頼れる味方
「私はガンダルの王族で輪姦。皆は人柱として供物だって」
聖女の塔ヘ戻り、私はガンダルの聖女たちに会談内容を報告した。
「はあっ?! うちらに生贄として死ねくらいは言うだろうとは思ってたけど、リュカは他国の王太子の奥さんじゃない!」
「いくら美少女聖女とヤりたいからって頭湧き過ぎ!」
「ソレ、いつからヤられんの?」
「一晩猶予をやるとは言ってた」
三人とも、難しい顔で黙り込む。
「リュカだけなら逃げれると思う。騎士団に取り囲まれる前に、日が落ちたら闇に紛れて逃げな。あたしらが時間稼ぐから」
聖女の仲間意識は強い。特にまだ若い私のことを、力は皆よりも強いのに、皆で守ってくれようとする。
だから、私も、仲間を見捨てることなどしないのだ。
「逃げるなら皆でだ。他国の聖女たちの状況も似たり寄ったりだと思う。希望者は全員連れて行く」
「でも、どうやって?」
訊かれて私はニヤリと笑った。
塔の下が騒がしい。
「私の味方は、とっても頼りになるんだ」
騒ぎが収まり、塔の階段を駆け上がる足音が一人分だけ聞こえる。
息も乱さずコイヌが飛び込んで来た。
「リュカ様、ガンダルの騎士団がリュカ様と聖女たちを捕らえに来ました」
「で?」
「全員、多少痛い目を見て眠っています」
片膝を着いて報告するコイヌの丸い瞳が好戦的に細められている。
丸腰でも騎士団程度は叩きのめすらしい。見た目を裏切る腕っぷしの強さが頼もしい。
「さすがウチの子。コイヌ、よくやった」
「リュカ様のお役に立てて嬉しいです!」
可愛いコイヌを褒めてから、私はペンダントの石を握った。
「ハネオ」
『襲撃か?』
「うん。コイヌが打ちのめした。バードと一緒に今すぐ来て」
紫の光が集結する。大きな力を感じた時、バードの肩に手を乗せたハネオが現れた。
「バードも召喚出来ると思わなかった」
「僕の力を少しハネオに与えたんだよ。これで主はリュカなのに僕の眷属になっちゃったけどね」
なんだか聞き流してはならないことを聞いた気がするが、今は時間が無い。
「私は人間たちから聖女を返してもらおうと思う」
バードが優しく微笑み、ハネオとコイヌは興奮の色を瞳に乗せた。
「バード。世界中の聖女を迎えに行くために、ドラゴンを貸してくれる?」
「いいよ。アレなら一晩で世界を回れる」
「ハネオ。人間たちが到達できなくて聖女たちが安心して暮らせる場所に心当たりは?」
「最果てに、今は使ってない天界の保養所があるぜ。小さいけど綺麗な島で、気候も温暖だし食える植物も多い」
「コイヌ。聖女の人事権は神に在るんだよね?」
「はい。リュカ様が振るって何も問題ありません」
よし。行ける。
私はガンダルの聖女たちに向き直った。
「底なしの欲望に沈む人間たちに、これ以上神の慈悲である聖女を貸し与える必要は無い」
「リュカ? リュカだけじゃなくて、なんか、アンタたちって?」
誰も負の感情は持っていないが当然戸惑いはある。
「ごめん。騙す気は無かったけど、私に人間成分は入ってないんだ」
「もしかして、リュカって神様?」
「残念ながら。神託を寄越してたあの神の娘で、私も神。そして夫は人間を辞めた魔王。使役獣のハネオとコイヌは元は天使長だよ」
「何その無敵っぽいパーティ」
呆れた声で小突かれた。聖女は神経の図太さが売りだ。
「来たよ」
バードに呼ばれて窓に駆け寄ると、大きなドラゴンが背中を差し出している。
「皆! 行こう!」
私とバードと聖女たちはドラゴンの背に乗り、ハネオとコイヌは自らの翼で、夜空に向けて高く飛び立った。




