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中編

 一年生にもかなり余裕が出てきたらしい頃のこと。


 いつも通り図書館に入ると、何やら女子生徒の人だかりが出来ている。

 その中には、久しく見ていなかった先輩が柔らかい笑顔で座っていた。


 私はさっさと本の返却を済ませて退散する事にした。居心地の悪い図書館に用はない。せっかくのんびりしていくつもりだったのに、予定が狂ってしまった。

 図書館を出て空いた時間に悩んでいると、背後から名前を呼ばれて反射的に振り返る。

 そこには、先程見かけたばかりの先輩が息を切らして立っていた。


 少し時間をくれ。とお願いされ、特に用もない私は先輩に連れられて、学園から近い裏路地の小さな喫茶店に入った。


 先輩はいつものと言った風にメニューも見ずに注文し、私も同じものを頼んだ。


 元気だったかとか、先輩に私の近況を聞かれている内に、飲み物が届く。

 先輩は一口飲んで、長くなるかも知れないが。と前置きした。

 以前に私が一人で喋りすぎた事もあるし、何より、また話しかけてくれた事が嬉しかったので、問題ないことを伝えれば、先輩はホッとした表情になった。


 先輩の話によれば。

 まず、先輩が学園に入ったきっかけは、先輩のお母様によるものだったそうだ。

 先輩のお母様は女優をしていて、昔、学園で撮影した際にとても気に入って、先輩である息子を少々無理をしてでも入れたそうだ。


 無理矢理入れられた先輩は、私と同じで周りになかなか馴染めなかった。

 人目を避けるために向かったのは、奇しくも切っ掛けとなった図書館。そこはお母様から聞いていたよりも先輩をあっという間に虜にしたという。


 元々教育に対して厳しいお母様は、漫画やゲームの類いはよく思っていない方で、先輩にとっての小説はそれに代わるものだった。

 数えきれぬほど読んでいく内に、いつしか先輩は自分も書きたいと思うようになる。


 けれど、こっそりと書いてもそれを誰かに見せる勇気は無く、見付からないように隠した。

 過ぎる時間をなんとなく過ごしていた時に、私が登場する。


 初めは勘違いから、そして私の貸し付けた漫画が変化のきっかけとなった。

 大袈裟なようだけど、先輩にとってソレを手に取ることは、余程の事だったらしい。


 私の事も、何度か話してみれば、噂されているような人間じゃないと分かってくれたようで。何故そんな噂があるのか手っ取り早く本人に聞くことにしたのがあの日だった。


 不本意な進学だった点で同じ境遇の私の話に触発された先輩は、自分の書いた小説を大きな賞に応募してみようと、本格的に執筆を開始した。

 その時にこの喫茶店に通いつめていたそうだ。


 先日、見事に大賞を受賞し、著者が有名女優の息子だとスクープされたりと、話題性もあったことから、なんと、先輩が主演で映画化の話も進んでいるらしい。


 先輩が演者になることを、意外にもお母様は反対したそうだ。

 挑戦する楽しみに目覚めた先輩は初めてお母様と対立した。

 何度もやらせて欲しいと頭を下げる先輩に、とうとうお母様も折れてくれたらしい。


 今は役作りをしていて、図書館で見た柔らかい笑顔もその一環だったと教えてくれた。

 確かにあの時は、随分雰囲気が変わったなぁと思ったけど、あれが演技だったなんて。

 私はこの時先輩が俳優でも成功するのを確信した。


 その後公開された映画で案の定高評価を得ると、先輩の元には大量の依頼が来ることになるのは今だから言えることだ。


 先輩が話終わると外はもう暗くなっていて、先輩が駅まで送ってくれた。

 別れ際先輩に、君には感謝していると言われたせいか、私はふわふわした足取りで帰路についた。

 私自身はまだなにも出来ていないけど、私の行動が誰かの為になったと思うと、私のやっていることは間違って無いんだと思えて嬉しかった。


 改めてやる気が出たおかげで、長期の休みに入ってもだらけずにいることができた。

 先輩に負けまいと、やっと切り出せた卒業後の引っ越しの案に母さんも賛成してくれて、具体的な話を始めた夜。

 休みに入ってから初めてあの子からの呼び出しがくる。


 あの子に指定された待ち合わせ場所は花火大会の会場。

 人混みを縫ってたどり着けば、浴衣を着たあの子と、同じく浴衣姿の男性達が見えた。


 声をかけると、あの子以外が驚いて目を丸くした。

 そこにいたのは、海外旅行に行っている筈の先生に王子、撮影中だと言っていた先輩と、友達と旅してくると語っていた長身君。それから満足げなあの子。


 状況が今一理解できない内にあの子に腕を取られ、屋台の並ぶ明るい方へと連れていかれる。

 なにやら不機嫌な男性陣に、私は思った。これはあの子を取り合う、いわゆる泥沼的な展開ではないか?

 それにしても、灯りがあると美男美女の彼等は目立つ。特に若い女の子達は男性陣を見てきゃあきゃあ言っていた。


 何かの撮影かと思うほど絵になる彼等の中に、私服の平凡な私が一人。どう考えても苦痛でしかない。

 買い物が終わる頃にはお腹が痛くなっていた。食後に走ってきたせいか、人混みに酔ったか、精神がすり減りすぎたか分からないが、それを口実に先に帰らせて貰った。


 彼等がいつの間にあんな仲になっていたのかという疑問は、すぐに解消される。

 次々に彼等から連絡が来て、私を心配してくれた後、個々にあの日の詳細を聞かされた。


 あの学園に関わる者は少なからずおじいさんと接点があるらしく、その孫だと言うあの子の我が儘は断るなんて出来ず、それぞれ急遽呼び出されていたようだ。


 みんな、話の最後にはあの子とは何でもないんだと揃いも揃って言うから、泥沼の関係かも、なんてこっそり思っていたのが見抜かれてる気がして、あの時は別の意味でドキドキした。


 休みの間はあの子からの呼び出しはあの一回だけで済んだけど、他からのお誘いは意外とあった。

 先生には、留学を提案されて、試しにと先生が昔住んでいたという国への旅行に誘われ。

 王子には、動物園に行かない?お弁当作るから、と甘い誘惑をされ。

 先輩には、演技が高く評価されて忙しくなるのはいいが、会えなくなるのが辛いと嘆かれ。

 長身君には、一緒にドックランヘ行かないかと相談された。


 しかし、私は引越の物件探しなんかで忙しいし、その辺りの事で頭がいっぱいだったせいで、結局、補習にバイトに図書館に犬の散歩と、いつも通り時折会うだけの代わり映えのない日々を送って終わった。


 新学期が始まると、ちまちま嫌がらせを受け始めた。


 最初は私を見てあからさまにくすくす嗤ったり、二三回声をかけるまで反応しないという地味に腹の立つ無視をされた、次第に物にも被害が出始めたが、私の私物が男子の机に入っていたりと、微妙なものばかりだったけど。


 先生とクラスメイトの王子が、それとなく心配してくれたけれど、下手に動けば更に悪化する可能性があるので、大丈夫だと感謝だけしておいた。


 とはいえ解決策も浮かばずにいて、憂鬱な日が続いていたある日。


 母さんが休みの日の朝に事態は動いた。


 まず、いつもあの子を迎えに来ていた運転手さんが我が家の扉を叩いたのだ。

 そんなうっかりさんでは無いと分かっていながら、間違ってますよと言わずにはいられなかった。

 朗らかに笑った後、何事かと出てきた母さんに、私の知らない男の人の名前を告げた。その人が私達を待っているらしい。


 母さんは怒った様な決意した顔でそれを受けた。


 私達が出かけるのと入れ違いに、眼鏡を光らせるスーツの男性があの子の家を訪ねるのが見えたっけ。


 車は、私には一生縁の無いと思われた高級住宅街に入って、一際大きい和風の門をくぐる。

 中は周りに住宅があるのを忘れるくらい庭が広がり、見えてくるのはこれまた立派な日本家屋。


 通された部屋で、私の知らない男の人と対峙すると、母さんから地を這う様な声が発せられた。

 これはどういうことかと問う母さんに青い顔で平謝りする男の人。

 私は訳もわからずその光景を眺めた。


 ここまで案内してくれた運転手さんが間に入ってくれて、少し冷静になった母さんと男の人、先ずは二人で話し合う事になり、私は母さんに追い出されてしまった。


 お庭でも散歩しましょうかと、運転手さんの誘いに後をついていくしかなかった。


 本当は社長秘書をしているという運転手さん改め、秘書さんに最近の学園の事などを聞かれながら歩いて行く。

 鯉の泳ぐ池に架かる橋に着くと、秘書さんによって衝撃の事実が明かされた。


 さっきの男の人があのおじいさんの息子、つまり社長で、秘書さんの上司、そして私の父親であること。

 おじいさんは知った上であの子と私、使える方を孫とし、秘書さんと結婚させようと考えていたこと。


 何で今父と名乗り出てきたのか、ならばなぜあの子の母親は嘘をついたのか、使える方とは何か、何故秘書さんと結婚なのか。

 疑問が浮かんでくるも驚きに上手く言葉に出来なかった。


 私の思考が読めたのか、秘書さんが説明してくれる。

 実は秘書さん、おじいさんの手駒と見せかけて社長の密偵だったらしい。

 社長、つまり私の父は、母さんはどこかで幸せになっているだろうと諦めていたが、おじいさんが探しだした母さんと、心当たりのある私の存在に酷く驚いて後悔した。

 すぐにでも会いに行きたかったが、母さんが関係を否定したので様子を見ることにしたそうだ。


 私が学園に入ることは、これまで何もしてやれなかった負い目があって止めなかったらしいが、これは私からすれば、ありがた迷惑というやつである。


 あの子の母親が嘘をついた事で、おじいさんは自分に都合よく使えそうな方を選ぼうと考えた、あの人にとっては真実なんてどうにでもできる範囲の問題らしい。

 私とあの子どちらでもいい、おじいさんの手駒の秘書さんと孫となった女を結婚させて、秘書さんの立場を確立させる為の道具でしかなかった。


 おじいさんは、華があって立ち回りの上手いあの子が使えるかと思ったが、次第に飽きっぽく媚びるだけのあの子に興味は失われていき、そして花火大会の一件が引き金となる。

 あの子が勝手におじいさんの名前を使って男達を呼び寄せたのだ。


 おじいさんに孫がいることが明るみになって、それまで静観していた社長も動き出す。

 秘書さんを手元に戻して社長側の人間であることを示し、あの子の勝手な行動の責任を問えば。

 儂の眼も曇ったものだ。と隠居する宣言をしたそうだ。


 そうして、今後の話をするために私と母さんが呼び出される運びとなったらしい。


 秘書さんから話を聞き終わって、母さんが心配で戻ってみれば、拍子抜けするほど二人はにこやかにお茶していた。

 なにがあったか聞くのは野暮だと思うほど幸せそうな二人に結婚すると言われて、私は素直に祝福の言葉を贈った。


 その足で邸内に居るおじいさんに、じゃなくてお祖父様に報告へ。


 そこでは、今のお祖父様には利益が無いはずの秘書さんとの結婚を勧められた。

 まだ何か企んでいるのかと思いきや、なんと秘書さんが過去に、妻にするなら私がいい。なんて言っていたそうだ。

 ま、本当かは微妙なとこだけど。

 それを聞いて、まだ結婚なんて早い、から、娘を嫁になんて絶対行かせたくないとまで言い出した父さんとお祖父様が揉めていたけど、なんだか楽しそうだった。


 お祖父様の辞任と、両親の結婚、私の存在が速やかに公表されると、学園での嫌がらせがピタリとやんだ。

 代わりに、報復を怖れてかこちらを怯えた目で見てくる。

 今はやり返す気はないけど、いつか使えるかもと考えてしまった私は、確かに祖父の血を引いているんだろう。


 さて、あの子はどうなったかという話だが。

 事実が明らかになってから暫くして退学してしまった。


 どうやら学業以外で使用したお金の返済を祖父に求められたらしい。ブランド品やら豪遊やらで結構な額だと予想される。

 これには同情はしない。私が言えるのは、お祖父様はケチなのではなく、恐ろしい人だということ。


 同情すべきは、学園での立場だった。

 結果的にあの子が嘘つきになってしまったのだ。

 周りの視線は冷えきっていて、あの子は俯きがちになり、生活が苦しいのか、かつての華やかな美少女は面影もなくなっていった。


 私も彼女にどう対応すべきか悩んだ。何を言っても嫌味に聞こえるだろうし、そっとしておく方があの子の為だろうと思った。

 しかし、忘れ物を取りに戻った放課後の教室で、あの子と以前仲のよかった子達が、俯き小さくなっているあの子を罵っている場面に出くわした。


 止めに入ろうとした瞬間、あの子が、抱えた鞄から包丁を取り出し振り上げた。

 考える暇もなく、私はとにかく慌ててあの子の前に飛び込んだ。


 女子の甲高い悲鳴が上がり、あの子は震える手から包丁をこぼした。

 私はというと。興奮していたのか、手の甲についた薄い切り口から血が垂れているのに、ちっとも痛みを感じなかった。


 騒ぎを聞き付けて生徒達が教室の入り口に集まると、人を掻き分け王子と先生が入って来た。

 王子は私に駆け寄ってハンカチで止血し、先生は逃げようとしたあの子の手を掴み、包丁を足で押さえてから私達に状況説明を促した。


 その日を境にあの子は学園に来なくなって、後から学園を自主退学したと先生から教えてもらった。


 大事にならなかったのは私が皆にそうお願いしたからだ。

 あの子だって大人に振り回された被害者で…もし私が違うかたちで真実を知った時は逆の立場になっていたかもしれないから。


 住んでいるはずなのにアパートのお隣は恐ろしく静かだった。私は包丁を持つあの子が飛び出してくる夢にうなされる日が続いた。

 心配した両親は大急ぎで一緒に住む家を借りてくれた、おかげで引っ越してからは夢に苦しむことは減っていった。




 そして現在。

 新しい悩みが出来た。

 両親が毎日ラブラブ過ぎる。

 母さんが毎日幸せそうで嬉しいんだけどね。


 放課後、そんな事を考えながら廊下を歩いていると、後ろから女子に声をかけられた。

「――さん!あの、お願いがあります!」

 振り向くと、眼鏡の女子が勢いよく頭を下げた。

 確か隣のクラスの子だ、よく一人で居るので密かに仲間意識していた。

「えっと、内容にも寄ります。」

「あたし、趣味でゲーム作ってて、貴女の事ゲームにしたいの。」

「は?ええ?」


 聞けば、乙女ゲームというものを個人的に作っていて、私を主人公にしたいと言う。

 趣味といいつつ、その手の業者にお願いして、販売できるレベルの代物になるらしい。

 さすが、金持ちの趣味は規模が違う。


「でも私が主人公じゃつまらないと思うよ?ここにだって巻き込まれて偶然いるだけだから…。」

「巻き込まれ系主人公でしたか!一般人だと思っていたヒロインが美少女ざまぁして逆ハーなんて最高じゃない!」

「…?ごめんね、ちょっとよく解んないんだけど。」

 鼻息荒めに迫られて、半歩引く。

「あっ、ごめんなさい。その辺も含め、学園のイケメンに囲まれる迄を詳しく教えて欲しいの、絶対迷惑かけないから、契約書も書くから。」

「えぇと、何か誤解があるみたい。確かに私みたいなのが実はお嬢様なのは驚きだとは思うけど、その、イケメンに囲まれているっていうのは気のせいじゃないかな?」

「大丈夫!あたし逆ハーレムには理解があるの、大まかな調べはついてるから、貴女の心情を包み隠さずに教えて?」


 逆ハーレムだと思われていたなんて大丈夫じゃないよ…!

 とゆうかこの子何を知ってるの?怖いよ!


「た、確かに親しくさせてもらってるけど、夏の長期休みにはよく誘われたけど、告白とかされた訳でもないから、ホント私なんて対象にもなってないから。私だって、生徒思いの先生と、優しいクラスメイト、尊敬できる先輩、大型犬みたいな後輩だって思ってるし、ハーレムなんて考えてもないから。」


「…凄いわ!…鈍感系?いえ、卑屈系かしら?本物だわ…!」


 自分の世界に入ってしまったらしく、ぶつぶつと呟いたのをよく聞き取れなかった。困ったな、今度は何が凄いのか。

「あのー、ごめんね、よく聞こえなくて、もう一度「何してんの、バイト遅れるよ?」

 ひゃっ。

 いつの間にか後ろに王子が立っていた。

 最近学園内でもよく心配して声をかけてくれる、もしかして絡まれてると思って助けてくれたのかな。

「今ね誤解を解いてる「良かった、ここにいたか。」

 今度は先輩が階段を登ってきた。

 図書館以外で会うのは珍しい。

「この前読みたいと言ってた本が手に入ったん…だ、悪い、取り込み中だったか?」

「あ、いえ、わざわざありがとうございま「あ、センパイ。」

 上の階から降りてきた後輩の長身君が私に気付いて挨拶してくれる。

「珍しい面子っすね、センパイ何かやらかした?」

「ち、違うよ。あのね、この子が「なにやってんだお前ら、寄り道せずに早く帰れ。」

 ついに正面から先生まできてしまった。


「…凄いわ、これが主人公の力…。」

 彼女が何を言っているのか解らないけど驚く気持ちは分かる、こんなに都合良く学園で彼等が揃うのを私も初めて見た。

 夏祭りの時も思ったけど、この人達が集まると迫力が凄い。

 よし、早く解散しよう。

「ねえ、さっきの話の続きはまた今度にしよう?」

「駄目よ。」

 …えぇ。即答ですか。


「先生。あなたはただの生徒思いの先生のままでいいんですか。」

 ちょちょ、この子急になに言い出すの?

「…ん?」

 ほら、指差された先生も困ってるよ。


「王子クン。あなたはただの優しいクラスメイトのままでいいんですか。」

「え。」


「先輩。あなたはただの尊敬できる先輩のままでいいんですか。」

「…。」


「一年生。あなたはただの大型犬みたいな後輩のままでいいんですか。」

「はぁ?」


「これがあなた方に対するヒロイ…その子の気持ちです。それでいいんですか!狩り(攻略)は本気でやらねば獲物は捕まりませんよ!!」

「「「「…!!!!」」」」


 何私の気持ち言ってくれちゃってるの、この子は!恥ずかしい!

 そしてこの張り詰めた空気は何!?みんな、その視線のやり取りは何!?


「よし、じゃあ帰りましょうか。」

「え!?」

 何その、いい仕事したわー的な顔?!親指を立ててグッとかいいよ!


「え、えーっと?じゃあ、みんなまた明日。い、行こっか。」

 とりあえず本能がヤバいと言っている気がした私は、彼女を連れだってそそくさと逃げ出したのだった。



 私が主人公なんてあり得ない。私は私の役名をまだ探している最中。


 未来の私だけがこの先の物語を知っている――。



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