長峰深夜
大抵二週目と4週目の火曜日に投稿させていただきます。
急な展開にはなってきましたがどうかよろしくお願いします。
保健室の扉が開いた時、そこには影のあるような長髪の男性が足を組みながら椅子に座っていた。
「やぁ。今はオリエンテーションの時間だけど、何しに来たのかな?」
長髪の男が僕と有川さんに声をかける。
「深兄!久しぶり!!」
「え?体調悪いんじゃなかったっけ!?」
少しムスッとしていた有川さんに笑顔が溢れる。
「ふーん。その口ぶりだと岩田くんが担任であるということが気に食わなくて、体調が悪いことを言い訳にここへ来たのかな?」
「はい。深兄が保険の先生って聞いてたんで来ちゃいました。」
何かおかしい。凛としていた彼女の言葉から優しさがにじみ出てる気がする。
「なんか、有川性格変わってないか?」
「なに?悪い?」
「ごめんなさい。なんでもないです。」
「ははっ。おもしろいね、君。ごめんね、まだ新入生の名前を覚えてなくて。」
「あ、えっと有川さんと同じクラスになりました、天沢日向です。」
「よろしくね。天沢くん。僕は長峰深夜。保健の先生だよ。」
「よろしくお願いします。」
僕は一礼して、未だに彼女がなぜここに来たのかもわからず、話を続ける。
「ねぇ、深兄、全校集会の時間までここにいていい?」
「いいよ。」
「あの、おこがましいようですけど、長峰先生と有川さんって?」
「あぁ、幼馴染だよ。」
長峰先生は笑いながら答えてくれる。
「僕と有川さん、凛々花が幼馴染というのは少し語弊があってね。有川奏。彼女が僕の幼馴染でその妹が凛々花なんだ。」
「そうなんですね!ということはその人が岩田先生の奥さんなんですか?」
「ちがうわ。」
答えたのは少し暗い表情をした有川さんだった。
「違うわ。奏お姉ちゃんはもういないわ。」
保健室にその言葉が響く。
ズシンと重く、ここがどこかさえ忘れさせるかのように重たい空気が流れる。
「病気だったの。突然のことよ。元気だったのに。」
苦しい。この話は聞いてはいけないそんな気がしてならなかった。
「お姉ちゃんに最後に会った人が空。お姉ちゃんが余命を言い渡された最後の日に会ったのが空。」
歯を噛み合わせる長峰先生を見ていたたまれなくなった。
「お姉ちゃん言ったの。空には何も言わないでって。もう死ぬってわかってるんだから、だから、最後くらい、最後の日にくらい大好きな人に会わせてって。体に無理をさせて。泣きながら言ったの。」
有川さんの瞳から雫が溢れる。声は震え、定まらず、今にも消えてしまいそうだ。
僕はきっと最低なんだろう。そんな彼女のことを美しいと見とれてしまっている自分がいた。
「そして、お姉ちゃんの心臓が止まる時、そこにいたのは空だった。私は、私は…。」
言葉が出てこない。
「私は空に問いただしたわ。あなたがお姉ちゃんを殺したの?って。」
胸が痛い。先生も暗そうな顔をして下を向いてる。
「そしたらあいつなんて言ったと思う?ねぇ?」
声を荒げて僕に聞いてくる。もちろんわかるはずない。わかるはずないのだ。でも、そんな有川さんを僕は直視することもできなかった。目をそらして顔を背け少し気まずいながらも言葉を紡いだ。
「ごめん。」
僕は彼女のことを知らない。
今日会って、綺麗だなって思って、たまたま一緒に保健室に来ただけの仲だ。
きっと、長峰先生がいて、感情的になっているのだろう。
そう、僕は彼女のことを何も知らない。
「そうよ。今のあなたと同じように顔を背けてごめんって言ったのよ。あいつ、言い訳も何もしなかったのよ?そんなあいつをこの12年間、私はあいつを恨み続けた。」
聞いてはいけない話を聞いているようだった。
僕は必死にかける言葉を探していた。そんな時だった。
校内に警報が鳴り響く。
「なに?」
有川さんが驚いたように聞いてくる。
「何かあったのか?」
長峰先生は顔色一つ変えないものの何があったのかひたすらに理解しようとしているようだ。
ー入学式に出席してくださった先生方へ連絡です。直ちに職員室へとお集まりください。ー
そんな放送が学内に響く。
「二人ともとりあず教室に戻りなさい。」
「わかりました。」
少し報われた気がした。
正直この空気に耐えきれないでいた僕はこの警報に助けられた。そんな気がしてならなかった。
だが、この時僕はまだ何も知らなかったのだ。
もっとちゃんとこの時に本当のことを聞いていれば、あんなことは起きなかったのかな?って。
けど、そんなことはこの時の僕には知る余地もあるはずがなかったのだ。
♦︎
「ハハッ。これで良かったのカ?」
「ちゃんと放送はオフにしたんだろうな?オセ。」
「あぁ、もちろんサ。」
「んっー。ーー。ん。」
放送室に声が響く。
「あら、お嬢さん。あんたの容姿と声は俺がいただいたからあんたにはここでおとなしくしてもらわないと困るんだよネ。」
「んっー。ん。んんー。」
オセと呼ばれた女が同じ容姿をした縛られている女性に声をかけるものの、女性は何も答えられない。
「小雪先生。って名前だったナ。ここに侵入して最初に出会えたのがあんたで良かったヨ。」
「オセ、この女で遊ぶのはもういいだろ?アンドロマリウス、状況を教えてくれ。」
アンドロマリウスと呼ばれた女性は眼鏡のレンズを拭き直してから答える。
「しかたないなぁ。一応、先生と呼ばれるある程度魔力数値の高い人間は職員室に固めて身動き取れなくする予定で、今放送を流したけど、まだ職員室に来てないのが二つ名付きの2名だね。」
「時間旅行者と厄災か?」
「うん。その2名だよ。」
「よし、では、彼らが職員室に来るまでの間に簡単に今回の作戦をまとめる。」
「堅苦しいな。標的ターゲットを撃って殺して終わりだろ?」
先ほどまで眠そうに何も話していなかった男が口を挟む。
「貴様っ。そんな単純ではない話だから我々が4名も出てきているのだろう?」
「いや、単純な話さ。10支柱の俺がわざわざ来てやってるんだぞ?それにお前は俺にそんな口きけるのか?」
「くっ…。まぁ、いい。好きにしろ。」
「言われなくても好きにさせてもらう。」
放送室に重苦しい空気が流れる。
「とりあえず、彼以外のものには必要であると思うので、作戦をまとめるぞ。」
眠そうな男以外がゴクリと唾を飲む。
「まずはオセ。お前はとりあえず生徒側の人間を1人捕まえ、成りすませ。そして輪の中を乱して、標的を1人にしろ。」
「了解だヨ。その1人はあの子じゃダメなのカ?」
「ダメだ。今あの子が疑われてはいけない。それは王の意思に反することだ。」
「了解だヨ。」
「次にアンドロマリウス。お前は索敵、伝達で俺とオセのフォローをしろ。」
「了解。」
「最後に俺が標的を抹殺する。いいな?無駄な殺生はやめるんだぞ?我々側になる人間がいればそれを育てたいのも王の意思だ。そして時間旅行者には気づかれるな?彼は唯一過去の真実を知ることができる人間であり、過去に干渉することのできる人間だ。彼も暗殺するが、それは今ではない。最後に我々の協力者を知られるわけにはいかない。いいな?」
その言葉を境に一瞬無言の間ができる。
「それでは作戦開始だ。」