外伝 夏休みの少女 ※妹視点
主人公の妹による、一人称視点。
二番目の姉が使っている部屋には、夜の十時になっても人気がない。
規則正しく、扉を三回叩いても、誰も返事をしてくれない。
もう何ヶ月も、平日や休みの日に試しても、ただ空虚な響きが返ってくるだけ。
「お姉ちゃん……いないの?」
私の名前は、山吹柚希。紅葉お姉ちゃんが大好きな、ただの中学三年生。
優しくて、頭が良くて、歳が近いからかよく遊んでくれるお姉ちゃん。
それが変わってしまったのは、ちょうど四ヶ月前、お店で買い物途中に倒れたと聞いてから。
心配で連絡したのに、無視して電話に出てくれない。
父さんや母さんに聞いても、ただ口を揃えてなにも答えてくれない。
「あんな娘、もう知らない」
それでも律儀に、夕飯だけは作って置いておく母。寝る前に時計をチラ見して、玄関の方を気にする父。
突き放しているようで、距離感を掴みかねている様子だった。
もう何ヶ月も顔を見ていない。
姉は二人いるけれど、紅葉お姉ちゃんは特別だった。
昔から寂しいときに、添い寝をしてくれた。助けて欲しいときに、駆けつけてくれた。
頭がよくて、何でも知っている、私の憧れの人だった。
きっかけは多分、小学生の頃だったと思う。同級生から私が、いじめられたとき。
両親や一番目の姉に相談しても、真面目に取り合ってもらえず、悲しくて泣いてしまった。
学校で先生に相談しても、突き放されて何もしてくれず、ただ絶望するだけだった。
真剣に聞いてくれたのは紅葉お姉ちゃんだけで、私に解決できる知恵と勇気をくれたのも、紅葉お姉ちゃんだけだった。
周囲から引かれるくらい、私は紅葉お姉ちゃんが大好きだった。
もちろん、友達も出来たし、今は両親や姉とも上手く付き合っている。
それでも、私が家族と認めるのは、紅葉お姉ちゃんただ一人だけ。
もし何かに悩んでいるなら、私に打ち明けて欲しかった。私じゃ解決できなくても、痛みや苦しみを分けて欲しかった。
『私に出来ることなら、何でもするから』
そうメールを送って、返ってくるかも分からない返事を待ち続ける。
お姉ちゃんなら、きっと何か理由があってそうしていると思うから、私が邪魔をしてはいけない。
今はただ信じて、待つことしか出来なかった。
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