29.イプシリムレガレクス
アヤナが海中へと飛び出す。
動きはぎこちない。慣れない水中戦の上に、両手には剣を持っている。必死に足を動かし推力を発生させる。
アヤナに気付いたリュウグウノツカイが、列車に体当たりするのをやめて襲い掛かる。
アヤナはそれを向かい撃つ。
それこそ列車が突撃してくるようなスピードと質量がアヤナに向かう。それを右手の剣を振るうことで反動を発生させ、すんでのところで回避する。すれ違いざまに左手の剣を背に突き立て、リュウグウノツカイの勢いを利用して大きく切り裂く。
リュウグウノツカイは一旦距離を取り、警戒を強める。
アヤナを中心にその周りを旋回し始める。アヤナはそれを追うことはせず、待ち構える姿勢を崩さない。
3周したところで、一気にスピードが上がる。リュウグウノツカイがアヤナの背後を取る。死角からの突撃。しかしそれもアヤナは読んでいたようで、剣の反動で身を返し、斬りつける。
が、今度はリュウグウノツカイがその斬撃を頭の触覚で絡めとる。水中で勢いが減速した斬撃はその触手を断ち切ることはかなわない。
絡めとった剣をそのままリュウグウノツカイが一気にスピードを上げて、アヤナごと引きずりまわす。アヤナは反対側の剣で、絡み取っている触手を斬りつけるが、体勢が悪いためひるませることができない。
「ちょ、アヤナ!やばっ!」
流石のアヤナからも焦りが見える。私はどうにかしてリュウグウノツカイの気を逸らせないかあたりを見渡す。使えそうなものはない。
と、思い出した。
「鑑定!」
私は右手で丸を作り、そこからリュウグウノツカイを覗いて鑑定する。
イプシリムレガレクス Lv.49
種族:魚類
私の鑑定に気付いたのか、リュウグウノツカイ改めイプシリムレガレクスが私の方へ突撃してきた。
列車の壁へ全速力で体当たりしてくる。相当の衝撃に中にいる私も立っていられなくなる。
しかしその体当たりの衝撃を利用して、アヤナは触手から抜け出せたようだ。
一気に尾の方まで泳いでいき、連撃を叩き込む。
イプシリムレガレクスは身を翻し、アヤナに向かって再度猛スピードで突撃した。
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『気を付けてください。攻撃パターンが変わったようです』
戦闘開始から15分ほどが経っただろうか。触手に気を付けるように回避を大きく取るようにしてからは、そこまで危なげなく対処出来てるように見える。
また、アヤナとは遠隔でも話が出来ることに気付いた。
パーティ会話みたいな感じで、使役する自動人形とは会話できるようだ。これにより遠隔で状況説明が出来るようになったのも、優勢に進められた要因の一つだ。
アヤナから注意が飛ぶ。
先ほどまで突撃を繰り返していたイプシリムレガレクスが、距離を取ってゆっくりと泳ぐ。しかしそのゆったりとした泳ぎが一層警戒心を高める。
次の瞬間、イプシリムレガレクスの触覚が逆立ったように広がり、口を大きく開いた。
「避けて!」
反射的にそう叫ぶ。
開いた口からは轟という音と共に、水流が柱のように発せられる。ブレスだ。
あまりの勢いにアヤナも避けきれず右足の先に掠るが、直撃は避けられた。しかし避けた先まで水流は追ってくる。10秒ほどの間だが、必死に泳いでもじわりじわりと距離を詰められるので、非常に長く感じた。
水流を放ち終わったあとは、再び距離を取るように泳ぎだす。
「さっきまでの突撃とは反対に、今度は遠距離攻撃ってことか」
結構厳しいなぁ。
アヤナも水中戦闘を続けてスキルが上がってきたのか、最初よりもスムーズに身体を動かせている。しかしイプシリムレガレクスの動きにはまだ完全に追いついてはいない。
そろそろ逃げてくれてもいいんだけど、と思っているが向こうはまだまだ戦意旺盛のようで見逃してはくれなそうだ。
再び触手が広がる。
またブレスがくる!
アヤナもそれを警戒してか、すぐに動けるように体勢を整える。ブレスが放たれる。アヤナは列車にブレスが当たらないように避けるが、イプシリムレガレクスと距離を縮めることができない。
『操者、ちょっと動きを止めてもらえませんか』
『ちょ、簡単に言わないでよ!』
『ちょっとは働いてくださいよ』
くっ、確かにアヤナばっかり戦ってるけどさぁ!
私はなにかないかと周囲を見渡すが、客車にはろくなものがない。車掌さんも武装はないって言ってた気がするし。
次にインベントリをひっくり返し、使えるものがないか探す。
「くぅ…こんなときあの榴弾矢があれば…」
今の私にそんな便利なものはない。
持っているのは、クロスボウと魔法の杖とポーション関係と、余って使ってない生産素材がいくつか。
あっ、これは!
『アヤナ、ちょっと時間稼いで!5分!』
『3分でお願いします』
『善処する!』
さて、3分メイキングと行きますか!
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まずは陽明樹のクロスボウを分解する。持ち手の所はそのままでいいか。弦とリムは本体から取り外す。
次に機工のレベル上げの途中で作った金属製のクロスボウ。こっちは完全に分解して、補強に使える部品は選別しておく。
金属性のリムをメインに、陽明樹のクロスボウのリムを半分にカットして両端に接続、長さを倍にする。
レール部も金属で補強し、余っていた木材を使ってこれも全長も倍近くまで延長させる。
弦にはスパイダーシルクをこより、強度を増したものを使用する。
さぁどうだ!
陽明鉄鋼の弩
陽明樹と鉄鋼によって作られた少しアンバランスな弩。
矢以外のものも投射出来る。
攻撃+45
かなり重くなったのでとてもじゃないが片手では扱えないが仕方ない。
重量が増したことで攻撃力が上がったのはよかった。歪なのはありもので作ったからです。私のスキルが低いからじゃない。
私は弩の弦を足を使って思いっきり引っ張る。
これ一発撃ったらもう使えないなぁと思いつつも、今回は一発撃てればいいのだ。
そしてスキルの水泳と水中適応をLv.5ずつまで取っておく。
『おまたせ、アヤナ』
『20秒の遅刻ですが』
『相応の働きを見せてあげる』
私も海中へと飛び出した。
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海中へ飛び出すと、視界の隅にカウントダウンが現れた。8分ちょっと。
確かこれは呼吸時間だったかな。水中適応でLv.1ごとに1分と、その後は2秒に1%ずつ最大HPが減っていく。一度地上で呼吸すれば、最大HPは回復するからすぐ潜れるようになるらしいけど。
そういえばアヤナはずっと潜ってるな。人形だから呼吸しなくていいのかも。
アヤナとイプシリムレガレクスは車両から少し離れたところで戦闘している。
私はその隙に車両の屋根へと向かう。ちょうどいいくぼみを見つけたので、そこに足を掛けて待つ。
『アヤナ、チャンスは一度きりだよ!こっちにそいつを連れてきて!』
『了解です、操者』
アヤナがこちらに向かって泳いでくる。その背を一定の距離を保ちながらイプシリムレガレクスもついてくる。
私はなるべく目立たないように、列車の屋根の上に身をかがめる。その私の脇をアヤナがすれ違うように泳ぎ去る。
未だアヤナを追うイプシリムレガレクスは、もう私の目前に迫っている。
私はインベントリから、それを取り出し弩につがえる。
それは矢よりもずっと大きい。
槍だ。
あのジャイアントスパイダーのMVP報酬、スパイディアスピア。
このMVP報酬武器としては攻撃力が低いこの槍の持つ特殊能力、それが。
「いっけぇぇぇぇぇえええええっ!!」
引き金を引くと轟音と共に槍が発射される。
引っ掛けていた足が外れ、海中に身を飛ばされる。しかしそれをアヤナが後ろから支えてくれた。
槍の射出にイプシリムレガレクスは驚愕し、身をよじる。脳天への直撃は避けたものの、巨大な胴体への直撃は避けられない。
それでいい。
あたればいいのだ。
わき腹に刺さったスパイディアスピアの柄が、口金を中心として8本に分かれる。それはまるで蜘蛛の足のように。
8本の柄は蜘蛛の足のように関節を持ち、元の体積を無視して長大に伸びる。
それは列車サイズのイプシリムレガレクスの全身を覆うほどに。
これがスパイディアスピアの持つ特殊能力。
投擲命中時の、対象拘束。
がっちりと蜘蛛の足で捕らえられたイプシリムレガレクスは、もがきながらも自由に動けることは出来ない。
私の仕事はここまでだ。
私は背中を支えてくれていたアヤナの背を押す。
「任せたよ」
「お任せあれ」
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拘束されたイプシリムレガレクスに、アヤナが一気に距離を詰める。
頭部への斬撃。左手に持つ嵐刃・胡蝶は水中でも抵抗を感じさせず鋭く切り裂く。
右手に持つフォーチュニードは水中にあってしても、アヤナであればクリティカルを叩き出す。
スパイディアスピアの拘束から逃れた頭の触手がアヤナへ迫るが、それをすれ違い様に切り払う。戦闘開始時より格段に泳ぐスピードが上がっているため断ち切れた。
アヤナはそのまま背中の方へまわる。背ヒレを切り裂く連撃。斬る度にアヤナはスピードを上げていく。連撃は背から腹へ、そして尾まで。
全身を切り裂かれる激痛に、イプシリムレガレクスが一層身体を悶えさせる。拘束しているスパイディアスピアからみしみしと、限界が近い音が聞こえる。
『アヤナ!そろそろヤバいよ!』
『えぇ、わかっています』
尾までまわったアヤナが、止めとばかりに最大速度で顔面に迫る。
しかしそこで、予期せぬことが起こった。
イプシリムレガレクスが、拘束されたその身体をその場で縦回転させる。長大なその身体が激しく動いたことで、大きな水流が周囲に発生する。
その水流に一瞬バランスを崩すアヤナ。そして同じ瞬間に、イプシリムレガレクスを拘束していたスパイディアスピアの拘束が弾け飛ぶ。
回転の勢いを、自由になった身体でさらに増し、尾でアヤナを打ち払う。まともにそれを食らったアヤナは彼方へと飛ばされる。そこに追い討ちとばかりに、ブレスが飛ぶ。
『アヤナっ!』
かろうじてそれは避けられたようだが、随分と距離を取らされてしまった。
くっ、もう少しなのに!
しかし、イプシリムレガレクスはアヤナへ追撃をしない。
その目は私へと向いていた。
まじ?




