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第Ⅰ章 6話 【運命の出会い】

――――――――――――――――――――――――――

「目を開けると、そこは知らない場所だった」

 うん、一度言ってみたかったんだよなこの台詞。俺は今の状況に最適な台詞を言えたことにちょっとした満足感を味わっていた。

それはいいとして、本当にここはどこなんだ?視界一面に白いペンキをぶちまけたような果てしなく広がる白い空間。天井も床も壁もどこまで広がっているのか、まるで真っ白な宇宙の中に立ってるような感覚だ。確実に俺の部屋ではない。

 たしか俺は自分の部屋で魔法陣の練習をしていて、プリンを供物に大物を召喚をしようと試みていたんだ。そしたらすごい光が魔法陣から溢れてきて…そうだ!あの声!あの重低音の声に導かれたんだった!あの声の主はどこだ?魔法陣が正しく機能したなら魔王とかがいてもいいはずだ!きっと俺はあの時、魔王の力でここに、異世界に飛ばされてしまったに違いない。絶対そうだ!けど辺りを見渡してみてもそれらしい者は居ない。居るのは供物のプリンをもぐもぐと頬張る幼女だけ。うん、なんであの幼女は俺が魔王に捧げたはずのプリンを食ってるんだ?

 とりあえずこの空間には俺とこの幼女しかいないみたいだし、声かけてみるか。気を付けろよ俺。最近の世の中は知らない子供に声をかけるだけでその親が、うちの子を誘拐する気だの変態だのと騒ぎ立てるからな。こないだも迷子に声をかけただけで変質者扱いされかけた。全くもって遺憾である。他人の優しさを素直に受け入れられないなんて生き難い世の中になったもんだ。

「あ、あの…」

 俺は思い切って声をかけてみる。プリンのもぐもぐタイム中だった幼女は俺の声に反応してくるっとこっちを振り返った。そして俺はすぐに後悔することになる。

「…やばいかも」

 その幼女がロリコンでもない俺ですら息をのむほど綺麗だったからだ。幼女に対して綺麗っていう感想もどうかと思うだろうが、綺麗という言葉はこの子の為にあるんじゃないかって思ってしまうほど綺麗だった。嗚呼、ロリ万歳。

 さらさらとした長い髪ももちもちしてそうな肌も雪の様に白く透明感があって、ほんとに透けてるんじゃないかって思いそうなほど色素が薄い。小さな顔の中でもひときわ存在感のあるピンクと空色のオッドアイは、顔から零れ落ちそうなほど大きく、キラキラと澄んでいる。けど唇だけは血みたいに真っ赤で少し不気味な感じだ。来ている服が真っ黒のゴスロリドレスなのがその不気味さを倍増させている。

 儚げでどこか妖しい雰囲気のその子は俺をじっと見上げてくる。俺も思わず見つめ返してしまう。

 先に耐えられなくなって口を開いたのは俺だった。沈黙が気まずすぎる。

「あ、あの…お嬢さん?フヘッ。お、お兄さんと、ヒヒ…ちょっとお話ししないかい?フヒヒ…」

やべぇ緊張して変な笑い声が出てしまった。これじゃ世の中がどれだけ優しくても変質者確定だ。その証拠に俺を見る幼女の視線もとてつもなく痛いものを見る目に変わりつつある。やめろ、綺麗な顔でそんな目をしないでくれ。余計にダメージが大きくなるから。

 深呼吸してもう一度最初からやり直す。

「ふぅ…ごめんね?あのさ、お兄さんと少しお話ししないか?」

今度こそうまくいったと思ったが、幼女の目はいまだ冷たいままだ。また沈黙が続く。

「…お、おーい」

 まさか耳が聞こえないとかじゃないよな?視線が痛いのは単に俺の勘違いか?

「そ、そうだよな。この俺が見ず知らずの幼女にこんな目で見られるわけないよな。ありえないな」

「黙れ小僧」

幼女の凛とした鋭い声が響く。どうやら聞こえていたようだ。しかし第一声が有名なあの白い山犬の母と同じセリフとはなかなかである。ほっぺたにプリンのカラメルが付いてるせいでなんとも締まりがないが。

「ここは我のみが立ち入れる場所であるぞ。小僧、何故居るのだ」

「いや、俺もよく分からないというか気付いたらここに居たというか」

「そうか。だが理由などどうでもいい、目障りであることに変わりはない。即刻消え去れ」

この子見た目とのギャップやばいな。自分から聞いといてどうでもいいとか、振る舞いが横暴すぎるぞ。

「あのさ、とりあえず年上の人には敬語を使いましょうって教わらなかったのか?」

「フッ、貴様の何倍も生きておるわ。舐めるなよガキが」

鼻で笑われた。なんか顔が綺麗なだけにすごく腹が立つ。

「おいおい、年上を馬鹿にしちゃダメだぞ?どう見てもまだ6歳くらいじゃねぇか」

「相手を見た目で判断するなと教わらなかったのか?姿だけではなく頭まで残念なのだな」

こんのガキっ…人がいい顔してるからって調子に乗りやがって…!俺は震える拳を押さえつける。落ち着け俺。キレたって意味がない。穏便に行こう。

「ふー、まぁいいや。とりあえずここがどこなのかだけでも教えてくれないか?本当に何も知らないんだ」

「ふむ、嘘はついていないようだな。いいだろう教えてやる。貴様の頭でも理解できるといいがな」

意外とすんなり聞いてくれた。相変わらず態度はでかいが。

「これがこの空間の外の景色だ」

 幼女が壁に手のひらを向けると、そこに映像が映し出された。埋め込み型のスクリーンか?

 荒れ果てただだっ広い荒野の真ん中にでかい城が建っている。なんとも禍々しいその城は何者も寄せ付けない異様な威圧感を放っている。俺はこの城を知ってる。何度も訪れたことがある、妄想の中で。

「まるで魔王城だな」

「まるでではない。魔王がこの世界の王であることを知らしめることのできる、正真正銘の、本物の魔王城だ」

「え!?まじ!?」

すげぇ!俺今、魔王城にいるよ!テンション上がる!!俺はさっきまで幼女に対してムカついていたことなど忘れて、キラキラした目を向ける。

「これ夢じゃねぇよな?本物だよな?まじかよ嬉しすぎる!!」

「魔王城に居るのがそんなに嬉しいか。見た目通りに可笑しな奴だ」

当たり前だろ。周りに馬鹿にされても夢見た世界だ。喜ばなくてどうする。

「てことはもちろん魔法があるんだよな?勇者は?魔王は?」

「魔法ならどこにでもあるではないか。本当に何も知らない阿呆なのだな」

そう言って幼女は手のひらに黒いブラックホールのような球体を出現させる。ほぉぉ!!すげぇ!!

「今貴様が見ておるこの映像も我の魔法だ」

「これスクリーンじゃなかったのか!」

「すくりーん?なんだそれは。そんなもの知らん」

そう言って幼女は手の上の球体と映像を消す。

「しかし貴様からは魔力(マナ)を微塵も感じないな。貴様など所詮その程度の雑魚というわけか」

「なんか腹立つ。雑魚とはなんだ、雑魚とは。俺はいずれ勇者となり世界を救う男だぞ!」

「勇者?ハッ、笑わせてくれる。勇者に何ができるというのだ。前に勇者と呼ばれていた人間は魔王の一撃によって一瞬にして塵と化したぞ。あまりに弱い、哀れな男だ…」

まさかそんなはずはない。勇者は絶対的な強さを持っていてこその勇者だ。魔王に一切敵わないなんて、この世界の魔王はどうなってるんだ.

「魔王は?魔王は今もこの城に居るのか!?」

俺はゴクリと唾を飲み、幼女の言葉を待つ。

「今貴様の目の前にいるではないか」

「は?」

「我こそがこの世界の絶対的な支配者、魔王アメジスティア・サティアである」

待て待て、この幼女が魔王?この城の主?勇者ですら敵わない魔王?何かの間違いだろう。それに、

「仮にお前が魔王だとする。それなら俺がここに来るきっかけになったあの声は一体誰なんだよ?俺はてっきり魔王に呼ばれたと思って…」

「声?」

「お前さっきプリン食ってたろ?俺の母さんが作ったプリン。それを求める声がしたんだ。いかにも魔王ですって感じの低い威厳のある声」

俺がそういうと、魔王は「あっ」と声を上げた。

「なるほど、そういうことだったか。貴様の姿がおかしいのもそれで説明がつく」

と、一人で納得し始めた。おい、俺はまだ何も分かっちゃいないぞ。説明しろ。うんうんと勝手に頷いている魔王へ訴えるように視線を送る。

「ん?なんだ貴様まだいたのか」

「その言い草はないんじゃねぇか?いいから早く説明しろよ。もうお前には分かってるんだろ」

俺はあまりの言い様に少しイラッとしながら答えを急かす。

「そう急くな、いずれ分かることだ。それに我はもう何も話すことなどない。早く消えろ」

そう言ってテコテコとどこかへ歩いていく。こいつはもう何も教えてくれそうにないな。

 俺がどうしようかと考えていると、魔王がふわっと髪をなびかせてこちらを振り向いた。そして無言で俺の上を指さした。

 その先を辿ってみると俺の頭上から淡い光が降ってきていた。まるで天からのお迎えみたいな感じだ。なんだこれ、徐々に身体が軽くなっていく。そしてついには俺の身体がふわりと浮き上がり宙に浮いた。

「お、おい!これはなんだ?どうしたらいいんだ?なんか光に吸い込まれてってるんだけど!?」

魔王は俺の叫びなど聞こえていないかのようにじっと遠くを見つめながら言った。

「最後にひとつだけ言っておくぞ。我は弱い者が大嫌いだ。だから“勇者”も嫌いだ。もしどこかでまた会うことになろうとも、二度と勇者の話をするな!」

その顔に少しだけ、本当に少しだけ寂しそうな表情が浮かんだ気がした。光に完全に吸い込まれる直前にそんな顔を見てしまったせいか、俺はこの時のこいつの表情を忘れることなんてできないだろうと思った。きっと、この先もずっと。

――――――――――――――――――――――――――


次話更新は少し間が空きますが…6月15日予定です。

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