2.ログインしようそうしよう
本日2話目の投稿です。
明日からはお昼の12時投稿になります。
よろしくお願いします。
良く晴れた秋晴れの週末、布団でも干そうかと思っているとぴんぽーんと玄関の呼び鈴がなった。出てみれば宅配屋さん。
「そういえば買ったなぁ」
思っていたより大きな宅配の箱を目の前に、お酒の勢いでAWOを買ったことを思いだす。
「買ってしまったものはしょうがない。せっかくだからやるかぁ」
私は梱包を開けると、本体を取り出し接続をしていく。
AWOは最新技術をふんだんにつかっているだけあって、専用ハードだ。
将来的には対応ソフトも増えるのかもしれないが、今はまだAWOしかできない。
専用ハードはヘッドマウント式でヘルメットに近い。
「職場だけでなく家でもメットを被るとは」
リケジョといっても私は機械屋だ。世間のリケジョのイメージはバケガク屋さんの白衣のイメージらしく、「白衣着るの?」と同窓会とか合コンで何度聞かれたことか。
機械屋は上下作業着にヘルメットが正装だ。いや流石に正装ではないが、工場に入るときはその恰好でないと入れない。
まったくもって女子力が低いが、仕事なので割り切っている。
ただ、作業着にメットのときに、事務の子とすれ違うのはちょっと恥ずかしい。
そんな事を考えながら、作業していたらセッティングは割と簡単に完了した。
とりあえず初期設定で名前や年齢を登録。
「…念のためにクレカの登録もしてっと」
AWOには課金ガチャはなく、経験値ブーストアイテムとか攻略を有利にする課金要素はないらしい。あるのはホームインテリアや衣装といった趣味品だけだという。私の目的としては重要だ。
「とりあえずやってみるかー」
フルダイブ系にログインする時は寝るか座るかしていないといけないらしいので、とりあえずベットに横になる。
「ログイーン!」
『ソフトウェアのアップデート中です』
「オフゥ」
初回起動時にはソフトウェアのアップデートとAWOのインストールが掛かるらしい。
ざっと一時間。
仕方ないのでその時間で私はネットでAWOの情報収集を行うことにした。
Wikiはそうそうにみるのを諦めた。
なんかもう量がとんでもない。
ページの読み込みが終わるのに10分以上は掛かりそうだし、まともに見ていたら1日あっても足らなそうだったからだ。
とりあえず初心者向けの攻略サイトをいくつか見て、インストールが終わるのを待った。
「今度こそ、ログイーン!」
『身体情報のスキャン中です。しばらくお待ちください』
アナウンスと共に目の前にメッセージが現れる。
初回起動時は脳波やらなんやらを基に、基礎キャラクターを作るらしい。キャラメイクはそれを編集して作っていく。
数分後、スキャン完了のメッセージが現れ、美麗なオープニングムービーが始まった。
『遥か昔、1つだった大陸は神の逆鱗に触れ』
「スキップで」
さっきサイトで読んだし。
一瞬の暗転、没入するような感覚の後、気付いたら教会のような場所に立っていた。
「おぉう」
思わず声が出た。
石張りの床には赤い絨毯がひかれている。壁も石造りで、天井を見上げると10mほどの高さがあり、ステンドグラスからは明るい光が差し込んでいた。
ほえーっと辺りを見渡していると、視界の端に人影を見つけた。
シスターさんじゃん。
「はじめまして、サポートAIのシスター1101です」
マジもんのシスターさんでした。
シスターさんはにこにこと笑みを浮かべている。
「あ、ども。ふひ」
私も笑い返そうとして失敗した。
そりゃそうだろう。ただでさえ人見知りなのに、かなりの美人さんなのだ。しかもシスター。
「そんなに緊張しないでください。私はサポートAIですので。これからゲームを始めるうえでのキャラクターメイキングを行います。よろしいでしょうか?」
うなずくことで返事とする。
「それではまずはキャラクター名をお決めください」
名前は決めていた。
「プラムでお願いします」
「プラム様ですね。かしこまりました。ここからはプラム様とお呼びいたします」
小梅だからプラムとか安直にもほどがあるが、私のセンスに期待しないでほしい。
「それでは種族からお決めください。ご説明は必要でしょうか?」
首を振る。
先ほどの攻略サイトで予習したからだ。
AWOには様々な種族がいる。
一般的ステータスの人間、精霊魔法が使えるエルフやドワーフなどの精霊種、身体能力に秀でた獣人、ピーキー性能の天魔種などなど。
レア種族なんかもあるらしく、全ては把握できていないのだとか。
私はもう目星をつけてある。
が、
「とりあえずランダム選択をお願いします」
種族選択の際、一度だけランダム選択が行える。
ランダム選択を行うと通常選べる種族以外にもレア種族や上級種族などが出ることがあるので場合によっては大きなアドバンテージになる。
現在のトップ層と呼ばれる人たちの中にもこのランダム選択からでたレア種族が何人かいるらしい。
しかも希望の種族が出なくとも、必ずその種族にしなければならないということはない。
つまりは初回だけ楽しめるガチャみたいなものだ。
「かしこまりました。それでは抽選をします」
シスターさんは振り返ると、胸の高さほどの四角い箱を取り出した。
どこに隠してたんだそれ。てゆーかガチャだよねそれ。
「それではどうぞ」
あ、私が回していいのね。
ガチャガチャガチャ。ガチャガチャ、コロン。
お、金色だ!レア!?レアなの!?
「おめでとうございます!プラム様のランダム種族はエンシェントオークです!」
「へ?」
シスターさんは満面の笑みで私に伝えてくる。
「プラム様、エンシェントオークは上級レア種族です!筋力と耐久に非常に秀でた種族ですよ。ちなみにプレイヤーでは初なので、現状ユニークとなります!」
どうやらかなりすごいらしい。AIのはずのシスターさんが相当テンション上がっている。
種族:エンシェントオーク
HP:500 MP:50 SP:150
STR(筋力):50
INT(知力):5
AGI(敏捷):5
VIT(耐久):50
TEC(器用):10
LUK(幸運):5
CRS(魅力):1
スキル
【重打撃術Lv.1】【バトルヒーリング(中)LV.1】
スキルポイント10
目の前に表示された画面を見るとエンシェントオークとやらのステータスが見えた。
確かにこれは強い。
ちなみに人間で開始するとステータスは全て10。他の種族でも30もあればすごいらしい。
しかも普通は持っていない固有スキルを2つも持っている。見るからに初期スキルじゃないし。
さすが上級レア種族。テンション上がるのも納得かも。
「ちなみに見た目はこうなります」
「オふぅ」
思わず目を覆う。
人間以外の種族になるとその種族の特徴がアバターに反映される。
エルフになると耳が尖がるし、フェアリーになれば羽が生える。
そしてエンシェントオークになると豚になる。
そう、豚だ。
おそらく2m近い身長に、がっしりとした体つき。
目は私の名残があるけど、耳は人と同じ位置にちょっと尖った豚耳。鼻はまんま豚鼻だ。
二足歩行の巨豚。
「ちなみにこれってどの程度編集できますか?」
「こちらのウィンドウをお使いください」
鼻。これがどうにかならない限りダメだ。
サイズの調整はできる。位置の調整もできる。普通の鼻には…どうやっても無理だ。
「すみません。なしで」
「えっ!よろしいのですか?上級レアですよ?」
すみません。これ以上女子力は下げられないのです。
シスターさんの見た目で判断しない人間性?AI性?は高潔だと思うけど、私にはちょっとあのお顔は頂けない。
出会いの場において最強の武器は顔なのだ。
「種族はエルフでお願いします」
「かしこまりました」
シスターさんは若干名残惜しそうにガチャガチャを片付け、私の前に新たに画面を表示させた。
そこにはエルフとなった私が表示されていた。
身長は10cmくらい伸びたようで170cmくらい。手足もスラッとしている。
元々ささやかめな胸も違和感がない。モデル体型だ。
そして顔。元々の私の印象を残しつつかなり美形に仕上がっている!
マッチングアプリのために撮った盛り盛りの自撮りよりもかわいい。
ふふふ、これこそがエルフ最大の長所、美形化だ!
一応他の種族でも編集すれば美形に出来るらしいけど、かなりセンスが必要らしい。
「編集は行いますか?」
下手にいじるとバランス崩れそうなんでなしで。
あ、髪の色だけは金髪にしよう。現実じゃできないしね。長さも伸ばそうかな?どうせめんどくさくなるのわかってるから今のままのセミロングでいっか。
「アバターはこちらで完了とさせていただきます。次はステータスの確認とスキルの取得をお願いします」
種族:エルフ
HP:60 MP:120 SP:90
STR(筋力):5
INT(知力):15
AGI(敏捷):12
VIT(耐久):5
TEC(器用):12
LUK(幸運):10
CRS(魅力):13
スキル
なし
スキルポイント10
「エルフは知性と魅力が高く、敏捷と器用に長けた種族です。代わりに筋力や耐久は低くなります」
シスターさんが丁寧に説明してくれる。
まぁ一般的なイメージ通りかな。
ちなみにHPはヒットポイントで、これがなくなると戦闘不能。
MPはマジックポイントで魔法を使うときに消費される。SPはスタミナポイントで、スキルを使ったり、走ったりするときも消費する。
エルフはMPが高めでHPとSPは低めだ。
「ステータスはレベルアップ毎に上昇しますが、項目はそれまでの行動から参照されます。魔法を多く使えば知力が上がりやすくなりますし、攻撃を耐えることが多ければ耐久があがるでしょう」
AWOではレベルアップ時のステータス配分は自動割振なのでそれまでの行動が重要になる。
だから人によってはガチガチにロールプレイしてるって書いてあったなぁ。
「スキルですが、スキルポイントを2消費することで、スキルリスト内のスキルを取得できます。さらにスキルを使用すればスキルレベルを上げたり、上級スキルにランクアップすることができます」
このあたりは最近のMMOでは割と普通なのかな。
ユニークスキルとかチートスキルとかちょっと憧れるよね。チートじゃBANか。
スキル
精霊魔法・風Lv.1、弓術Lv.1、木工Lv.1、探知Lv.1
スキルは攻略サイトのテンプレを参考に。
エルフは魔法と弓で戦うのが一般的。
なので精霊魔法の風、ちなみに精霊魔法は精霊種だけが使える魔法で、さらにエルフだと風属性にプラス補正あり。
弓術と木工は弓で戦うため。木工があると矢が尽きてもそこらへんの木を基に矢を作れるからあったほうがいいのだとか。
あとは万能スキルの探知。敏捷の高いエルフはパーティで斥候とかやらされることも多く、これがないと地雷扱いされるらしい。なかなか厳しいなMMO。
「あと1個なぁ」
最後の1個は人によるらしい。
魔法を伸ばしたいなら魔法をもう1種とるか、剣術などの近距離攻撃手段を取ってもいい。
この手のゲームでよくある鑑定を取ることもできるが、簡易鑑定ならスキルなしでも使えるので優先度は低めだ。
私はスキルリストを眺めながら、最後の1個に悩む。
「あ、これなんてどうだろ」
錬金術
魔道具の作成が出来るようになる。
魔道具!素敵な響き。
きっとこれで超強力なアイテムとか作れちゃうのだ。現実にはないSUGOI技術でチートアイテムをたくさん作っちゃうのだ!チートじゃBANか。
「じゃあ最後のスキルは錬金術で」
「かしこまりました。それではプラム様のキャラクターはこちらで完成となります。ご確認ください」
プラム
種族:エルフ
HP:60 MP:120 SP:90
STR(筋力):5
INT(知力):15
AGI(敏捷):12
VIT(耐久):5
TEC(器用):12
LUK(幸運):10
CRS(魅力):13
スキル
精霊魔法・風Lv.1、弓術Lv.1、木工Lv.1、探知Lv.1、錬金術Lv.1
スキルポイント0
「そのほか、何か質問はございますか」
「んー、特にはないか…あっ」
私はふと疑問に思ったことを口にする。
「そういえばここって教会なの?」
「左様でございます。皆様がこの世界に降り立つのも神のお導きです」
神様が私たちをこの世界に送り込んだってこと?そんな設定どっかに書いてあったっけなぁ。
「まぁいいか。それじゃ色々ありがとうございました。いってきます」
「存分にAlter Worldの世界をお楽しみください」
深々とお辞儀をするシスターさんを尻目に、教会の扉を開けて外へと出た。