53.そりゃそうなるよね
日曜日。
クリスマスイヴ当日。
私はなんだかんだ昨日からそわそわしっぱなしだった。
生産スキルのレベルを上げようと、いろいろ作ってみたものの心ここにあらずで作ったものは大半が微妙な出来になってしまった。
そんなこんなで大量の素材を無駄に消費しながら、今日も今日とてスキル上げにいそしむ。
「錬金は上げないので?」
「やるよ?失敗レシピは使わないけどね」
「そちらの方が効率的では?」
「ドールハウスでやっていいなら、やるけど」
さすがのアヤナもそれは嫌なのか、それ以上言ってくることはなかった。
私的にもなんであの時はあんなに爆発してて大丈夫だったんだろうと思う。時間があいて、しばらくしたから、あの爆発に対する恐怖がとてつもない。
まぁ当分の間は機工と木工優先で上げるつもりだし、錬金はその後からだからその時考えよう。
ちなみに機工がレベル上がったことで、地味に作れるものが増えた。
例えば、拘束矢。スパイディアスピアをヒントに命中した対象を拘束できるようなアイテムが作れないかと思っていたらできた。命中するとそこからネットが広がり対象を絡めとる仕組みだ。効果はそこまで強くないけど、ちょっとの時間を稼いだりは出来そうだ。
あとは左手のクロスボウ自体も改造した。連装式にしようと弾倉を作ったらインベントリと同期出来たので、インベントリにしまっておけばそこから連射出来るようになった。いちいち自分で番えなくてよくなったから、相当楽だ。
それから靴に機工を仕込んで機動力を上げるようなものが出来ないか試したけど、それは上手くいかなかった。機工のレベルが低いのか、使う私が下手なのか。
「足元が爆発する靴も、ジャンピングシューズもどちらも使い物になるとは思いませんが」
コンセプトからしてダメだったか。
とまぁ、レベル上げのついでにいろいろ作っては試してみたので、私のアトリエは結構な物があふれる空間となった。
いらないものは、壊れた人形たちと一緒に隅に置いておこう。そのうち片付ける。そのうち。
「明日やろうは馬鹿野郎、だそうですよ」
聞こえなーいっ!
そうこうしているうちに、時刻は19時。
待ち合わせは20時だったはずだから、そろそろ準備して向かおうか。
「いつもの服ではいかないのですか?」
「ツナギで?冗談でしょ?」
これから向かうのは恋人たちが集うおしゃれ空間だ。
こんな戦闘力の低い格好でなんかいけない。
私はこの前のクラシカル冬コーデに着替える。
「えーっと、イベントスペースへの行き方は街のポータルから飛べばいいのか」
街ならどこでもいいのかな?あんまり目立ちたくないから、エルルカ村からでいっか。
という訳でアトリエからエルルカ村へ行き、そこからイベントスペースへとワープ。
一瞬の暗転、から視界が一気に変わる。
白。
最初の印象はそれだった。
そして数秒の後、それが視界一杯に広がる雪だと認識する。
「うっわ」
そこは街だった。
雪の降る街。
夜空の下、しんしんと降る雪は家屋の屋根に積もっている。
あたりの家からは光が漏れ、なんだか楽しそうな雰囲気が漏れ聞こえてくる。
街の印象は、それほど大きくないようだ。村といってもいいかもしれない。
ただそこかしこにイルミネーションが光り、視線の先には大きなもみの木のクリスマスツリーが見える。
やってることは現実のクリスマスと一緒なのかな。
クリスマスツリーの周りに目を向ければ、そこにはなんだかお熱い雰囲気のカップルが沢山。
あまり見ていると、雰囲気に中てられそうだったので、そっと目を逸らす。
「操者があっち側にいる想像がつきません」
ぐぬぬ。絶対イケメンの彼氏作ってアヤナを見返してやる。
私はなるべく人通りの少ない所を選んで、待ち合わせの場所に向かった。
「ふぅ、余計な時間を使ったね」
「えぇ、そこまでは考えが及びませんでした」
人通りが少ない、つまり大通りを避けて私たちは待ち合わせの場所に向かったわけだ。
路地。普段は人が少ないはずのそこは、今日このタイミングでは何かと賑わっていた。
暗がりで、男女二人。セクシャルガードがあるから、ナニができるわけじゃないが、そこは肌を寄せ合い甘い言葉を囁いていた。
そんなカップルが何組もいた。彼ら彼女らは自分たちの世界に入っているようで、近くを通りすぎる私たちをまったく気にしていなかったが。
とはいえさすがにその隣をすり抜けるのも気が引けるので、見つけるたびにさらに横道に入って、また見つけて迂回してを繰り返していたら、予想以上に時間が掛かってしまった。
待ち合わせ場所は街はずれにある公園だった。
待ち合わせ時間ぎりぎりに到着すると、シューくんはもう待っていてくれた。
「お待たせ」
「いえ、僕も今来たところですので」
ふふ、クリスマスデートの二人みたいだね。アヤナいるけど。
「では、さっそく始めましょうか」
「えぇ、お願いいたします」
そういってシューくんが準備を始める。
ここではギルドホームみたいに自由に試験用モンスターを呼び出したりはできないようで、単純な運動性能の試験となるようだった。
「まずは防寒着を脱いだ状態から始めましょうか」
ということで私はアヤナから白いコートを預かった。
雪原フィールドや寒冷地では、寒さによるデバフが常時掛かってくる。
寒さのデバフは、体を委縮させ動きを制限したり、寒さによってはダメージを受けるものまであるらしい。
それの対応として、防寒着や体を温めるドリンクなどがある。
アヤナの場合は、以前シルエットを隠すために買って上げたコートがそのまま防寒着として使えるようだったので、それを使わせていた。
ロングコートだからちょっと動きずらそうだけど。
はっきりした気温は分からないけど、体感ではマイナス10℃はいってないくらいかな?
でも東京の冬の夜よりは寒い気がする。
シューくんによる試験が始まった。
まずは広場を走ったり、跳んだり。そのあとはシューくんの用意した的に対して剣で攻撃したり、投擲したりといろいろ試しているようだった。
一通り終わったら、今度は防寒着を着て再試験だ。
内容はさっきと同じ。
二度目ともなると流石に見ててもつまらないので、周りの散策でもしよう。
公園って言ってたけど、ただの広場だよね?
遊具とかがあるわけじゃないし、ベンチがあるわけでもない。
昼間にくると子どもたちが遊んでたりするのかな?
ここにも結構大きなもみの木が植わってるね。こっちはデコレーションしてないから、ちょっと寂しい感じかな。
なんか可哀想だから、デコってあげよう。なんか持ってたかな?
あ、前にアヤナが私の左腕に付けようとしていた、LEDライト的な電飾が残ってるや。
なんか思ったより長いし、これ巻き付けてあげたらちょっとは煌びやかになるかな?
「何をやっているのですか」
「え?」
振り返るとアヤナが呆れたような顔で私を見ていた。
「いや、なんとなく、ね」
別に恥じるようなことをしていたわけじゃないが、改めて言われるとちょっと恥ずかしい。
後ろ手に隠すようにするが、ぴかぴかと光る電飾を隠せてるはずはないだろう。
「で、終わったの?」
「終わりましたよ。ご協力ありがとうございます」
アヤナの後ろからシューくんも現れた。
シューくんは、十分な検証が出来たからか満足そうな表情をしている。
「アヤナさんはすごいですね。この程度の寒冷地戦なら、防寒対策なしでも通常と殆ど変わらずに動けるようです。プレイヤーだと防寒対策なしだと1割から2割程度は運動性能が落ちるものなんですよ」
少し興奮気味に早口でまくし立ててくる。
興味あるもののことになると早口になるのって、なんかちょっと可愛いよね。
シューくんが言うには、おそらく他にも耐性はあるんじゃないかと言っていた。多分暑いところも大丈夫なんだと。それはすごいね。ちょっと見直した。
「アヤナは優秀ですので」
ない胸を張って、ドヤるアヤナなのであった。
「それで、前回のお詫びと今回のお礼ってわけじゃないんですけど」
と言って、シューくんがアイテムを渡してくる。
「お詫びって?」
「スパレイクカピバラの件です」
「あーあれね」
本当に気にしなくてもいいのに。
まぁ、気にしていてそれで気が済むなら受け取っておこう。
「…靴下?」
「えぇ、クリスマスと言えば、靴下ですよね」
なんだかすごく微妙なものを貰ってしまった。どうしろというのだ。
「実は今回のイベントで、隠しクエストがあるようなんです。
クエストといっても簡単なものなんですが」
といって説明してくれた。
イベントスペースに入って正面にそびえ立っていたクリスマスツリー。
あれを綺麗にデコレーションするのが、クエストなんだとか。
ここの住人から聞いた情報によると、あのクリスマスツリーに飾り付けをすると翌日、つまりクリスマスの朝にサンタからプレゼントが貰えると。
その受け取り方法がこの靴下なんだとか。
「一応ちゃんとしたクエストアイテムなんです。住人から作り方を教わらないと作れないものなんですよ」
「へぇ」
じゃあ靴下は手に入れたってことで、あとはあのクリスマスツリーに何かデコってあげればいいわけだね。
「そういうことです。今から行きますか?」
「そうだね。いこっか」
そうして私たちはクリスマスツリーに向かった。
相変わらずツリーの周りにはカップルが溢れかえっている。よく見れば私たちと同じ、クエストのためなのか熱心に飾り付けをしている人もいた。
「飾り付けってなんでもいいの?」
「住人に聞いたところなんでもいいそうです」
ふぅん。そう聞いてよく見てみれば、確かにいろいろな物が飾られてある。
定番なのは電飾とかボールとか星とかサンタの人形とか。変わったのだと武器とか吊るしてる人もいるね。ゲームならではってことかな。
「なんかレアっぽいものがたくさん飾られてるけど、やっぱりレアなもののがいいの?」
「それはわかりません。ただ、この手のイベントの場合、奉納アイテムに比例して返礼アイテムが高価になるってことが多いですね」
なるほど。
ってことは無理にレアなものを飾らなくてもいっか。貰えたらラッキーくらいに思っておこーっと。
なんかあったかな。
さっき電飾は使っちゃったからもうないし、武器とか飾るのもちょっとなぁ。うーんうーん…あ、これは。
「操者、正気ですか」
「え?ダメ?」
私が取り出したのは木彫りの熊。
木工のレベル上げ用にと作っていたものがインベントリに入っていたようだ。まぁホームに飾るつもりはないし、これはこれで可愛いと思わない?
「ええと、ワイルドですね?」
シューくんも若干引き気味だけど気にしない。トナカイの人形が吊るしてあるところを見つけたので、その隣に熊を吊るした。
「獲物と認識された可哀想なトナカイですね」
「この子たちは友達なの!」
デフォルメされたトナカイに対して、妙にリアルな熊。…うん、きっと仲良くやれるよ。
「さて、こんなところかな?」
「えぇ、ありがとうございます。僕たち知恵梟はいつでも情報提供をお待ちしてますので」
シューくんが笑顔で一礼する。
じゃ、今日はここまでかな。ちょっと寂しいけど用件終わっちゃったしねー。
「ところでプラムさん、この後時間ありますか?」
「え?特にないけど」
「もしよかったらこのイベントスペースご案内しますよ」
「えっ!?本当!」
まさかシューくんから誘ってくれるとは!
もちろん行きますとも。
「是非お願いしたいな。ここ来たの今日が初めてなんだよね」
「そうでしたか。では僕がご案内を―――」
とシューくんが私を連れて歩き出そうとしたところで、動きが止まる。
シューくんの視線が、私の背後に向いていた。
私はその視線の方をゆっくりと振り返る。
「どういうこと?」
そこにメアリNo.4がいた。




