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山吹紅葉は生徒会長! ―前世は中世に生きた魔女―  作者: 冷水
第一章:生徒会長。二学期~
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始業式と生徒会長挨拶

短編2 の改編。


 八月の下旬に差し掛かると、夏休みが終わりを向かえ、始業式が開かれる。

 この学校は三学期制なので、夏冬春の順番で、年に三回の長期連休がある。

 ただし他の学校と違うのは、休み明けの始業式と同時に、学期末試験の結果にしたがって生徒会長の交代が行われること。

 

「私は、一年八組の山吹紅葉(もみじ)です。新学期から生徒会長を(つと)めさせて頂きます」

 全校生徒、一万人の前で挨拶する。


 長期連休の影響なのか、眠そうにする生徒や、嫌そうな顔をしている生徒が目立つ。

 これだけの生徒がいるのに、式典だけは一般の学校と同じ回数を実施するのも、効率が悪く感じてしまう。

 聞いた話によると、前日には『式典管理委員会』という百名規模の委員会が、会場の準備を行っているという。準備に参加すると、報酬としていくらかの金券ポイントが支払われるので、年に何回かのイベントを目的にして所属する生徒も多いらしい。


 そのポイントは、学生証がICカードとなっていて、前述したポイントがそこにチャージされる。校内の売店や、学校の隣にあるショッピングモールで使用できるなど、嬉しい機能がついていた。

 そんな私も、もうすぐ生徒会長の報酬である六万円分のポイントが入るので、演説中にも関わらず顔がにやけそうになる。

 ポイントが入ったら買いたい服があって、今から楽しみで仕方ない。

 授業も免除されるので、学校にいる時間を自由に過ごせるようになる。


 挨拶が終わり一礼して下がると、今度は成績二位で副会長に選ばれた生徒が壇上に上がる。

 そこには、一学期で生徒会長を務めていた最上(もがみ)(つるぎ)という男子生徒がいて、入れ替わりで挨拶を行った。

 二位の副会長には授業の免除はないものの、こちらも二万円分のポイントが受け取れるので、学生としては十分すぎる待遇と言える。


----

 私には秘密がある。

 それは、前世を覚えていることであり、悲惨に死んだ魔女の魂を持っていること。

 どうせなら、記憶など戻らなければ良かったのに、思い出したくなかった。

 数百年後に生まれてみれば、魔女狩りの過去なんて忘れられ、魔法が生活の一部となっている。


「最上さん。私の顔に何か?」

「いえ、とても凛々しいなと」

 微笑みながら気障(きざ)な台詞を吐いてきて、私の顔に不審な点でもあるのか。

 (かたわ)らに置いてある手鏡を見れば、普通の少女が映っている。黒髪で茶色い瞳をしていて、無愛想に目を細めている。

 前世と比べれば、私の顔は劣っている。特段、可愛いとも思えない。

「下級生を口説いて、面白いですか?」

「会長はもう少し、自信を持っていいですよ」

 内心を見透かした言葉をつぶやくのは、最上の隣りにいる女子生徒で、生徒会書記の三崎(みさき)愛歌(あいか)さんである。メガネを掛けて優等生然とした姿の、二年の先輩だった。

 生徒会の中で書記と会計だけは、実務のトップとしての役割があり、選挙で選ばれる。任期は当選から一年間で、途中で変わることはない。


 学校から数百万円の予算を任せられた生徒会は、委員会や部活動への補助、文化祭等のイベントに使う予算配分の権限がある。

 企業で言えば、部長や役員にも届きそうなほど、自由な裁量が許されている。

 この経験のおかげか、生徒会役員を務めた者は、優秀な卒業生が多かった。学校傘下の企業では、高卒なのに大卒と同じ待遇と初任給が貰えたりする。


「会長。初仕事です」

「これは何? 三崎さん」

 三崎さんは、数枚の申請書類を手渡してくる。

 そこには、予算の異議申し立てと書かれた紙と、一枚のイベント申請書が入っていた。イベントの名前は『決闘』で、先生のサインが入っている。

「決闘ですか」

「この高校では、会長が矢面に立って、生徒の異議を正します。負ければ便宜(べんぎ)を計り、勝てば任期中は無茶を通せます」

 少し物騒な名前だけど、ルールが定められたスポーツで、相手を無効化すれば勝ちである。

 基本的には期末試験の科目の一つで、全校生徒でトーナメント式に競いあう『魔法実技大会』と同じ規則が適用される。


「面白そうですね」

「大手の部活動なんかは、交代時期を狙って挑んできます。私用がない限り、一日に4件以上の決闘を受ける義務があって、生徒会の恒例行事です」

 学校への不満が、そのまま体制のトップへ向くようになっている。

 実力でねじ伏せれば敵を作ることになり、次の任期で会長を降ろされたら、陰湿ないじめを受けそうな構図である。

 その為の『授業免除』だとしたら、ある意味で恐ろしい。


「連戦の疲れで、何回か負けることもあるので、気負わなくて大丈夫ですよ」

 三崎さんは笑顔を浮かべつつも、どこか品定めするような視線を向けてくる。負けると何か、不都合でもあるのか。

「負けが多いと、どうなるんです?」

「これを」

 そう言うと三崎さんは、唐突にお茶とお菓子を目の前に出してくる。

 うん。美味しい。

「これが、何か」

「予算が減ると、生徒会は贅沢ができなくなります」

 元々、成果が少ない委員会や部活動には少なめの予算を提示してあり、その分を生徒会が自由に使っても黙認されている。

 あまり露骨だと、生徒会監査の先生が居て指摘されてしまうが、特権の一つだと言う。

「出来れば、負けないでくださいね」

 ここは本当に、日本だろうか?と、少しだけ疑わしくなった。

 日本で生活していた『私』の記憶を探っても、こんな先鋭的(せんえいてき)な教育を施す学校は知らない。


 ある意味では外資系企業に似ていて、成果によって報酬が上がったり、裁量で使える予算が増えたりする。部長とかになれば、子会社を任せられたのと同じ程度の権限と、聞いた事がある。

 まるで、学校ではなく会社である。


「では、今日のうちに受けましょうか」

「はい。手続きしておきますね」



---

 学校の第二体育館に立っている。

 ギャラリーには生徒会のメンバーが居て、目を向ければ三崎さんが手を振ってくる。

 好かれるような態度を取った覚えはないが、三崎さんは人懐っこい性格をしているようだった。

 最上さんは、上級生らしい澄ました表情で見下ろしている。


 私は、一人の男子生徒と向き合っている。

 たしか苗字は遠藤(えんどう)で、この学校の図書委員長だったと思う。

「立会いは、体育教師の白沢(しらさわ)晴之(はるゆき)が担当する。両者、いいですか?」

「はい」

 遠藤さんは魔法実技の大会で、準決勝までは出ていたはずだ。文科系の委員長なのに、ばりばりの武闘派である。

 実技大会では本気を出さない人も多いけど、実質的には学校のトップ四に入る実力者でもある。


「殺傷力の高い魔法や武術、後遺症が残るものは禁止。当身(あてみ)によって多少の傷や(あざ)が出来ても、回復魔法が使える者が控えているので、残ることはありません」

 白沢という教師が、淡々とルール説明をしていく。

 終盤になり、横幅が約15メートル、縦28メートルの赤い線を指し示す。

「この赤い線の外側に追い出すか、戦闘不能にすること。床に背中がついた場合も、敗北となります。では……」

 視線を交わしながら、私と遠藤さんは頷いた。

「始め」



----

 相手との距離は15メートル離れている。

 私は鏡を使って、魔法ではなく魔術を使う。

 硝子(がらす)に銀やアルミの鍍金(めっき)が施された物でも良いし、前世を思い出した私には、左右が反転した鏡像(きょうぞう)が映るものであれば、何でも構わなかった。

 故に、この世界ではメジャーな、氷を作る魔法を使う。


「割れ降る鏡、氷の(やいば)氷刃(ひょうじん)――」

 呟きながら手を叩くと、氷で出来た鏡が現れる。

 本当は恥ずかしい言葉(詠唱)はいらないけど、魔法に見せるために必要なことだった。


 私の背丈ほどの鏡が現れて、一瞬後には割れて散っていく。やろうと思えば、その破片で相手を攻撃する事も可能だけど、それをすれば反則になる。


 一方の遠藤さんは、杖や補助器具を使わずに魔法を発動する私に驚いていた。

 珍しくはあるものの、校内で使う者がいない訳ではない。西洋の流れを汲む魔法の一部や、魔術と呼ばれる上位の技術であれば、出来て当たり前だった。


 それを見て焦ったのか、遠藤さんは物凄い速度で迫ってくる。普通の速さではないので、身体能力を上げる魔法を使ったと思われる。

 牽制に、僅かに光った風の魔法を発動していて、私めがけて淡い光が飛んでくる。直撃すれば、よろめく程度には威力がありそうだった。


「咲き誇れる、万華鏡――」


 地面に散らばった氷の鏡が、遠藤さんの魔法を映す。すると、一瞬後には全ての魔法が打ち消され、そよ風だけが通りすぎる。

 ただし、それだけでは終わらない。

 代わりに、鏡から同じ魔法が放たれて、遠藤さんを襲う。

 それも、割れた鏡の数だけ。


「え? あ? ちょっと!」

 急には止まれない速度でぶつかれば、威力の弱い魔法でも、体勢を崩すことが出来る。

 それも、遠藤さんは足元の氷を踏まないよう注意しつつ、中途半端な格好で氷を踏み抜いた。

 つるっと滑り、綺麗に背中から着地していた。


「そこまで」

 勝負がついて、私は一歩も動くことなく勝利を収めた。

 私の戦闘スタイルを知らない者は、大抵この組み合わせで、初見殺しができる。

 最速で突撃してくれば、水を使った魔法と、冷気の魔法を組み合わせて動きを止める。

 ネズミ捕りに、ネズミが引っかかった気分になるので、とても楽しかった。


----

「お疲れ様です」

「楽勝でしたね」

 生徒会室に戻り、三崎さんがお茶を入れてくれる。

 お菓子もあって、さっき出てきたものより、少しだけ高級感のあるものに変わっていた。

「本格化するのは、これからです。本当は予算に困っていない委員会や部活動から、勝てたらラッキー程度で、小手調べに来るんです」

 三崎さんが言うには、次の決闘や魔法実技試験に向けて、皆が結託して情報を引き出していくのだという。伝統行事に乗じて、成績を上げようと企む者が一定数いて、不満のない人たちから順に挑んでくる。


 そこには、歪な連帯感があった。


 このシステムの画期的なところは、生徒が実社会に近い体験が出来ること。

 生徒の成績は公開されて、自分がどの位置にいるかを細かく把握できる。

 上がりたければ、努力を工夫する必要があって、無駄な努力は実らないことに悲観する。

 トップと中間層のあいだに、近寄りがたい壁がある事を痛感し、社会に出る前に打ちひしがれる。

 膨大な人数の中から自分を比較するから、小さい集団に対するこだわりは消える。


 自由裁量の生徒会は、お金の動かし方を学べるし、トップに君臨し続けることの甘美さを知る。

 努力を怠れば、すぐに蹴落とされる危機感を抱くし、失敗の経験はメンタルを強くしてくれる。もちろん、それで崩れる場合もある。


 委員会は完全に分業されていて、担当ごとに責任を持つ事を知り、結果が出せないと理不尽な予算が突きつけられる。

 規模の大きさから、会計書類を作るのは大変で、人数も多いから連絡方法の重要性が分かる。


 一言で表すのなら、趣味が悪い。

 現実とは違う、明確な条件が示されている違いはあるけど、高校生から知る必要があるかは疑問だった。


 そんな学校だけど、私は好ましく思った。

 良い意味で、子供っぽさが消えた環境は、心地よかった。


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