1.ネットで出会いを求めます!
初投稿です。
今日は18時にも投稿します。
よろしくお願いします。
「どーしてこーなったー」
居酒屋のテーブルに突っ伏すと、お酒くさい息が鼻にかかり余計に気持ち悪くなった。
学生時代からよく来るこの居酒屋は半個室で人の目を気にしなくていい。
「小梅起きて。いい加減そろそろ吹っ切れなさいよ」
目線だけ上げてミカの方を見る。
お酒が入ってちょっと顔が赤いミカは女の私から見ても色っぽいと思う。
女子力高めの勝ち組専業主婦さまは余裕ですこと。
「もう、そんなやさぐれないの」
おっと心の声が漏れてしまったか。
「小梅だって、ちゃんと着飾ればそれなりなんだから、次の彼氏探せばいいじゃない」
「ちゃんと着飾ってもそれなり…」
ミカの言葉に余計に傷つく私。
確かにミカに比べれば女子力ミジンコな理系女子の私ですが。
「あんたもあたしも26歳。もうアラサーなの。元カレを引きずるのが悪いとは言わないけど、30なんてあっという間だよ?」
「うぐっ…」
それは遡ること1か月ほど前。
大学時代から4年半付き合った亮ちゃんから喫茶店に呼び出された。
電話の声はいつもよりずっと真剣で、私はちょっと、いやかなりそわそわしていた。
これってつまり期待していいんだよね?
そわそわのピークだった私は、遅れてやってきた亮ちゃんの顔が強張っていることに気付いていなかったし、ましてや一緒にやってきたキラキラ女子なんて目に入っていなかった。
そこからの話はどこか小説かネット掲示板のネタかと思う自分がいた。
謝り倒す亮ちゃんと、謝りつつも勝ち誇ったキラキラ女子。
ああそうとか、じゃあ仕方ないとかそんなことを言った気がする。
気が付いたら一人暮らしの自分の部屋で泣きながらミカに電話を掛けていた。
それから1か月、私は亮ちゃんを引きずりまくっている。
「亮ちゃんがあんな女狐に騙されるなんて思わなかったよ」
「女狐ってあんたねぇ…その女はともかく、まぁ亮太くんはいい人だったけどさ、次を探したっていいんじゃない?
最近はネットで出会うのも多いらしいよ。うちの妹も今の彼氏はネットで出会ったらしいし。
ほら、これなんかよく広告見るよ」
そういってスマホで見せてきたのはマッチングアプリ。
前の恋を忘れる一番の方法は、新しい恋を見つけることだ。
女子の恋愛は上書き保存。
恋愛の達人ミカ先生はそうおっしゃった。
「マッチングアプリねぇ…」
帰宅した私はベットに寝転がりながら、教えてもらったマッチングアプリをダウンロードした。
簡単に登録を済ませ、どんなもんかと覗いてみると。
「あーなんかもうダメだ」
瞬間的に察した。私にはダメだ。
そこはキラキラした女子やキラキラした男たちに溢れたキラキラ空間だった。
どうやったって私みたいな理系地味女がこの人たちと付き合っているところが想像できない。
リムジン借りて飲み会ってなんだ。居酒屋でいいじゃないか。
「どーしたもんかなー」
とりあえずマッチングアプリはそっ閉じ。
気分転換にとネットニュースを眺めているとそれが目に入った。
Alter World Online開始半年でプレイヤー10万人を突破!
Alter World Online、通称AWO、ちょっと前から流行っているいわゆるフルダイブ型VRMMOというやつだ。
このゲームがこれまでのゲームと違うのは、その圧倒的なリアリティ。
自身の五感は基より、NPCも高度なAIによって本物の人間と変わりないのだという。
そんな中で剣だ魔法だのファンタジーだから、非日常っぷりが半端ない。
日本の技術もここまで来たかという感じだ。
半年前に発売したときはそれはもう大騒ぎだった。
職場の男たちもみんなこの話題をしていたし、実は私もPVを見てちょっと興味がわいていた。
でもプレイするに至ってなかったのは、亮ちゃんがあまり興味を示さなかったからだ。
一緒にできないならいいかーとやらずじまいだった。
「ネトゲかぁ…」
意外と悪くないかもしれない。
これなら見た目はアバターでごまかせるし、キラキラ系の人よりは私寄りの人たちがいっぱいいそうだ。
最悪相手が見つからなくてもゲームを楽しめばいい。
「よし!決めた!」
お酒の勢いもあり、私は気合と共に本体とソフトをポチったのだった。
桜井小梅、26歳。
この秋、私はVRMMOで出会いを求めます!