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第4話 女騎士は船に乗せられて蛮族の地に到着した

 船の上は快適とは言い難かったが、昔乗った小舟などに比べればとても安定して乗り心地は悪くない。さらに私はどこででも眠れるという特技があるので、別に悪い待遇ではない。たとえ、船底に近い倉庫のような場所に転がされていても、だ。

 すでに一緒に運ばれている貴族の子弟たちの仲には、それに耐えかねて死にそうな顔をしている者たちも多い。むしろ死んだ方がましだとでも思っていそうな顔だ。

 命はあっての物種という言葉を、きっと彼らは知らないのだろうな。神の御言葉を信じ、この戦いに負けるわけがないと思い込み、そうして戦場に立っていたのだろうか。

 戦場とはそんなに甘い場所ではない。命のやり取りはいつでも行われていて、失敗すれば命を落とす。大抵の死体は野ざらしにされ、故郷へと帰ることも出来ない。

 それが戦場というものだ。ぺーぺーの小娘の頃から戦場にいる私が言うのだから、間違いはない。正解でもないだろうけどね。


《もうすぐ陸に着くぞ》


 最低限の面倒をみてくれていた船員のひとりが何事が言った。残念ながら蛮族の言葉は疎いのなんとなくだが、陸地に着くと言ったのだろうか?

 潮の匂いはまだしているのだと思うが、だいぶ鼻が慣れてきたのか一番最初ほどはひどく感じない。ただ、ずいぶん故郷から離れてしまったなと感じて、それだけが少しだけ、ほんの少しだけ寂しかった。




「男はこっちに来い。女はあっちだ」


 陸地に着くと足がふわふわとした。心もとないがこれは慣れるしかない。目を閉じてひとつ深く深呼吸をする。海が近いせいか、やはり潮の匂いが強い。ここは故郷からは遠く離れているのだと再度認識する。

 言われた方向へと歩き出そうとした時、足元をきちんと見ていなかったせいでよろめいた。と、同時にぐいっと上に腕が引き上げられる。驚いて振り返ると船内でもうすぐ陸地だと教えてくれた男だった。


《気を付けろ》


 声は低く殺意を感じる。目をぱちくりと瞬きをさせて、それから私は嬉しくなって笑った。嗤った。ああ、そうだ。ここはまだ、戦場だ。


「ありがとう」


 大柄な私の体に比べても、男はガタイが良くてやすやすと引き上げたのが分かる。

 戦ったら、きっと楽しい。

 ああ、いけない。いけない。つい不謹慎なことを考えた。


「おい、グウェン。俺のマリーに何してる」


 離れた手は、離れたことによって熱を帯びていたのだと分かる。視線を移せばミゲールがひどく不満そうな顔をして立っていた。


《転びそうになったから支えただけだ》


 私の分からない言葉でミゲールに何かを告げると、ぷい、と男は去っていった。グウェンと言ったな、今。


「何かされなかった? 大丈夫?」


 質問ばかり投げつけられるのは嫌いだ。面倒だから。


「お前は私がそんなにやわに見えるのか?」


 逆に問いで返す。私の問いが意表を突いたものだったのか、ミゲールは目をまんまるにして驚いた顔をした後、あはは、と笑った。


「ああ、そうだね。マリーがそんなにやわな訳がないか」


 いろいろと失礼だけれど、あの男のことからは少し逸らせただろうか。いつか手合わせをしてみたい。あれは、きっと強い。

 そういえば、さっきの割り振る男の声に気になるものがあったのを思い出した。


「私以外にも女がいるのか?」


「さあ? 俺はマリーしか拾ってこなかったから知らないけど、女を略奪することは滅多にないよ」


 それは珍しい、と少しだけ思った。王国の騎士崩れの傭兵達だったら、喜んで略奪するだろうに。


「もう少し先の集落にボーンディが来ているんだ」


「ボーンディ?」


「あー、えーと、マリー達の言葉でいうところの族長みたいなもんかな。俺の父で、戦士でもある」


 ふーん、と気のない返事をしながら、私は好奇心が刺激されているのを感じた。と同時に腹がものすごく減っているのを思い出した。意識したら思いきり腹が鳴った。


「腹が減ったな」


「マリーは素直だねー。そうだね。ごはん、たくさん用意しよう」


「食べねば戦えないからな」


 出来るだけ体力を温存するために、ここまでの道中は伏せってばかりいたが、敵方の大将格であろう人間と対面が叶うなら、より体力は付けておける時に付けておくことに越したことはない。

 私の考えが読めるのか、ミゲールがにこにこと嬉しそうにしているのには溜息が出たが、まぁ、多分こいつも私と同じ部類の人間なのだろうから仕方ないか。

 戦闘狂。

 戦いに身を置かねば生きられぬもの。

 最初は多分違ったはずなのに、何度も戦場に立つうちに私の中の何かは狂ってしまった。そんな人間を花嫁に迎えたいというのだから、ミゲールという男も相当にイカれている。

 とりあえずは何か食って腹を満たして、次の戦闘に備えたい。私の頭の中はそんな考えでいっぱいになっていったのだった。

 


 

マリーさんが寝てばかりいたのは省電力モードになっていたからでした。

考えないのも省エネのひとつ。正に戦闘狂。

次回かせめて次々回には戦闘シーン入れたいです。

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