら、こっちの昼間だからね。むしろ好都合」
クレスも先輩も、問題ないようだ。
であれば、もう決まったね。
「二人とも、ありがとう。
私のわがままに付き合ってもらって」
「あたしの好きで参加するだけだしね」
「わたしも自分の都合なだけだよ」
そんな気遣いが本当にうれしい。
思わず目頭がぐっと熱くなるが、必死に我慢する。
それは全部終わってからだ。
「これが二度目のクラン活動かな?」
「プリマヴェーラ再始動、的な?」
「別に活動休止してた訳じゃないんだけどね?」
ハハハっと三人で笑いあう。
二人の気持ちがとても嬉しくって、とても心強くて。
私は決意を新たに、拳を握りしめた。




