テンシチョウノセイメイセキ
ハネオが天使仲間との交信で得た情報によれば、現在神様とやらは天界の神殿に引き篭もって姿を現さず、魔物の封印には天使長が向かったらしい。
ということは。
現在プキン山の頂きに居る私とバードの視線の先で、ドラゴンに衣の裾を咥えられながら逆さまにプランプランしているアレが、天使長なのだろう。
「リュカ。あれは助けた方がいいのかな」
「ハネオが可愛がってた後輩らしいからなぁ」
天使ということは性別は男なのだろうが、プランプラン振り回されながらキャーキャーと可愛らしい声で叫んでいる。
さて、どうしよう。
あ。
楽しく玩具で遊んでいたドラゴンが、魔王の登場に気付いて口を開くと地面に伏せた。
自由に落下する天使長。
私は、お利口に伏せのポーズを取るドラゴンヘ何か思念で命令をするバードを、少し離れた所で眺める。
「え?! リュカ様?! 何故このような場所に? あれ? どうしてリュカ様が天使長の生命石を持っているんですか?」
ベショリと地面に落ちていた天使長が、復活すると私に近づいて来た。
どうやら私を知っているようだ。そして敵意は感じられない。
「テンシチョウノセイメイセキ?」
何の呪文だろう。
サラサラの短い白金髪に丸い水色の瞳の童顔美青年が、私の前でアタフタとしている。
「リュカ。ハネオから貰ったペンダントのことだよ」
「あー、コレ、そんな大層な名前だったのか」
ドラゴンに思念を送り終えたバードに教えられ、私は服の中からペンダントを取り出した。
「やっぱり天使長の気配だ! あの方はお元気でしょうか。今はリュカ様があの方の主なのですね」
両手の指を組み合わせ、やたらキラキラした瞳で話しかけられる。
うん。よく分からない状況だ。当事者らしきハネオを呼ぼう。
私はペンダントの石を握った。
「ハネオ」
『どうした、って、ん? リュカ、近くに天使がいるのか?』
「目の前の仔犬系天使が、ハネオのペンダントのことをテンシチョウノセイメイセキと言っている」
『あー、うん。何か状況理解した。リュカ、俺の石を握ったまま、俺に来いと念じろ。石を辿ってそっちに行く』
ほう。これは使役獣と通信できるだけではなく、召喚まで可能な便利アイテムだったのか。
石を握ったまま、私はハネオに来いと念じる。
程なくして淡い紫の光が私の左側に集まり、その中からハネオが現れた。
「天使長!」
「いやソレお前だろーが」
ハネオに飛びつこうとした仔犬系天使が、片手でハネオに頭を鷲掴みにされジタバタしている。
よく懐いているようだ。
「魔王が生きてるのに、お前じゃ封印は無理だと言ったろ」
「来ないわけにはいかなかったんです。他に適任者もいませんし」
「まぁ、アレが出て来ねーなら、お前になるのか」
後輩が落ち着いたのを見て頭を掴んでいた手を戻し、ハネオはバードに尋ねた。
「魔王、起きた魔物ってどうなったんだ?」
「僕が命令しない限り大人しくしているよ」
「じゃ、問題ねーな」
そして次は私に提案する。
「じゃ、リュカ、こいつにも名前を付けてくれ」
「ハネオの使役獣後輩にするの?」
「そうそう! これでも天使を束ねるトップだからな。役に立つぞ。てことで、お前、リュカの使役獣になれ」
最後は後輩に命令。
「使役獣はいいとして、俺は真名も生命石も天界に握られていますよ?」
使役獣はいいのか。中々順応性が高そうだ。
「古い名は捨てろ。生命石は諦めろ。どうせ真名が移れば石で召喚も出来なくなる。欠片不足でお前が全力を出せねーくらいは俺が補う」
ハネオがなんだか格好いいことを言っている。
とにかく私が名前を付けてしまえばいいのか。身元保証はハネオがしているしバードも反対していない。問題は無いな。
「じゃあ、お前は今からウチの子で、私の使役獣コイヌ」
「コイヌ、ですか」
「リュカは可愛い名前を付ける天才だね」
「あんたは相変わらず性格わりーな」
コイヌをウチの子にすると、三者三様の反応があった。