【私】
こんなことになるとは露ほども思わなかった。
【私】は一般家庭より少し裕福な家庭に生まれた【私】は何不自由なく育ち、コミュ力がないしがないオタクで、晴れて、いやこの場合晴れては不適切だ。要するにコミュ障を患っているオタクであり、喪女となっていたのでした。
特に何かあったわけじゃない。誰かにいじめられたとか、誰かをどうしたとか、誰かにどうしたとか、何も、いや、していた。みていた。生きていた。助けなかった。周りではいつも何か起きていたし、それに対して何かしていくような人間じゃなかった。
人は【私】のことをネガティブだと言っていたけれど、それは多分違う。ただただ最低な人間なだけだったんだと思う。何かをするのが怖い。何か変化が訪れるのが怖い。何もしたくない。でも死にたくない。痛いのは嫌だ。とても怠惰で怠慢的な面倒な人間だったと思う。実際口が回る上に家族よりも少し喧嘩が強かったから下手に手が出せず、腫れ物扱いに近い状態だった。そんな【私】は毎日何かをするわけでもなく、創作活動に打ち込んだ。
小説が好きだった。絵が好きだった。漫画が好きだった。アニメが好きだった。そして、嫌いでもあった。主人公はいつも輝いている。困難に立ち向かえて、仲間がいて、心が動かされる。みたことのない世界。疑似体験ができる。一緒に旅をしたら、ここにこんなキャラがいたら、想像すること。そんなことが大好きで、それができない自分が嫌になるのだ。とどのつまり無い物ねだりで自己中心的な僻みである。それに見合った努力をしているし、私が妬むのはお門違い。わかってはいる。頭ではわかってはいるのだ。哀しきかな、わかっていてもそれができずにいる。それが【私】だった。
そんな【私】が創り出す創作物はひどいものだった。火を見るよりも明らかだった。目も当てられないくらい、でも、嫌いにはなれなかった。拙い、荒い、何処が面白いのかわからない、でも一生懸命自分なりに必死に創っていたんだと思うと愛おしさが増した。自分だけの、自分のための物語。でも好きであることとそれが現実であることはイコールには繋がらないのだ。
買い物を頼まれて、コンビニまで数十分、歩き慣れた道を歩く。帰宅ラッシュの満員電車に揺られて帰ってきた人たちの波に逆らって、速足で目的地へと急ぐ。誰かに見られてる訳でもないのに、そういう風に感じてしまう。縮こまって歩くには少し体格が良すぎた。逆に目立ってしまう。猫背でなるべく下を向きながら、見慣れたコンクリートを踏み締めてビジネスホテルを通り越した先にあるコンビニに辿り着く。カゴの中に頼まれたものを入れながら、田舎に住むのは絶対に無理だなあと、都会の利便性に慣れてしまった現代のもやしっ子はふと思ってしまう。車で一時間て、コスパが悪すぎるでしょうに。頼まれたものは買い終えたから、軽く店内を見回すと母が好きそうな新商品のアイスを見つける。即断でカゴの中に入れ、レジ待ちの列に並ぶ。パッケージをじっと見つめてから、ゴミ問題、食糧品問題、たくさんの問題を抱えてる世界に果たして未来はあるのだろうか、そんなことを少しだけ考えて、放棄。私の頭で解決できるようだったらもうとっくに解決しているはずだから。
「1,428円になります。」
「1,500円でお願いします。」
「はい、72円のお釣りになります。ありがとうございました!」
「ありがとうございました。」
この人はとても偉いと思う。働いて自分でお金を稼いで、少なくとも私よりは自分の力で生きている。何をしているんだろうとただ自己嫌悪しているだけの、私よりずっと。そう、行動さえ起こせばいいのに何一つしようとしない。それは何故か。私が怖がりでダメ人間だからだ。その上好き嫌いが多過ぎてこれってただのダメ人間を通り越してクズ…生きる価値なしでは?もっと他に生きるべき人はたくさんいるし、でも臓器提供は嫌だなあと思ってしまう。誰かを助けて死ぬのも嫌だし、うえ吐きそう。
「うん?」
目の前が真っ暗、いやそうじゃない。ある意味そうだけれども。目下一面に広がるのは荒野。ネットで荒野と検索したらでてくるような、紛うことなき荒野である。うそん、とか軽くジョークでも飛ばさなきゃやってられねえ。いやマジでどうしてこうなった。私は確かに帰路についていた。あと家までもう少しとまではいかないけれど、コンビニから出て家まであと半分くらいの距離だった。なのに何故、Why?ダメだわからない。辺り一面荒野だからか、いやそんなことは関係ない、あり得ないことが起こっている。そのせいで全く考えがまとまらない。とりあえず荒野を見渡してみる。こんな痩せこけた土地でも雑草は生えるらしい。逞しく育っている草をとりあえず腹いせに引っこ抜いて、ポイと捨てる。本物の草だった。草を握ったときの青臭さと引き抜かれてたまるかという力強い抵抗。間違いない、正真正銘ただの雑草である。え、これは一体、何?そうだスマホ!とありとあらゆるポケットに手を突っ込んでから生地を引っ張り上げるがどこにもない。わかってはいつつもジャンプしてみるが小銭の音はしなかった。そうだ、コンビニで買ったはずのものもないじゃあないか!
「いや……いやいやいやいや?!?」
さっきからどうも違和感を感じてた。私の声、のはず。認めない、とかそう言う問題じゃない。低くはないが高くもない。でも頑張ればロリ声はお手の物な私の、あの、声!声が!出ないのである。正確には高い女性らしい声がでない、だが。もっと正確に言うならば男性らしい声が出る、だが。う、嘘やろ…。
恐る恐る胸部を触って絶句した。推測するに、これは、これは……。とりあえず無かったことにできるならして、いやできないんだけど、とりあえずどうしよう。
「よし、歩こう。」
周りを散策しよう。そうしよう。荒野だけどもしかしたら人がいるかもしれないし、日本でこんなところ見たことないけどもしかしたら私が知らないだけかもしれないし。いや多分きっとそうだ。狭いと言われてるけど案外日本だって広い。私なんか行ってない場所はたくさんある。そうと決まればこのあたり一面、は無理だろうからとりあえず歩けるところまで歩いてみよう、ホトトギス。
誤字脱字ありましたら教えてくださると助かります。