歪んだ正義
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身体強化してるってのに、 それより早く動けるのかよ……
一度体勢を立て直すべく、 琥太郎は急いで後ろへ下がった。
そして、 俺の腕が地面に落ちてから数秒後、 街を歩いていた1人の女性がその光景に気づき絶叫した。
「あんたたち何してんよ! 警察にすぐ連絡を……」
「ただのじゃれあいですよ〜 おばさん」
ポールに座っていた男がヒョイっと立ち上がって女性に近づく。
「何ふざけたこと言ってるの!? すごいケガじゃない!」
コンクリートの地面に大量の血が飛び散っている。
「誰か手伝ってください!」
自分がパニックになってもおかしくなのに、 女性は必死に救護にかかろうとした。
「心配かけてすみません、 自分は大丈夫なんで……」
治った右腕でトントンっと女性の肩を叩く。
「あなた…… 腕は大丈夫なの…… !?」
「それより、 ここは危険なんでどこかへ」
「危険って! やっぱり、じゃれあいなんかじゃないのね、 急いで警察に」
「この人、 すごい良い人だよね」
「同感だ」
3年の2人は何もしてこない。
2人で話しているだけだ。
「けどさ…… コイツらは悪いよ」
「同感だ」
刀を覆っていた白い布がほどけた。
『 ────────────!!! 』
次の瞬間、 多くの人の悲鳴が街に響く。
血の匂いが充満する。
俺の目の前に広がる地獄のような光景。
「お前ら、 この人たちは一般人だぞ、 分かっているのか!」
「うん、 一般人だね、 けど、 悪い一般人だ」
「盗撮されたら、腕を切り落としても良いと思ってるのかしら?」
月影が幻滅した目つきで問いかける。
「これなら、 スマホも持てないだろ?」
「対処は早い方がいい」
全く悪びれた様子はない。
自分たちの行為は正しいと思っているんだ……
この2人からは悪意を感じない、 むしろ正義感を感じた……
歪んだ正義感だ。
数十人の両腕が切られた。
見てわかる、 かなり重傷だ。
地面に落ちたスマホが血溜まりに沈んでいく。
「コイツらはコソコソと俺たちを盗撮していた、 だから腕を落とした。 理解できたか?」
「テメェ! 俺の女にぃぃ…… ぶッ殺す!! 」
怒号と共に1人の男性が2人を睨みつける。
彼の腕は無事なようだ。
だが、 男の手や服は血だらけだ。
横に女性が倒れている、 腕を切られている。
彼はその女性の彼氏だろう。
体格も良く、 強そうな見た目だ。
だが、 ダメだ。 異能の力を使えない人があの2人を殺せる訳がない。
殺される。
「堪えてください! 2人は危険です!」
俺の言葉は全く届いていない。
血走った瞳をした男は2人に向かって走って行く。
「愛人が傷つけられれば怒る、 この行動は悪じゃないだろ?」
「そうだな」
今度は長髪の男に変わって、 横にいた男が手を前にかざす。
「『体感操作』」
──────!!!
向かってくる男のペースが落ちた。
だが、 当の本人はその様子に気づいていない。
「これなら、 交わせるよ」
そう言い放つと、 軽い足取りで男に近づいて行く。
「安心してよ、 良い人は君は殺さない。 だから君は少し寝ててくれよ」
そう告げた瞬間、 男の腹部を殴った。
みぞおちした男は地面に倒れ、 気絶した。
「それにしても、 傑作だよねコイツら」
「そうだな」
気絶させた男には見向きも触れず、 ポケットからスマホを取り出すと、 腕を切られた人たちを写真で撮り始めた。
「調子に乗ってんじゃねーよ!! 」
「 ───────んっ!」
琥太郎は男の腕めがけて蹴り込んだが、 ギリギリで避けられた。
男の手元からスマホが地面に落下した。
「クズ野郎が……」
そう言い放ち、 琥太郎は地面に落ちたスマホを踏み潰した。
「クズじゃね〜し、 にしても危ね〜、 れっちゃんさっきよくアイツの腕切れたね」
「当然だよ」
「ひぃぃ…… 速度落としてこの速さって君は化け物かい?」
「速度だと……?」
「そう、 自己紹介がまだだったね、 僕は佐々木、 こっちが宮本、 宮本烈」
「こいつは、 佐々木優雅」
「今、僕が説明したろ!」
「俺だけ本名だったからな」
「良いだろ別に…… めんどくさいな」
「重要だよ」
なんだコイツら……
(何、 普通に聞いてんのよ! 早く殺しなさい!)
意思疎通により、 月影が脳に直接話しかけてきた。
(分かってますよ、 けどコイツら…… 普通に喋っているのに全く隙がないんですよ)
(うるわいね、 なんとかしなさい!)
(むちゃくちゃな……)
「僕の能力は、 『体感操作、 体感速度を操れる。 で、 れっちゃんの異能力は……」
「言わなくていい」
「え〜 いいじゃん別に」
「断る」
「よそ見してんじゃねーよッ!」
容赦なく琥太郎は二発目を繰り出す。
「うるさいな、 てか、 僕のスマホ壊しやがって」
佐々木はフッと琥太郎の拳を軽々とかわした。
なんなんだコイツ…… べちゃくちゃ喋りながら避けやがって。
こっちは身体能力を上げてる状態なのに……
元の能力が低すぎるって訳でもないだろう。
人並みの運動神経だし。
(のろのろ動いてんじゃないわよ、 変態)
(いや、 全力で動いてますよ!)
(は? 歩きながら戦うバカがどこにいるのよ?)
(歩きながら……?)
──────!
(変態くん、 状況確認だよ、 君は自覚してなかったのかい?)
宮森先輩が状況を確認する。
(は、 はい……)
(なるほど、 体感操作……やっかいね、 よく聞いてくれ変態くん)
(なんでしょう?)
(君は今、 走っていると思っているが、 実際は歩いている)
(何言ってるんですか?)
(つまり、 脳が走っていると思わせているだけで、 実際は走っていない。 思い込み状態なんだよ)
(まさか……)
「そんなへなちょこパンチ、 当たらないよ」
反撃と言わんばかりに琥太郎の顔面を殴りつける。
クソが……
アイツらが早いんじゃなくて、 俺が遅くなってるって事かよ。
ずっと殴りやがって、 なんとか……
──────!!
琥太郎は足元に落ちている、壊れたスマホに気づいた。
さっき踏み潰したスマホだ。
感覚のない無機物なら……
全力で地面に落ちているスマホを蹴り上げた。
実際はあまり力が入っていない状態であったが、 その自覚は琥太郎にはない。
だが、 その威力は申し分なかった。
壊れたスマホが弾丸のような速度で飛んでいく。
「 ぐっ……… !!」
佐々木の攻撃が止まった。
ポタポタと血が垂れている、 見事に佐々木の左手に直撃したのだ。
「お返しです」
「そりゃ、ありがとう…… 君は絶対に殺す」




