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第Ⅰ章 4話 【目覚め】

混乱するといけないので…

今回は前話と時間軸が違いますのでご注意を!


時間軸の変化がある場合は――――――←この線が引いてありますので覚えておくと今後読みやすいと思います。

――――――――――――――――――――――――――

 広大な荒野の中心にそびえたつ巨大な魔王城。その王座の前で対峙する城の主である魔王と、正義の心で悪を滅ぼさんとする勇者。勇者はこの時を待っていたとばかりにニヤリと不敵に笑う。勇者は心身共に闘志で震えていた。

 我は勇者。この世界の守護者として魔王を倒す、それが我が運命(さだめ)…今こそ悪を倒しこの世界に再び平和をもたらさん!

「我が真名()魂の還る聖域(ソウルサンクチュアリ)!さぁ悪しき魂よ、我が右目に宿りし邪神と共にその身を焼き尽くせ!究極の虚無(アルティメットボイド)っっっっ!!!」

 ……ふっ、他愛ないな。魔王すら我が前では赤子同然か…



「…さん、神之さん。授業中に急に叫んだり立ち上がったりするのは迷惑です。あと黒板が見えないので早く座ってください」

ん?我の名を呼ぶものは誰だ?周囲を見渡すと呆れたような顔や苛ついた顔など複数の顔がこちらを見ていた。目の前には見慣れた黒板と担任の先生。後ろには()の名前を呼んだ学級委員の女子。

「す…すいません…座ります…」

 一瞬で現実に引き戻された。そうだ、今は授業中だった。ノートに新しく思いついた呪文を書き留めていたらまた自分の世界に没頭していたみたいだ。くそぉ、いいところだったのになぁ。けど後ろからの視線が魔王より冷たい。…うん、これ以上没頭するのはやめておこう。俺は大人しく授業を受けることにした。


 俺は神之洸汰(かみの こうた)。18歳。どこにでもあるような平凡な家庭で生まれ平凡な見た目に育った平凡な高校生だ。他とは違う部分を挙げるとすれば中学校1年の時に患った厨二病が高校3年になった今でも治らないことだろう。アニメや漫画に登場する勇者に憧れ、自分にも秘めた力が宿っておりいつか世界を救うんだと本気で信じていた時期もあった。流石に高3にもなれば現実はそう甘くないと理解はしているが、さっきの様に自分が勇者でいられる世界に没頭しすぎて周囲から白い目を向けられることも少なくない。放課後の今だって俺を見て「またあいつ授業中に発狂しやがった」「キモオタまじうざい」「厨二乙」などと有象無象(クラスメイト)共が見下してくる。だが俺は厨二病を治そうとは思わない。

「俺だって男だ。かっこいいと思うものに憧れて何が悪い!どうとでも言いやがれってんだ!」

俺はいつものように心の中で叫びつつ帰る準備をする。面と向かって言ってやるほど俺は暇じゃないんでな!決してビビってるわけじゃないぞ!ビビってなんか…

 急いで荷物をまとめると俺は誰よりも早く教室を出て帰宅する。学校が終わるとすぐに帰るのが俺の中での決まりだ。なぜって?奴に捕まると面倒だからだ。奴は今も俺の隙を伺っている。俺が歩くペースを上げると奴も同じペースでついてくる。くそ、今日もなかなか振り切れそうにないな…仕方ない。今日は特別に俺の聖域に招き入れて迎え撃ってやるか!家に着いた俺は奴と一緒に聖域(自分の部屋)へと入った。

「さぁ、ここなら思う存分やれる。どこからでもかかってこい!お前の力を見せてみろ!!」

奴は動かない。ただ殺気だけが肌を刺すように伝わってくる。

「そうか、そっちから来ないなら俺が先手を頂くぞ!」

俺は腰に隠し持っていたビームサーベル(¥2000)を抜くと奴に突進する。すると奴も剣を抜いて俺に向かってくる。お互いの武器がぶつかり合いキィンッ!と金属音が響き渡る。ビームサーベルから金属音がすることはこの際気にしない。俺が右を狙うと奴も右を狙ってくる。まるで鏡だな。その後も互角のせめぎ合いでなかなか決着がつかない。長期戦に持ち込むのは体力的にまずいか。こうなったらアレを使ってみるか!

 俺は疼く右眼に手を翳し、一番かっこいいポーズを決めて叫んだ。

「封印されし我が魔眼よ、今こそ解放の瞬間(とき)だ!さぁ、我に力を!!!」

………何も起きなかった。

「我に力を!!!」

…………………何も起きなかった。

「くっ、何故だ!我にっっ!!ち・か・ら・をぉぉぉおお!!!」

バァンッッッ!!!!!!

「うるっっっっさいわね!!!静かにしなさいよこの愚弟が!!!」

魔眼によって召喚された般若がドアを蹴破って現れた。あ、違った、姉さんだ。

「毎日毎日よく飽きないわね!また『自分にしか見えないもうひとりの自分』とやらと戦ってるっていうわけ?バカなんじゃないの?厨二病拗らせんのもいい加減にしなさいよ!!こっちは久々のオフでゆっくりしてんのよ!!」

俺の姉さん、神之美琴(かみのみこと)。20歳。平凡な家系から突如産まれた超絶美人。10頭身のチート的スタイルの良さを活かしてモデルや女優として大活躍中の神之家の自慢の娘。しかし俺にとっては小さい頃から比べられてきた最恐最悪な因縁の相手だ。運動神経も勉強も姉さんには敵わない。口喧嘩や殴り合いの喧嘩ですら勝てたことはない。姉さんは確実に悪魔か何か憑いてる。

 だけどやられっぱなしは男として悔しいもんだ。よし!今日こそぎゃふんと言わせ「なによ?」……なにか言い返してやる!!

「ね、姉さんだって…ひ、人の部屋に入ってくるときはノックくらいしろ…してください」

…なんて情けない。まるで生まれたての子猫にも負けそうな声だ。けどこれでも頑張ったんだ。少しでもいいからダメージになってくれ!

「…ノック?あぁノックね。したわよ、それはもう激しくね。ドアがアンタの顔に見えたから本気で叩いてやったわ」

般若の顔が徐々に真顔になり、そして笑顔になっていく。目は笑ってない。あ、これやばいやつだ。姉さんに言い返すという行為は、火に油を注ぐどころかガソリンスタンドでキャンプファイヤーをしたようなものだったらしい。

 満面の笑みを浮かべた姉さんはゆっくりと俺に近づいてくる。俺は思わず後ずさりをした。くっ…本棚があってこれ以上下がれない!尻餅をついて少しでも姉さんから離れようとする。すると俺の大事な部分から数センチずれた床にドンッと勢いよく姉さんの長い脚が振り下ろされた。

「ひぃぁっ!!」

思わず変な声が漏れた。あぶねぇもう少しで女の子になるところだった。そんなこと言ったら「妹が欲しかったから丁度良い」とか言って次は本気で狙いに来るだろうから黙っておく。

 姉さんは笑顔のままゆっくりと顔を近づけ、怖いくらい優しい声で囁いた。

「私が家にいるときくらい自重して静かにしてね?妹になりたくはないでしょ?」

ブンブンと俺は必至に頷く。怖ぇよエスパーかよ。もう声も出ない。そんな俺を見た姉さんは、スッと真顔に戻ると自分の部屋に戻っていった。俺はもう呆然とするしかなかった。


 俺の脳が再び稼働したのはそれから10分後のことだった。日課であった「空想上のもう一人の自分」との戦いを邪魔された俺はやることがなくなってしまった。静かにしろと脅された手前、もう戦闘系の妄想には浸れない。俺はスカートなんて履きたくないからな。

 静かにできることか…そうだな、魔法陣(ペンタクル)の練習でもするか!俺はベッドの下に隠していた大きな画用紙を数枚取り出して床に敷いた。今日は大きめの陣を描いてみよう。いつも通り綺麗な円と模様を手際よく描きこんでいく。一通り描き終えると少し離れて全体図を見てみる。うん、我ながら上出来だ。…けどなんだろう。何かが足りない気がする。線が足りない?いや違うな。うーん、たまには供え物でもしてみるか?そう思った俺はキッチンに向かった。

 冷蔵庫を開けると色んなスイーツがぎっちりと隙間なく並んでいた。母さんの趣味がスイーツ作りなのはいいんだが、いつも冷蔵庫をほとんど占領するほどの量を作るのが問題なんだよなぁ…美味いからいいんだけど。

「どれにするかな。無難にショートケーキか、それともモンブランか。オーチャードフルーツケーキも捨てがたいな。てかそもそも魔法陣に供えるものがスイーツってどうなんだ?」

 俺が冷蔵庫とにらめっこをしていたその時だった。

《…プリン》

確かにそう聞こえた。

「ん?誰だ?姉さん?」

しかし見渡してもキッチンには誰もいない。気のせいか?とりあえず一番近くにあったカステラを手に取って部屋に帰ろうとする。

 するとまたあの声が。

《プリンだ、プリンにするのだ》

今度ははっきり聞こえた。まるで地の底から聞こえるような重低音の声だ。

 俺はカステラを戻してプリンを手に取ってみる。

《………》

「………」

今度はプリンを戻してタルトを持ってみる。

《だっ、駄目だ!プリンにするのだっ!それ以外は認めんぞっ!》

「プリン大好きかよ」

重々しく威厳がある声が台無しだ。

 そもそもこの声はなんなんだ。さっきからプリンを催促してくるんだが…まさか!このプリンを魔法陣に置けば声の主が召喚されるのか!?俺としては願ってもないことだ。やっぱり俺には秘めた力があったのか!この声は魔王とか地の王とかきっととてつもなく強くて大きな存在に違いない!やばい、やばいぞ。興奮で全身が震えてきたっ。俺は急いで部屋に戻り呼吸を整えた。いよいよだ。俺がずっと夢に描いてきた事が現実になるんだ。落ち着け、落ち着くんだ俺の心臓!

 俺はゴクリと唾を飲みこむと、ゆっくりと魔法陣の中心にプリンを置いた。


 その瞬間、部屋中がとてつもなく眩しい光に包まれた。

――――――――――――――――――――――――――

次話更新は5月18日20時予定です。

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