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第3話 女騎士はどうやら本当に本格的に攫われる 

 それから、賠償金が支払われて去っていく者たちや支払いを拒否されて地獄の底に突き落とされた者たちを見ながら、少し離れた場所に拘留されている私はこれからの身の振り方について考えていた。

 剣闘奴隷とかどうだろうか。それだったら出来る。女らしいことは何ひとつ出来なさそうな見た目をしてはいるが、一応一通りの家事は叩き込まれているが男を接待するのなんて考えられない。操を立てている相手がいるわけではないが、嫁に行くのも考えられない。……というか、嫁か。ただ私を揶揄(からか)っているだけだろうな、あれは。

 目を閉じて眉間に皺を寄せて考え事をしていると、ちょんちょんと眉間の皺を(つつ)かれた。目を開けるとミゲールが居た。


「あんまり皺寄せてると、消えなくなっちゃうよ?」


「うるさい」


 そういえば、ようやく猿轡を外してもらえた。噛みつかないと分かったのか、自殺しないと思ったのか理由は分からない。

 まぁ歯は丈夫な方だし、目の前の男の首に噛みつけばやって出来ないことはない、のか?


「そんなに情熱的に見つめられると困るなぁ」


「……お前はすぐ自分に都合の良いように解釈するな」


「やっぱり会話が出来るのはいいね。会話が出来るって重要だ」


「本当に話を聞かないな」


「ああ、マリーは声も綺麗だね」


 この低い声はずっとコンプレックスだった。流感を患って喉を痛めた時など男が喋ってるのかと思ったと言われたこともある。それを綺麗だと? 馬鹿にするにもほどがある。


「揶揄うのもいい加減にしろ」


「本気で言ってるのに」


 ちぇ、と唇を尖らせているのを見ると、本当に拗ねているようだ。というか、私はこれに負けたのか。まだ子どもみたいな見た目をしているくせに。


「ねぇ、マリー。そろそろ俺たちは本拠地へ戻る」


「そうか」


「君を連れていくよ。長に認めてもらわなくちゃ」


「何を」


「マリーを俺の花嫁にするのを」


 にこっと笑って悪びれる様子のないミゲールに、思わず渾身の頭突きをお見舞いしたくなったのは私は何も悪くないと思う。本当に話を聞かない。いや、まてよ?


「私の話をお前が聞かないのではなくて、私の言葉が分からないのか?」


「ちゃんと分かってるよ。俺のおばあさまも王国に居た人だからね」


「なっ?!」


「あっちに着いたらちゃんと紹介するから楽しみにしててね。女衆に頼んで着るものとかいろいろ用意してもらわないと」


 書き出しておこーなんて気の抜けたことを言いながら、ミゲールは去っていった。周りの他の騎士たちの視線が痛い。傍から見たらただの腑抜けだ。仇敵の男と親し気に話している女にしか見えないだろう。

 いや、まてよ。女に見えてるのか? ゴリラだ化け物だと貶めてくれていた奴らなのだから、せいぜい懐柔されているように見えたぐらいだろうか。

 というか、祖母がこちら側の人間だったと言っていたが、その祖母も攫ってこられた人なのだろうか?

 いろいろ考えていると頭の中身がぐるぐると煮詰まってくる感触がして、なんとなく熱が上がってきた気がする。考え事は本当に苦手だし、面倒くさいから大嫌いだ。

 他の騎士たちとはほとんど接触がないし、身分が上の方々に身分が下の自分から声をかけるのは憚られるので情報が少なすぎる。こういう時、本当に情報を精査してくれる友人が身近に居たのは本当の本当に幸せだったのだな、と感じるのだ。今更何を言っても後の祭りだが、もし国に帰れることがあって双方生きていたら酒をいくらでも奢ってやることにしようと思う。

 いろいろ面倒くさくなったので、そのままごろんと床の上に転がった。目を閉じて人の声から意識を遠ざけて深く深呼吸をすると眠たくなってくる。とりあえず、寝ておこう。





 それから三日と経たぬうちに、馬車に詰められて蛮族たちの本拠地へと移送された。

 国に帰ることはほぼ絶望的になったな、と思ったのは嘘ではない。どういう仕打ちを受けても生きて帰ると言えれば格好は良いが、生きて命をつなぐだけでも精いっぱいになるだろうことは分かっている。

 助けは期待できない。

 ミゲールの言うことを聞いて、大人しくして寝首を掻くという方法もあるだろうけれど、敵の本拠地でそれをやるのは無謀が過ぎる。

 生きて。

 生きて生きて生き続ければ、またいつか希望を持つこともあるのだろうか。

 難しいことを考えていると、すぐ眠くなるのは悪い癖だとは思うがやめられない。私はまた目を閉じた。風の匂いが生まれ故郷とは違ってきているのが分かる。

 潮の匂いがする。海が近いのだな、と思うのとともに、後戻りできない道を来てしまったことへの後悔が胸に(くすぶ)った。


 

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