欲望の会談会場
次の日、私はコイヌをお供に連れて、豪華だが雰囲気の暗い会談会場に来た。
さすがにここでバードと引き離すのは不自然だと考えたのか、席はバードの隣だ。
会談の場に、私の他には女性は一人もいない。
ガンダル国王妃は健在だったはずだが、妃には聞かせられない話でもするのだろうか。
形式的な前口上の後、ガンダル国王がバードを昏い目で見据える。
「エイレイン王太子よ、世界の至宝は全人類のために有効に活用してこそ世の秩序は保たれるものだ。貴殿に世界を平和に導き遍く全ての人々を豊かにする栄誉ある役割を担ってもらいたい」
王妃が参加していないから、何を言うのか予想はついていたが、何とも言えない徒労感が込み上げた。
バードに視線で続きを促され、薄い唇を舐めながらガンダル国王は世迷言を続ける。
「当国に滞在中に、貴殿の妻であるエイレインの聖女を我が国の王族で共有する。聖女と交わり等しく神の力を分け与えられることで、ガンダル王家は未来永劫盤石の豊かさを得るのだ」
色々言葉を並べたが、要約すると「お前の嫁とヤらせろ」だ。
聖女と交わると神の力を分け与えられるとは、また斬新な迷信だな。
そしてガンダル王家が栄えたとしても世界は平和にならないし、全人類が豊かにもならない。
「我が妻の尊厳を踏みにじる真似をする気は無い」
多分腸は煮えくり返っているバードだが、一応この場はエイレインの代表として、平和的な言葉を選ぶ。
「妻に言うことを聞かせるのも男の務めだぞ」
駄々をこねる幼子にでも言い聞かせるようにガンダル国王は言った。
このままだとバードがブチ切れる。と言うか、後ろに控えているハネオとコイヌも表情は変わらないのに物理的に臨戦態勢だ。
私は聖女スマイル戸惑いバージョンを浮かべることにした。
「突然のお話に心の準備が出来ません。こちらには、まだ長く滞在する予定ですし、聖女の塔で禊ぎなどをして落ち着く時間をいただけませんか?」
見た目と相手の認識は、私は儚げな処女の美少女だ。事実はどうあれ。
いきなり男の人とアンナコトやソンナコトするのは怖いし恥ずかしいしイヤーンという嘘っぱちな空気を醸し出して両手を頬に当てたりしてみる。
エロ爺どもの鼻の下が伸びた。
「さすが聖女様は賢くていらっしゃる。一晩ゆっくり禊ぎをして心を落ち着けるがよかろう」
この場を取り繕っただけで了承などしていないんだがな。
そして一晩しか待つ気が無いのか。王族の質も落ちたものだ。
「陛下。これを機に、我が国の聖女どもも、手柄を立てた臣下に下賜しては如何でしょう」
「うむ。エイレインの聖女よりは劣るとは言え、あれ等も神の力を有していたな」
「今や神託を受けることさえ出来ぬ女どもになど、聖女としての特権を与え続けることはありません! 栄えあるガンダル王国の礎となることこそ神の思し召し!」
話がヤらせろ以上に不穏当な流れになって来る。
「神の声を聞けぬ聖女など、人柱として供物にしてしまえばいいのです!」
うん、かなりヤバい感じになって来た。
異様な熱気に包まれる会場で、我々一行だけが浮いている。
今夜中に答えを出した方がよさそうだ。
私はバードとソッと目配せをした。