神罰
金色の光が膨張し、ぶつかり合って爆発した。
「不老不死同士、どんな殺し合いになるか楽しみですねぇ」
神の生み出す無数の刃が私に吸い込まれる直前、私が起こした風がそれを巻き込んで神へと返す。
足を捉えようとする砂の腕たちを蹴り壊し、上空から質量の塊を神に投げつけ、更に大きな光にそれが飲み込まれて消える。
この間一瞬。
「今頃、魔王たちは、貴女のレプリカに殺されてるかもしれませんね。ふふっ、気合いを入れて創ったんですよ」
無邪気な調子で小首を傾げ、悪趣味な趣向を語る神。
私は自らの力で一振りの剣を創り出す。
「あぁ、いいですね。その力」
にやあ、と神の唇が裂けるように吊り上がり、その手にも輝く剣が創り出された。
互いに上空で構え、対峙する。
窺えない隙。
交差する殺意。
仕掛けたのは神。
耳障りな剣戟。
風圧に切り裂かれる肌。
純粋な腕力では男である神に敵わない。
無傷の神と血を流す私。
治癒の暇は与えず首を薙ぐ剣を躱し、私は神の懐に私の剣ごと入り込む。
その胸を貫く確かな手応えを感じた。
「捕まえましたよ、リュカ。もう、逃しません」
私の剣に胸を貫かれた神が、私を抱きしめ、私の背中から自分ごと私の心臓を貫く。
「貴女が息子だったら、ただの器として、愛することなど無かったんですけどね」
神が消えていく。
私の中に。
こうなることを、私は知っていたようだ。
「受け入れてください、リュカ。新しい創造神」
驚きも無く神が消え去るのを見届け、私は感慨も無く全ての傷を癒やした。
「やっぱり無茶振りしかしないな」
体内に、旧い神の遺した剣を感じる。
創造神の力を継がせるためのエネルギーの塊を剣の形にして、私の中に強引に譲り渡した。
「遣り方というものがあるだろうが」
砂の上に降りると、懐かしい腕と匂いに包まれる。
つい先刻別れたばかりなのに、久しぶりに帰った気がした。
「リュカ。遅れてごめん」
「平気。これは私にしか出来なかったから」
バードの腕の中で、私は力を抜く。
そして、追いついたハネオに問うた。
「ハネオ、私と結婚しようとした理由を教えて」
「このタイミングで訊くか」
「このタイミングだから訊く」
「だよな」
クスリと笑ったハネオは答える。
「アレが子供を産ませるって言った時、男だったら単なるアレの複製でしかないのを知っていた。
けど、もしも産まれて来るのが娘なら、ソレはヤツにとって唯一の創り出すことの叶わなかった存在。
ただの器として、ヤツが乗っ取ることができない存在になるだろうと俺は思った。
だが、アレの子として産まれて来たなら、もう限界だった旧い創造神の肉体から力を移せる唯一の器でもある。
娘なら、きっと新しい創造神になると俺は考えた。
だが、アレの元で育てられたらロクなコトにならねぇとも考えた。
アレは自分で創り出す生命には心も愛も与えるくせに、ヤツ自身に心も愛も無い。愛されずに育つ娘が新しい創造神になれば、また同じ繰り返しだ。痛みも苦しみも理解できない万能の神の支配と管理が永遠に続く。
だから、俺は神の娘を結婚という形で引き取って、ヤツが創造神の力を押し付けるまで、目一杯愛しながら育てようと思ったんだ。
だから、ロリコンじゃねーぞ」
最後は苦笑で締め括った。
ハネオが私に向ける視線が、最初からバードとは種類が違った意味が、今なら分かる。
ヤキモチ焼きのバードがハネオを受け入れている理由も。
あの神は、数え切れないほどに愛を持つ存在を創り出して来たのに、愛されたことは一度も無かった。
至高の存在として君臨して崇められながら、欲しかった唯一のモノは最期になっても得られなかった。
彼が欲しかったのは、唯一の娘からの愛。
それを与えなかったことが、誰からも罰を受けたことの無い彼へ下せた私の神罰。
「世界を覆う気配が変わった」
「この世界の創造神が変わったからね」
満ちる悪意が徐々に薄まり、解毒されるように無害な意識へ変遷して行く。
「一度、天界に行って来る」
「わかった。僕は地上でリュカの帰りを待ってるね」
地上の神のキスに送られて、私は天使長たちと天界ヘ向かった。